長い文章を書くときは、あわてずに 毎日たゆまず少しずつ書いていくことで 気持ちを平静に保つ。 大勢の前でピアノを弾いたことはないけれど、 以前ピアノリサイタルの司会をしたとき、 ピアニストが盛大に弾き間違えたことがあった。 その人は冷静に聴衆に断って始めから弾き直した。 演奏の合間のトークの時間に、 ぼくは間違えたことを話題にして、 CDより生演奏のほうが音楽が生き生きして聞こえるのは、 間違えるかもしれないというスリルがあるからだと言った。 けっこう拍手がきた。 一人でしゃべる講演と、 複数で話し合うシンポジウムみたいなものとでは違うから いちがいに言えないが、 自分を実際以上によく見せようという見栄を捨てられれば、 ずっと気が楽になるんじゃないかな。 でも背伸びしないで ありのままの自分を他人に見せるのは、 簡単に出来ることではないよね。 ぼくも詩のリーディングのとき、 若いころはキリキリと胃が痛くなった。 でもいまは居直っていて平静でいられる。 暴れだす気持ちをコントロールするには、 急いで年をとるのもいいかもしれない。 例えば、長い文章(論文とか、本とか)を書くとき、 大勢の前でピアノを弾くとき、 人前でしゃべるとき‥‥普段より、 ちょっとプレッシャーがかかりますよね。 準備してるときからすごい不安にかられたりして 挫折しそうになったり、 「間に合うのか!」って焦ったり、 予想以上に自分の中に引き出しが ないことに気づいてしまったり‥‥ そんなとき、谷川さんならどうやって 暴れだす自分の気持ちをコントロールしますか?   (のん 二十四歳)