なにしろ、4年半もの間、
世界中、71人ものアーティストのあいだを回った
スケッチブックです。
そのまわりでは
本当にいろんな出来事が起こったらしいのですが、
そのなかのいくつかを、紹介しましょう。
森本晃司さんの「大失敗」!?
堤さんは、スケッチブックを回すにあたって、
いくつかのルールを決めていました。
4年半、最後まで守られたルールは
「スケッチブックは、手渡しで回すこと」
だったのですが
その間、思いもよらないハプニングが
さまざま起こりました。
最終回、第5回の対談中に
いくつか、エピソードが出てくるのですが
そこでは語られなかった
アニメーター森本晃司さんのハプニングを
ご紹介しましょう。
堤さんが、アーティストにイラストを
お願いするとき、
「画材が裏に滲んだりしないように」、
つまり
「作品が、
他のページに影響を与えないでほしい」と
伝えていました。
しかし、出来上がってきた森本さんの作品は
裏のページに、
めちゃくちゃ滲んでしまっていたそう。
この絵の、どこが滲んでしまったのか?
タネ明かしは、ひとまず置いて、
このことを、申しわけなく思ったのが、
森本さんの奥さまでした。
「じつは、ぼく、知らなかったんですけど、
森本さんの奥さんは
福島敦子さんといって、
アニメーションの世界でも
とても絵がうまくて、有名なかたでした。
そこで彼女が、
森本さんの作品が滲んだ部分を活かして
作品を描いてくれたんです。
それはそれは、とてもかわいい絵でした」
さて、森本さんの絵のどの部分が裏に滲んで、
福島さんは
それをどうやって活かしたか‥‥わかります?
そう、スケッチブックの「赤」が、
「(滲んで)Sorry」Tシャツを着ている人(?)の
おなじみの「赤いズボン」に‥‥。
「つまり、森本さんの大失敗は、不幸中の幸い!
素晴らしいアニメーターである
福島さんのかわいい絵が加わることになって、
スケッチトラベルにとっては
結果的に
とっても幸運なできごとになりました」(堤さん)
ちなみに「スケッチトラベル」をはじめた当初、
「作品は、見開きではなく
右側のページだけに描く」
つまり
「左側のページは白いままにしておく」
ことを、
ルールとして設定していたらしいのですが
1ページ目の
レベッカ・ドートゥルメールさんからすでに
「見開きで、すごい絵を描き込んでしまった」とか。
(レベッカさんの作品は
あす第5回に登場しますので、お楽しみに)
ちなみに、そのルールをつくった張本人である
堤さんご自身も、自分の番になったら
ご覧のように「見開きで描いてしまった」そうです。
ははははは。
Dice Tsutsumi
周囲に猛反対された「物忘れ王」へのオファー
長くなりますが、もうひとつ。
参加アーティストのひとり、ロバート・バレーは
ブラーのボーカリスト、デーモン・アルバーン率いる
ロックバンド、ゴリラズのミュージックビデオを
手がけるなどして有名ですが、
もうひとつ、
「とにかくモノを失くす」ことでも超有名。
堤さんが、
そんなバレーさんに「トラベルスケッチを頼む」ことを
決めたとき、
バレーさんの「元彼女」をふくめ、
周囲の人たちから「本気で猛反対された」とか。
そこで、
バレーさんがサンフランシスコへ旅行に来たとき、
「滞在しているホテルから
スケッチブックを絶対に外に持ち出さない」
ことを条件に、お願いしたそうです。
スケッチブックを渡したとき、
バレーさんは
「大丈夫、絶対に失くさないから、安心して!」と
スケッチブックを強く抱きしめながら、
会合場所であるレストランを後にしたのですが‥‥。
なんと、スケッチブックは無事だったものの
「サイフ、携帯、カメラ」など、
「他のすべての荷物」を
レストランに、置き忘れてきてしまったそうです。
さすが「鬼才」と呼ばれるバレーさん、
物忘れも「鬼」レベルだったようです。
Robert Valley
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