美術館に訪れたときに、
「図録」を購入したことはありますでしょうか?
図録とは、その展覧会の
展示作品を紹介した書籍のことです。
「書籍」ですから、当然、編集者が必要になります。
「ミヒャエル・ゾーヴァ展」の図録を、
編集者が色校正する現場に立ちあえることになりました。
図録の場合の色校正は、
「原画に近い色で印刷されているか」
をチェックする作業になります。
今回はゾーヴァさんの原画とつきあわせながら、
1ページずつ、図録の色を確認してゆくのだとか。
図録を編集された柴田こずえさんをたずねて、
某所にある「美術品倉庫」を訪れました。
何重にも施された厳重なセキュリティチェックを通って
案内されたのが、このスペースです。
色校正はすでにはじまっている様子。
梱包がほどかれ、
ゾーヴァさんの原画が次々と並べられていきます。
本物です! 本物の原画です!
映画『アメリ』
で重要な役割を果たしていた絵が!
と、こころのなかでは叫んでいるのですが、
歓声をあげることはできません。
色校正の現場には、ピンとした緊張感があふれています。
ここで歓声をあげるわけにはいきません。
中央に立つ女性が、編集者の柴田こずえさんです。
印刷されたゲラを手に、
いちまいずつ確認をされている様子。
付箋がいっぱいです。
こまかい色の指定をする柴田さん。
作業が一段落したところで
すこしだけお時間をいただいて、
柴田こずえさんのお話をうかがえることになりました。
──
すみません、こんなお忙しいときに。
よろしくお願いいたします。
柴田
こちらこそ、よろしくお願いします。
──
ゾーヴァさんの展覧会のお話を
いろいろとうかがっている中で、
「図録の編集者さん」
ということばを耳にしまして。
ぜひそういうご職業のかたにお会いしたくて、
ここまでお邪魔してしまいました。
柴田
私は図録専門というわけではないので、
くわしいお話ができますかどうか‥‥。
──
あ、ご専門ではないのですね。
ふだんはどのようなお仕事を?
柴田
絵本関係の編集です。
あとは絵本に関する取材や執筆などを。
──
なるほど。
図録の編集は、今回が何冊目になるのですか?
柴田
図録は‥‥ええと、
これで6冊目になります。
──
ご専門ではないとはいえ、6冊も。
柴田
ええ、そうですね。
──
あの、図録というのは、
展示されている原画を観たすぐそのあとで、
手にするものですよね。
柴田
はい、基本的には、
会場で購入するものですから。
──
ということは、
印刷物に原画との違いがあれば、
最も気づかれやすいといいますか‥‥。
やはり色の調整には
そうとう神経をつかわれるのでしょうか。
柴田
そうですね‥‥。
ですが、毎回こうして
原画をみながら校正できるわけではないんです。
──
そうなんですか。
柴田
画集と同じだと思っていただければ
わかりやすいと思うのですが、
原画をみられない状態で
編集を進めるケースも多いんです。
──
そうでしたか。
柴田
昔は画集をつくるために
ルーブル美術館まで色校正をしにいくとか、
そういう方もいらっしゃったと
印刷会社の方から聞いたことがあります。
でもさすがに、
今の時代そこまではできないですから。
──
なるほどぉ。
柴田
展覧会の場合でも進行上の都合で、
原画をみながらの色校正というのは
なかなかできないことなんです。
私は初めてですね。
──
はぁ〜、そういうものなのですね。
柴田
今回はたまたま偶然、
時間的にそれが可能になりました。
でも図録の進行としては遅くて、
もう、ぎりぎりなんです。
──
ぎりぎり。
柴田
通常の進行だと校正が終わったころに
原画が到着するんです。
なので、到着した絵と図案をくらべてみて、
「あ、色が違う」ということも結構あります。
──
ああー。
柴田
たぶん海外から作品が来る場合は、
そういうことが多いと思います。
──
ということは、編集作業としては
ぎりぎりでたいへんかもしれませんが、
いま、この作業、
これをやれているのは、柴田さん、
すごく楽しいのではないでしょうか?
柴田
はい、そうですね(笑)。
ぎりぎりなんですけど、
こんなふうにじっくりと原画を観られるなんて
ほんとうに珍しい機会なので。
──
実物があるわけですから、
かなり厳密なチューニングができるし。
柴田
はい。
──
クオリティの高い図録ができそうですね。
柴田
だといいんですけど‥‥そうですね。
原画に忠実に、と思いながら進めています。
──
それでは最後に、
平凡な質問になってしまうのですが、
今回の展覧会のみどころを
うかがってもよろしいでしょうか。
柴田
わかりました。
やはり、あの、原画を観ていただきたいですね。
すごい絵だと思います。
印刷物でみていたときは、
もっと大胆に描いていると思ってたんですが、
原画はすごく精緻で、
筆の跡がぜんぜんわからない絵もあるんです。
人の手で描かれたことが信じられないような
なめらかなタッチで。
──
海の表現とか、すごいですよね。
柴田
はい、海もそうですね。
そうとうな集中力と、
時間をかけて描かれたんだと思います。
──
原画を観ると、
そういうこともすごく伝わってきますよね。
柴田
それと、ゾーヴァさんは
長い年月に渡って描いてらっしゃるので、
色づかいの好みが変わってくるんですよ。
図録を作りながら、それがよくわかりました。
ページの前半はダークな色が多くて、
後半にいくにしたがって赤が入ってきたりして
あかるくなっていったり。
展覧会場でもそれはわかると思うんですけど、
観たあとで「ああ変わっていくんだ」
というのを感じられると思うので、
あわせて図録を手に入れていただけると
うれしいですね。
──
わかりました、ありがとうございます。
楽しい色校正を中断させてしまって、
すみませんでした。
柴田
いえ、こちらこそ、ありがとうございました。
柴田さんが編集された、
「ミヒャエル・ゾーヴァ展」はもちろん完成しています。
このようなかわいい表紙で。
税込価格1890円
展覧会場にて限定販売されていますので、
お出かけになられた方は、ぜひ。
さて、3回に渡ってお届けしてきた
このコンテンツも、今回で終了となります。
お話を聞かせてくださった、
3名の関係者のみなさん、ありがとうございました!
東京での「ミヒャエル・ゾーヴァ展」は、
5月11日まで開催されています。
そして6月には京都へ、
9月は横浜へと巡回してまいります。
お近くの方は、この貴重な機会に、
ゾーヴァさんの絵を観にいってみませんか?
(おわります)
2009-04-30-THU
(C)Hobo Nikkan Itoi Shinbun