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見た目より、実際手に持ったら、
想像以上の使いやすさに衝撃を受けました。
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小川 |
お鍋を食べるとき、
器にたくさん盛ると熱くて持てないでしょう。
ちょうどいい器ってないなーって思って、
10年前くらい前につくったんです。 |
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親指と人差し指と中指で
お碗を支えるように持つから熱くない。
こういうかたちって
ありそうでなかったですね。 |
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小川 |
そうなんです。
こんなのあるかな、と思って
私も探したんですが
意外にないんですよね。
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それにこれはたくさん入りますね。
それこそ、うどんでもいけそう。
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小川 |
サイズは大中小と
いろいろ作っっているんですが、
これは中サイズ。
ポトフなど具沢山のスープや、
カフェオレボールとしてもいいですよ。
私、器が重なるっていうことが
とても好きで、
これも重ねられるように
取っ手の位置を考えて作りました。
食器棚の中で場所をとらないって、
とても大切ですよね。 |
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── |
おお!きれいに重なりますね。
4人家族が全員持っていても場所をとらないし、
重ねた姿が美しいですね。
ところで、工房の看板にもありましたが
もともとは一級建築士さんだとか。 |
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小川さんの工房「Tellur(テルル)工房」。
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小川 |
そうなんです。
ただ、設計業は
やろうと思って掲げているものの、
今は陶芸一本になっているので、
そろそろ看板から外した方がいいかなあ。
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なかなかとれる資格ではないと聞いてますが、
建築士をやめて
どうして陶芸家になられたんですか?
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小川 |
建築系の大学を出て
住宅メーカーや設計事務所に勤めていたんです。
建物って
お客さんの理想や予算をなんとか調整して
あたりまえですけど、
自分の思いだけではつくれない。
私は、1から10まで
全部自分で作りたい気持ちがあって、
手を動かしたかったんですよね。
だから、自分には
建築は大きすぎるのかもしれない。
と気がついたのは、社会人も9年目でした。
もともと、大学を卒業してから、
趣味で陶芸はやっていたのですが、
ふとしたきっかけで
このアトリエが借りられることになり、
あれよあれよという間に
陶芸で独立することになったんです。
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── |
なるほど。
建築士出身だから、
器の細かい平面図があるんですね。 |
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小川 |
そうなんですよ。
前の仕事のなごりか、
私、器の立面図、平面図と寸法は
書いていることが多いです。
ただ、現実優先でどんどん修正します。
図面だけでなく自分で修正できるところが
建築より気に入ってるところなのかもしれません。
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だからかな、小川さんの作品は、
きりっとしていて手作り感が
あまりないですよね。
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小川 |
特に、今回の手つきわんは、
コンセプトがはっきりとしていて
ちょっと工業製品っぽいんだと思います。
私自身、こう、
手作り手作りしていないものが好きですし、
使いやすいものが好きなんですよね。
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手つきわんは
「細井潤治賞」を受賞されましたが、
細井さんはロフトのバイヤーさんだけあって、
選んでいる視点が「みんなが使いやすいもの」。
細井さんの選者のコメントも
「この作品は、
ただ置かれているだけなのに、
ちゃんと、つくり手の意図通りに
手に取らせる力があった。
僕は、自然と、切り取られた部分に、
スッと指が入りましたからね。
商品として、力があると思います」
ということでした。
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小川 |
うれしかったですね。
前から、ギャラリーや百貨店での個展でも
販売していたのですが、
買ってくださった方が
家族で鍋を囲む姿が想像できるんですよね。
「持ちやすい!」なんて
会話が弾むといいなと思ってました。
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色が2色ありますね。
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小川 |
シルバーブラックとピンクグリーンにしました。
私、マットな銀色が好きで、
この黒はシルバーっぽい艶のある釉薬を
使っています。
高台のラインは赤にしたんですけど、
ここが白だとモダンになりすぎるかな、と。
赤だとちょっとあたたかみがあるというか。
ピンクグリーンは、
2種類の釉薬を使っています。
表情がひとつずつ微妙にちがうんですよ。
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釉薬の配合を表にしたタイルがすごいですね。 |
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小川 |
釉薬は奥が深いですよー。
実験みたいにいろいろ組み合わせるときりがない。
でも、あまり難しく考えていなくて
私にとってはお料理みたいな感じ。
ちょっと塩をいれよう、
しょうゆを足そうとか、そういう感覚で
つやを出したいからのこの成分を少し増やそう、
という感じでアレンジしています。
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── |
お料理ですか。
そういった感覚的な部分と
建築士さんならではの理系脳が
うまくミックスされている作品ですよね。
このすっと指が入って、
誰にとっても使いやすい、
無理なく持てるやさしい器だと思います。
ありがとうございました。 |