ひがし |
‥‥私、美術教育は何も受けてないんですけど、
ずっと絵は好きで描いているんですね。
父親が趣味で
彫刻とか水墨画とか油絵とかしてたんです。
いなかの整備工で板金塗装とかしてた父が、
休みの日になると
「馬の絵を描きに行こう」
「海に行って絵を描こう」って、
私をつれて出かけてくれるんです。
それがすごくたのしくて、絵が大好きになりました。
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ほぼ日 |
いいお父さんですね。
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ひがし |
でも美大というものがあることを知らなかったので、
「ファッションデザイナーになりたい」
と思って長崎から上京したんです。
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ほぼ日 |
お洋服の学校に。
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ひがし |
はい、文化服装学院に。
‥‥なのに、なんか私、
お洋服を作る仕事には
とてもついていけないと思ってしまって‥‥。
なんというか‥‥世の中にはモノがすごくあって、
洋服のことは好きなのに、
どんどん次のものが出てきて、
セールになったりするのがすごい悲しくて。
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ほぼ日 |
ああ‥‥。
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ひがし |
でも、
「欲しい」とか、「素敵だな」とか、
「身につけたい」とか、
そういう気持ちはどうしてもあるんですね。
作っちゃいけない、でもやっぱり何かを作りたい‥‥。
そうやって葛藤している時間が、長くありました。
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ほぼ日 |
なるほど。
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ひがし |
そうこうしているうちに、
結婚しないまま妊娠して、
子どもが生まれてシングルマザーになって、
もうほんと、ほんとうにどうしよう?
っていう人生の岐路に立ったんです。
ハローワークに行ってもぜんぶ落っこちるし。
‥‥情けない話なんですけど、
7社受けてぜんぶ落っこちたんですよ。
それで派遣のバイトをしました。
でも、こんな私だとやっぱりうまくいかなくて、
すぐクビになっちゃうんです。
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ほぼ日 |
クビに‥‥なぜですか?
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ひがし |
会社の受付をしていたんですけど、
受付しながら絵を描いていて怒られたり‥‥
寝ているのがバレたり‥‥。
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ほぼ日 |
‥‥会社の受付で。
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ひがし |
恥ずかしいんですけど、ほんとなんです(笑)。
私はこんなにも、
社会人になるのが難しい人なんだと落ち込みました。
落ち込む日々が続きました。
でも‥‥子どもを育てなくちゃいけない。
落ち込んでる場合じゃない。
ある日、吹っ切れたように、
腹をくくろうと思いました。
「履歴書は二度と書かない」って決めたんです。
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ほぼ日 |
それはつまり、自分でやろうという決意ですね。
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ひがし |
好きなことをやろうと決めました。
捨てるものは何もないんだから、
好きなことをやろう。
‥‥と、決めたのはいいけど何したらいいんだろう?
文化服装学院に行ってたので、ミシンは使える。
そして、絵を描くのが好き。
私の切り札はこのふたつ。
このふたつで何ができるだろう‥‥?
「布のもので絵が描けて、布のもので絵が描けて、
布のもので絵が描けて、布のもので絵が描けて‥‥」
毎日毎日ずっと考えてました。
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ほぼ日 |
ハンカチとか、靴下とか、カーテンとか‥‥。
しらみつぶしに、布のアイテムを考え続けた。
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ひがし |
ええ。
ある日、「日傘」を思いついたとき、
チラッと光が見えたんです。
日傘の白い布に自分が描いたり刺繍したり‥‥
そういうイメージがポッと出てきて、
「これかもしれない!」って。
そこからはもう、すがるような思いで、
まずは日傘のことを何にも知らないから
ひとつ買ってきて分解したり、
骨はどこで買えばいいのか、
ハンドルはどこで売ってるのか、
「タウンページ」で調べました。
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ほぼ日 |
「タウンページ」?
ネットで検索はしなかったんですか。
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ひがし |
私、それまでパソコンを持ったことがなかったんです。
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ほぼ日 |
‥‥それは何年前ですか?
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ひがし |
3年‥‥いや、4年前くらい。
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ほぼ日 |
最近ですね‥‥すごいなぁ。
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ひがし |
自分で何かをやろうと思ったときには、
パソコンっていうのは
すごく便利だっていうことに気が付きました(笑)。
いまごろなんです、恥ずかしい話です。
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ほぼ日 |
ということは、
この3、4年で今の状況に‥‥。
ジェットコースターに乗ってるような
日々だったのではないでしょうか。
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ひがし |
そうなんですよ。
もう、もう、「やる」って決めたら、
「やる」しかなくて。
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ほぼ日 |
はい。
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ひがし |
一歩踏み出したら次の一歩がという感じで
おかげさまでお仕事が続きました。
最初は、母子寮にいたんです。
次はお風呂なしの雑居ビルに移って、
このアトリエに子どもと住んでた時期もありました。
いま住居は別な場所です。
子どもは育ってますし、
なんとか食べていけるようには‥‥。
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ほぼ日 |
すごい、すばらしいです。
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ひがし |
友だちが応援してくれてたんです。
いろは(娘さんの名前)のために、
私を元気づけるために、応援してくれてたんです。
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ほぼ日 |
すごいなぁ‥‥。
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ひがし |
そんな、必死すぎて恥ずかしい話です。
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ほぼ日 |
いや、すばらしいです。
今はこうして‥‥お仲間は何人いらっしゃるんですか?
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ひがし |
仲間は、今、4人です。
私を入れて5人。
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ほぼ日 |
5人のチームになったんですね。
この先、こうしていきたいっていう
目標のようなものはありますか?
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ひがし |
それは‥‥仲間がみんな幸せになるという‥‥。
あの‥‥糸井さんの事務所に行ったとき、
私、衝撃を受けたんです。
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ほぼ日 |
え? うちの事務所で?
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ひがし |
はい。なんていうんでしょう‥‥
生きることと働くことって、
やっぱりすっごい繋がっているから。
‥‥私、
「履歴書をもう書かない」と決めたときに、
自分の人生を‥‥その‥‥。
‥‥‥‥。
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ほぼ日 |
‥‥‥‥‥‥。
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ひがし |
‥‥ごめんなさい、泣きそう(笑)。
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ほぼ日 |
大丈夫です(笑)。
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ひがし |
自分の人生を愛したいなって思ったんです。
‥‥そう。
でも、生きている時間で仕事をする時間って、
そうとう長いっていうのがあって。
会社に落っこちていたころは、
仕事の時間が、ただの空白になってるのが、
もうすっごく辛くて、意味がわからなくて。
でも、お母さんでいなきゃっていうのもあって。
自分の欲望でモノを作ったりするのは
違うと思ったり‥‥。
‥‥なんの話でしたっけ‥‥すみません(笑)。
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ほぼ日 |
ぜんぜん大丈夫です。
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ひがし |
すみません、とりとめがないんです。
何を言いたかったのかな‥‥。
そう、
糸井さんの会社には夢があるなぁと思ったんです。
来た人にお食事が出せるって、すごい。
(※給食の日にお呼びしました)
お客さんを呼んで、
食事があって、食器があって、
その場所があるってすごいことだ!
って思ったんですよ。
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そのときでした。
ほぼ日のことを褒めてくださったひがしさんに、
「いや、ひがしさんこそすごいですよ。
生きる時間と仕事をする時間が、
ここではすてきに繋がっています」
ということを言おうとした、そのとき、
アトリエストアの扉がぱーんと開いて、
いろはちゃん(小2)が、学校から帰ってきました。
▲いろはちゃんの元気さに見入ってしまい、撮れた写真はこの1枚でした。
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いろは |
こんにちはーーーーーーっ!!
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ほぼ日 |
わぁ、こんにちは。
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ひがし |
おかえり(笑)。
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いろは |
こんにちはーーーーーーっ!!
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ほぼ日 |
大きな声だねぇ(笑)。
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いろは |
だってママが、あいさつするときは、
「大きな声で」って言ったんだよ!
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ほぼ日 |
そう。
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いろは |
こんにちはーーーーーーっ!!
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ほぼ日 |
こんにちは(笑)。
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いろは |
ママ、おじいちゃんち、行ってきていい?
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ひがし |
いいよ。宿題は?
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いろは |
宿題もっていくよ、ちゃんと。
いってきまーーーーす!(外に出て行く)
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ひがし |
いってらっしゃい。
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ほぼ日 |
‥‥おじいちゃんのおうちが近くに?
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ひがし |
親戚じゃないんです。
すぐお隣の、
おじいちゃん・おばあちゃんのお宅に
遊びに行くんですよ。
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ほぼ日 |
へええーー、お友達ですね(笑)。
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ひがし |
お友達なんです(笑)。毎日行くんですよ。
おしゃべりしたり、
いろいろ遊んでるみたいです。
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ほぼ日 |
そうですか‥‥。
ひがしさん、
きょうはありがとうございました。
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ひがし |
こちらこそです。
なんかすみません、自分の話をこんなに‥‥。
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ほぼ日 |
いえ。
ほんとうに、ありがとうございました。
考え続け、走り続けて‥‥
ひがしちかさんが手に入れたたしかな「今」を、
インタビューの最後に
見せていただいたように思いました。
「ほぼ日のいい扇子」は、
たとえばこんな作家さんによってつくられています。 |