糸井 |
眠っているあいだに 閃きを与えてくれるのは、 浅い眠りの、 いわば「夢」の状態ということですね。 |
池谷 |
夢というものは、 日常、昼間に起こったことが 組み合わさっているんですが、 組み合わせ方がものすごく奇天烈です。 |
糸井 |
関係のない要素であるFは、 急にどこかから降ってきたものではなくて、 きっと、ほかの日の CDEFという経験をした日のオマケとして、 自分の中からやってきたんですね。 |
池谷 |
そうです。 |
糸井 |
Fは、自分の中にあるのに 自分を壊してしまうくらいに強烈に わいて出てきたものですね。 整合性の取れている社会に生きる自分がいて、 整合性の取れないものを 見たときに反応する何か。 そういうことこそが、芸術との出会いだと 僕は思っているんです。 |
池谷 |
なるほど。 起きているときは意識していて、 深い眠りは無意識の世界‥‥。 つまり、浅い眠りって、 臨界点なんですよね。 |
糸井 |
そうですね。 古代の人が壁画を描いた洞窟の中、 あちら側とこちら側の境目ってことですよ。 ‥‥いやぁ、Fの話はわくわくしますね。 昼間、僕らが何かものを考えるときに 意識的にやってるのも そういうことです。 |
池谷 |
何かアイデアを 生まなくてはいけないようなときには、 「これとこれをくっつけてみようか」 なんて、一見関係なさそうなものを くっつけることがあります。 |
糸井 |
池谷さんが、いろんな論文の文言を パソコンのスクリーンセーバーにして 常に流しているということを お聞きしたことがあるんですが、 それも意識的に 組み合わせを生もうとしているんですね。 |
池谷 |
本来ならば、 寝ている間にしか起こらないことを 起きてる時間にもやってしまおう、 ということでしょうか。 そのことと関連する話を、 ここでさせていただきたいと思います。 寝る、ということと ちょっと離れるかもしれないのですが、 ──というより、大胆に言ってしまうと、 「寝なくてもいい」という説が 実は出てきているんです。 |
糸井 |
それはまた、どういうことなんですか。 |
池谷 |
寝る前よりも、寝た後のほうが 試験の出来がよくなる話をしました。 その場合、睡眠時間は3時間ぐらいから 効果が出はじめます。 そこで今度は ●3時間寝るグループ ●起きているグループ を作り、いくつかのパターンに分けて 試験をしました。 テレビを見ていたり、人と会話していたり、 とにかく普通に行動して起きていたグループの 試験結果は、やはり ちゃんと寝たグループに比べて劣ります。 ただ、起きているグループに もうひとつグループを作りました。 ●暗くして、ただ椅子に座ってもらうグループ です。 実は、その実験が難しくて、 人は、暗い部屋で何もしないと、 寝ちゃうんですよ(笑)。 ですから、脳波を取ってその人が寝そうになったら 人力で起こしにいくんです(笑)。 そして、驚くことに、 暗い場所にいた人は、寝なくても 試験の成績が、ちゃんとよかったんです。 |
糸井 |
へええ! これは、またおもしろい。 |
池谷 |
おそらく、必要なのは、 ほんとうのことを言っちゃうと、 睡眠そのものじゃないのかもしれないです。 それは何かというと、 情報をシャットアウトすることなんです。 |
糸井 |
おお。すごいな。 |
池谷 |
これが証明されはじめたのが 2〜3年前です。 暗闇でじっとして、何もしないでいると、 寝ているときと同じような信号のリップルが、 目覚めていても起こる。 どんどん起こる。 これが、もしテレビを見ていれば、 ダメなんですね。 |
糸井 |
いやぁ、いいな、これは。 おもしろいなあ。 |
池谷 |
外からの情報を シャットアウトしなければいけない。 外からの情報がない場合に、 睡眠中と類似したリップルの活動が はじまるんです。 ABCFも、ちゃんと起こります。 じゃあ寝なくてもいいのか、 という話になっちゃうと、 そこは話は単純ではありません。 人間って、起きていると 何かしちゃうんですよ。 テレビを見たり、歩き回ったり、 「じっとしていられない」という、妙な、 へんちくりんな癖が人間にはあるから、 「お前ら寝とけ」という意味で 睡眠を取らないといけないのかな‥‥。 |
糸井 |
起きて何もしないでボーっとしてるって、 けっこうできない。つらいでしょうね。 しかし、眠らなくても 眠ったときと同じような 脳の活動ができるというのは、 ひとつの朗報ですね。 |
池谷 |
はい。 「睡眠は、記憶の定着に重要らしい」 という話をすればするほど、 眠れない日がつづいたりしたら きっと不安になるでしょう。 しかし、寝なくてもいいわけですね。 部屋の電気を暗くして、じっとして 情報をシャットアウトすればいい。 「眠れない」と焦る必要は まったくないってことです。 ただ、眠れないからと、 部屋で本を読んじゃってはダメ。 眠れなかったら、 むしろ開き直っててもらって、 ただ情報を遮断すれば、 睡眠と同じだけの効果が得られるってことです。 もちろん、これはきっと、 記憶という側面に限って言えることなんですが。 (つづきます) |
2007-12-03-MON