京極 |
荒俣さんは、ぼくより少しまえに
水木さんのところへ弟子入りしたんです。
「荒俣道」を極めるためには、
「水木力」が必要だといって。
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糸井 |
うん、うん、よくわかる(笑)。 |
京極 |
で、水木さんに師事してから
だんだん変わってきた感じがするんですよ、荒俣さん。
それまでは、
マニアというか、プレオタクというか‥‥
まあ、ふつうに「博覧強記の怪人」だったわけです。 |
糸井 |
そんな(笑)。 |
京極 |
でも、水木さんと交流を持つようになってからの
荒俣さんは、
どんどん「ステージ」が上がってる感じが
するんですよね。融通無碍というか。 |
糸井 |
でも、水木さんの世代の人たちが
経てきたような、
すごい時代状況ってないじゃないですか、今。 |
京極 |
うん、ない。 |
糸井 |
そうすると、荒俣さんにしても
京極さんにしても、
水木さんがボディで得てきたものっていうのは、
体験できないですよね? |
京極 |
そうなんです、そうなんです。
とくに、水木さんが
あの、片腕をなくされたことって‥‥
やっぱり、
すごく大きいことだったと思いますし。 |
糸井 |
ええ、そうでしょう。 |
京極 |
しかも、戦地でひとりマラリアにかかったり、
夜の海をひとりで泳いで逃げたりっていう
そういう体験はね、やはりわれわれには‥‥。 |
糸井 |
その泳ぎ着いた先が、もう、ぼくらとは
「ぜんぜん違う陸地」ですもんね。 |
京極 |
だから、あれは、ああいう状況で
「水木しげる」という人でなければ
成し得なかったという、そういう体験なんですよ。 |
糸井 |
うん、たしかにそうですよね。
でも「荒俣さん経由の水木さん」って、
ちょっと道が遠すぎるんじゃないですか?
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京極 |
そうなんですよね、でも、ぼくはやっぱり、
荒俣さんに憧れてるとこあるんだよなぁ。 |
糸井 |
いやいや、わかりますよ。 |
京極 |
荒俣さんを見ててすごいと思うところは、
これ、悪口と思われたら困るんですけど‥‥
「心ない」ところなんです。 |
糸井 |
ようするに、ジャッジが
感情でグラつかないんですね? |
京極 |
あ、そういう言い方があるんですね。
その通り(笑)。
好き嫌いと、善し悪し、優劣、は別物でしょう。
荒俣さんは、別に好きじゃないものであっても
良いところは上手に褒める。
外からはムリしてるように見えない(笑)。 |
糸井 |
なるほど。 |
京極 |
テレビの「トリビアの泉」でも、
「へえ〜へえ〜」って押してるでしょ(笑)。
たぶん、知ってるネタでも(笑)。 |
糸井 |
ははははは(笑)。 |
京極 |
これも、テレビでやってたんですけど、
庭の水撒きをするように奥さまにいわれて、
雨がザアザア降ってるなか、
濡れながら庭に水を撒かれたとか‥‥。
いいなあ、と。
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糸井 |
そ‥‥それは(笑)、
心がないよねぇ、ほんとうに(笑)。 |
京極 |
でしょう?
荒俣さんのそういうところ、ぼくは大好きなんです。 |
糸井 |
むかし、ニューヨークへ行ったとき、
ある地点から荒俣さんが進まないんだって。
で、「荒俣さん、こっちこっち」って呼んだら、
「ここから先は危険領域だ」って(笑)。 |
京極 |
ははははは(笑)。
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糸井 |
地図を見せながら説明したと(笑)。 |
京極 |
いや、だからぼくはね、
まずはそういう人に、なりたいんです。
で、そのさらに先に
大先生としての水木しげるさんがいる。 |
糸井 |
でも、それじゃあ、
京極さんと荒俣さんってどこが違うんですか? |
京極 |
ぼくと荒俣さんとの違い? |
糸井 |
うん。 |
京極 |
まずね‥‥荒俣さんも、すごい努力家。 |
糸井 |
ああ、そうですよね。 |
京極 |
だって、中学生のときに
江戸川乱歩編の「怪奇小説傑作集」を読まれて、
翻訳者の平井呈一さんに手紙を出して
書面上で弟子にしてもらってるような人ですよ。 |
糸井 |
うん、うん(笑)。 |
京極 |
その平井さんに
「原書で読めなきゃ意味がない」って言われて、
いちばん苦手だった英語を猛勉強して、
原書で読めるようになって‥‥
それで、翻訳の道へ入っていったような人ですよ。 |
糸井 |
京極さんには、そういうとこ、ないんですか。 |
京極 |
ないと思うなあ。
ぼくは、できないことは‥‥しないんですよ(笑)。
できる範囲で、
できるかぎりの対応しようとはしますが。 |
糸井 |
じゃ、しかるべき段階を踏むんですね。 |
京極 |
自らを高めたいとか、
何かを克服しようとか‥‥いうタイプじゃないんですよね。
環境に順応していくほうですね。 |
糸井 |
むかし、会社員とかもやってたし。 |
京極 |
だから、好き嫌いがそんなにないの。
まあ、「これはイカン」はあるけど。
ダメでも、好きは好き(笑)。 |
糸井 |
ああ‥‥そうですか。 |
京極 |
基本的に「できることならやりましょう」なんで、
不満とかあまりなかったですよ。 |
糸井 |
それは、ボディの感覚に素直だということ? |
京極 |
いや、まあ、長い目でみれば、
平気なんですよね、たいてい。
だいたいおもしろいです、なんでも。 |
糸井 |
くたびれたりはしない‥‥のか? |
京極 |
強くないけどくたびれない、
淡泊だけど飽きない、
しつこくないけど、諦めもしない。 |
糸井 |
それは、我慢してるんじゃなくて。 |
京極 |
我慢、大嫌い(笑)。 |
糸井 |
今日のテーマは「眠り」なんだけど‥‥。
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京極 |
あ、そうでした!
すると、ここまでの話は
ものすご〜く長い前フリなんですよきっと(笑)。 |
糸井 |
つまり‥‥。 |
京極 |
‥‥寝ない。
<つづきます>
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