第4回 今日のテーマは「睡眠」です。

京極 荒俣さんは、ぼくより少しまえに
水木さんのところへ弟子入りしたんです。

「荒俣道」を極めるためには、
「水木力」が必要だといって。

糸井 うん、うん、よくわかる(笑)。
京極 で、水木さんに師事してから
だんだん変わってきた感じがするんですよ、荒俣さん。

それまでは、
マニアというか、プレオタクというか‥‥
まあ、ふつうに「博覧強記の怪人」だったわけです。
糸井 そんな(笑)。
京極 でも、水木さんと交流を持つようになってからの
荒俣さんは、
どんどん「ステージ」が上がってる感じが
するんですよね。融通無碍というか。
糸井 でも、水木さんの世代の人たちが
経てきたような、
すごい時代状況ってないじゃないですか、今。
京極 うん、ない。
糸井 そうすると、荒俣さんにしても
京極さんにしても、
水木さんがボディで得てきたものっていうのは、
体験できないですよね?
京極 そうなんです、そうなんです。

とくに、水木さんが
あの、片腕をなくされたことって‥‥
やっぱり、
すごく大きいことだったと思いますし。
糸井 ええ、そうでしょう。
京極 しかも、戦地でひとりマラリアにかかったり、
夜の海をひとりで泳いで逃げたりっていう
そういう体験はね、やはりわれわれには‥‥。
糸井 その泳ぎ着いた先が、もう、ぼくらとは
「ぜんぜん違う陸地」ですもんね。
京極 だから、あれは、ああいう状況で
「水木しげる」という人でなければ
成し得なかったという、そういう体験なんですよ。
糸井 うん、たしかにそうですよね。

でも「荒俣さん経由の水木さん」って、
ちょっと道が遠すぎるんじゃないですか?

京極 そうなんですよね、でも、ぼくはやっぱり、
荒俣さんに憧れてるとこあるんだよなぁ。
糸井 いやいや、わかりますよ。
京極 荒俣さんを見ててすごいと思うところは、
これ、悪口と思われたら困るんですけど‥‥
「心ない」ところなんです。
糸井 ようするに、ジャッジが
感情でグラつかないんですね?
京極 あ、そういう言い方があるんですね。
その通り(笑)。

好き嫌いと、善し悪し、優劣、は別物でしょう。
荒俣さんは、別に好きじゃないものであっても
良いところは上手に褒める。
外からはムリしてるように見えない(笑)。
糸井 なるほど。
京極 テレビの「トリビアの泉」でも、
「へえ〜へえ〜」って押してるでしょ(笑)。
たぶん、知ってるネタでも(笑)。
糸井 ははははは(笑)。
京極 これも、テレビでやってたんですけど、
庭の水撒きをするように奥さまにいわれて、
雨がザアザア降ってるなか、
濡れながら庭に水を撒かれたとか‥‥。

いいなあ、と。

糸井 そ‥‥それは(笑)、
心がないよねぇ、ほんとうに(笑)。
京極 でしょう? 
荒俣さんのそういうところ、ぼくは大好きなんです。
糸井 むかし、ニューヨークへ行ったとき、
ある地点から荒俣さんが進まないんだって。

で、「荒俣さん、こっちこっち」って呼んだら、
「ここから先は危険領域だ」って(笑)。
京極 ははははは(笑)。

糸井 地図を見せながら説明したと(笑)。
京極 いや、だからぼくはね、
まずはそういう人に、なりたいんです。

で、そのさらに先に
大先生としての水木しげるさんがいる。
糸井 でも、それじゃあ、
京極さんと荒俣さんってどこが違うんですか?
京極 ぼくと荒俣さんとの違い?
糸井 うん。
京極 まずね‥‥荒俣さんも、すごい努力家。
糸井 ああ、そうですよね。
京極 だって、中学生のときに
江戸川乱歩編の「怪奇小説傑作集」を読まれて、
翻訳者の平井呈一さんに手紙を出して
書面上で弟子にしてもらってるような人ですよ。
糸井 うん、うん(笑)。
京極 その平井さんに
「原書で読めなきゃ意味がない」って言われて、
いちばん苦手だった英語を猛勉強して、
原書で読めるようになって‥‥
それで、翻訳の道へ入っていったような人ですよ。
糸井 京極さんには、そういうとこ、ないんですか。
京極 ないと思うなあ。

ぼくは、できないことは‥‥しないんですよ(笑)。
できる範囲で、
できるかぎりの対応しようとはしますが。
糸井 じゃ、しかるべき段階を踏むんですね。
京極 自らを高めたいとか、
何かを克服しようとか‥‥いうタイプじゃないんですよね。

環境に順応していくほうですね。
糸井 むかし、会社員とかもやってたし。
京極 だから、好き嫌いがそんなにないの。
まあ、「これはイカン」はあるけど。
ダメでも、好きは好き(笑)。
糸井 ああ‥‥そうですか。
京極 基本的に「できることならやりましょう」なんで、
不満とかあまりなかったですよ。
糸井 それは、ボディの感覚に素直だということ?
京極 いや、まあ、長い目でみれば、
平気なんですよね、たいてい。
だいたいおもしろいです、なんでも。
糸井 くたびれたりはしない‥‥のか?
京極 強くないけどくたびれない、
淡泊だけど飽きない、
しつこくないけど、諦めもしない。
糸井 それは、我慢してるんじゃなくて。
京極 我慢、大嫌い(笑)。
糸井 今日のテーマは「眠り」なんだけど‥‥。

京極 あ、そうでした!

すると、ここまでの話は
ものすご〜く長い前フリなんですよきっと(笑)。
糸井 つまり‥‥。
京極 ‥‥寝ない。

<つづきます>



2007-12-20-THU