糸井 | 周防さん、明日から海外に行かれるらしいですね。 その寸前にお声かけちゃって、すみません。 周防さんの映画、さっそく観まして、 やっぱりドスンと来るものがありまして、 久しぶりにお会いしたくなったんです。 海外に行かれるらしいから 急ごうってことになっちゃって。 |
周防 | いや、行くったって、 2泊ですから。 |
糸井 | 2? |
周防 | はい。ロンドン2泊。 正確にはオックスフォードです。 オックスフォード大学で 『それでもボクはやってない』の 試写をやります。 |
糸井 | それはイギリスで法律を学んでる人に 観せるんですか? |
周防 | ‥‥ということに、なってんのかな? |
スタッフ の方 |
法律と、日本文化を研究されている オックスフォード大学の方々を対象とした 試写会です。 |
糸井 | それはいいね。 |
周防 | このあいだも、ニューヨークで 試写をやりました。 僕はこれをとにかく海外でも観せたいという 思いが強かったので。 |
糸井 | この映画は、観せたいですよ。 |
周防 | でもね、その、 ニューヨークの試写で思ったんですが、 みんなこの映画を観ながら、 いたるところで笑うんですよ。 そのたびに自分が笑われてるようで、 すっごく、恥ずかしくなりました。 |
糸井 | ああ‥‥そう、まさにそこですね。 「恥ずかしかった」ということの正体を まずは知りたいですよ。 つまり、「笑われる」ことに 気がつけないところまで、僕らは あの文化の中にいる、ということなんです。 |
周防 | 僕らは笑えない日本の現実の中で、 笑っちゃうことを笑わないで まじめになってしまってるんですね。 アメリカの人はまず、 満員電車そのものも、 満員電車の中で女の人の体を触る犯罪が あるということも、よくわからない。 これは映画を撮る前、 取材しているときに考えたことなんですが、 例えば、アメリカで 女性が電車で痴漢の被害にあったら、 もしくは痴漢と間違われたら、 彼らはどうするだろう、と。 |
糸井 | どうするんですか? |
周防 | おそらく電鉄会社を訴えるでしょう。 |
糸井 | ああ、「そんなことを許しておくほう」に 非があるわけだ。 |
周防 | 満員の状況で走らせておいて、 そして、常にそれは 犯罪の温床だと言われてるわけですから、 そんなことを許して運行している電鉄会社が おかしいということになる。 そのせいでそういう被害を被ったんだ、 という発想になって、まずは アメリカの人は電鉄会社を 訴えるんじゃないかと思いました。 |
糸井 | ありえるでしょうね。 |
周防 | だけど日本で、 僕の知る範囲では 電鉄会社が訴えられたことはないです。 |
糸井 | うーん、ないでしょうね。 |
周防 | おそらく裁判所にそう訴えても、 相手にされないんじゃないでしょうか。 訴訟を起こしてみないとわかんないけど、 「そういう満員電車を選んで乗ってるあなたが悪い」 という話になるんじゃないかな。 |
糸井 | 「あなたはやり過ごせばやり過ごせたんです」 ってことになるわけですね。 |
周防 | そうです。 だから日本人は、あの満員電車にも 文句は言うけど異議は唱えず、 毎日おとなしく乗ってるんです。 それで、こういう事件が起きる。 「やった、やってない」で揉めごとが起きて、 下手をすれば一生を棒に振る人があり、 女性はほんとうにたくさんの人が 毎日いやな思いをして会社や学校に行く、 ということになっている。 変でしょう。 |
糸井 | ああ、‥‥変だ。 |
周防 | それが、アメリカ人にとっては 笑っちゃう現実なんだと思うんです。 |
糸井 | 笑っちゃう、というのは、 「そこのところは乗り越えてきたから」 ではなくて、 「道が違ってた」ということでしょうね。 肉食と草食みたいに。 |
周防 | ああ、そうでしょうね。 |
糸井 | つまりアメリカが、もしも、 「そういう時代、俺たちもあったよ」 ということだったら、 きっと笑えないでしょう。 |
周防 | そうですね。そうしたら、笑わずに 「いや、そういうときはこうするんだよ」 みたいな話になるだろうから。 (つづきます) |
2007-02-14-WED |