ほぼ日刊イトイ新聞 フィンランドのおじさんになる方法。

第8回  	フィンランドの音楽と、ダンスの文化 森下圭子

口承文学はフィンランドの歴史を語るときにも、
フィンランド芸術を語るときにも欠かせないものです。
独特の節まわしとメロディーで語り継がれる物語。
心地よいゆらゆらしたリズムと音、ふとその中に
フィンランドの生活があるような気がします。
赤ちゃんの頃から聞かされる、
韻をふんだ言葉遊びのような詩。
お葬式でも参列者たちがお別れの言葉として詩を綴り、
棺に花を捧げながら、詩を読み上げ
死者を送ったりします。
流行の歌もラップもヘビメタだって、
どことなく詩的で情緒的で、ちょっと違うんです。
この人たち、なんか根強いものを
ずっとずっと継承してきているような。

ちょっと違うどころじゃなくって、
「もうこれはこれで1ジャンルでしょう」
っていうのがフィンランド・タンゴでしょうか。
いちおうルーツは研究されていて、
発祥のアルゼンチンでなく、
フランスのマルセイユ経由らしいと解釈されてます。
キレよりもしっとり、熱情よりもメランコリー。
おまけに歌詞がついています。
それもじっくり聴かせるタイプ。
恋する人への思いや、
自然(自然はときに恋の比喩だったりもしますが)を
タンゴで歌い上げるんです。
なんでこんな風になったのか‥‥このタンゴの場が
かつては男女の出会いの場だったのです。

フィンランドには、
かつて小さな村にも欠かせないくらいに
ダンスホールがありました。
そこはお年寄りから子供たちまでが集う
憩いの場になることもあれば、
しばしば妙齢の男女が集う
貴重な出会いの場でもありました。
いつもよりおしゃれをして、髪をきちんとセットし、
女性は回るとふわりと広がるワンピース、
男性はピッカピカに磨いた革靴。
映画やテレビによくでてくる、
フィンランドの古き良き時代の一場面です。
今でもその名残が見受けられるダンスホール。
心地よくて自分の気持ちを代弁してくれる、
そんなメロディーと歌で包み込んでくれる空間です。
音楽につられて動きだす体。
たまに激しく本格的な社交ダンスのペアがいるのですが、
彼らがものすごく浮いてしまうほどに、
みんなの踊りはどことなくゆらゆらしています。
ワルツもタンゴも同じに見えるようなステップ。
でも妙にしっとりしていて情緒があるんです。

長年連れ添った伴侶を亡くした、
そんなおじいさんやおばあさんが、
また踊りを通じて
素敵な異性に出会えたりもするダンスホール。
最近では、年齢制限を設けた
シニア専用なんていうのもあるのだそうです。
子供の頃にダンスホールに行く習慣のなかった
若い世代でも、中年にさしかかってくると
「踊れたらよかった」とか
「踊れるようになりたい」なんて思う人が多いようです。
ダンス講座の人気は年々高まっているし。
そのわりには、ヘルシンキで
ダンスホールが激減してしまっていて、
ほとんど選択の余地がないのが寂しいところです。

ところで、ジェンカって覚えてますか?
私が小学生だった頃は全国津々浦々で
踊ってたのではないでしょうか。
ジェンカまたはレットキス。
前の人の肩または腰に手を置いてどんどん繋がり、
列になってぴょんぴょんしていく踊り。
当時はフォークダンスの定番でした。
実はこれが生まれたの、フィンランドなんです。
いろんな国にいろんな踊りがありますが、
確かにフィンランドとジェンカ、なんとなくお似合い。
フィンランドでは今でも、
ダンスホールの中をとぐろまいて、
ぴょんんぴょんしてたりします。

2009-02-23-MON
morishita

とじる

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