ほぼ日刊イトイ新聞 フィンランドのおじさんになる方法。

第11回 カリさんのいる風景 森下圭子

「じいさんたちよ」
‥‥アコーディオン楽団員の後ろ姿に
つい、そう呟いてしまいたくなる。
「どこへ行くのか」と。
それくらい皆さん人の話を聞いてるんだか
聞いてないんだか、てんでばらばらだったりするのです。
そんな人たちの好き勝手を聞き入れながら
なんとかまとめなきゃと
身を粉にしているのがカリさん。
じいさんたちは、それに気づいていないかもしれない。
このまとまり具合は自分たちの力だよ、
おじいさんたちはそんな気分で
ますます我が道を猛進している気が
しないでもありません。
でも、カリさんはそれでいいのです、
縁の下の力持ちで。

カリさんは正統派の男前です。
本人もそれを自覚されているのかなと思わせる、
スマートな男前の身のこなし。
このまま気取っていても全然おかしくないし、
実はそんな風にしても似合うのではというおじさんです。

夏が始まる頃のこと。
アコーディオン楽団の奥様たちも交えての大きな慰労会、
というか宴ですね、宴がありました。
サウナに入って食べて飲んで、
もちろんアコーディオン演奏して自分たちで踊ってと、
楽しいことを一日に全部やってしまおう!
というわけです。
さて、歌姫トゥーラさんを筆頭に
おばちゃんたちが集まるとこういうことか。
「ふふふ男子にいたずらしちゃえ」です。
おばちゃんみんなで
サウナの休憩テラスにあったお酒を
すべて隠してしまったのでした。
女性陣のサウナが終わり男性の番になって、
まずカリさんや若手が、
おじいさんたちをやんわり誘導するように
サウナに向かいました。
休憩所にあるはずのお酒がない‥‥
ほかの若手が
「あれ、え? あれ?」
とただ騒ぎたててるなか、カリさんは騒がず
(でもざっと血の気がひいたような顔で)、
素早くお酒を手配する方法を考えています。
「どこで計算間違えてしまったんだろう。
 僕のせいで‥‥」
と自分を責めながらです。
おじいさんたちもそろそろサウナにやってきそうです。
カリさん以外の若手は、相変わらず
「ないよ、ない!」
と騒いでいるだけです。
正統派の男前らしい真面目なおじさん、カリさん。
そしておばちゃんたちにイタズラされてるなんて、
まったく疑いもしてません。

イタズラしたくなってしまう、
いじられやすいのか、カリさん。
相当に怪しげな牛の絵付きロデオマシンがあって、
じいさんたちが
「それは見てるだけでいいよ」
というなか、まず先頭きってマシンに乗り、
中途半端に笑われる役をかってでた自虐的なカリさん。
アコーディオン楽団の代表だけれど、
誰よりも仲間たちから教えてもらうことに
素直なカリさん。
それでも一分でも暇ができたら
アコーディオンを弾いていたいじいさんたちとは
少し違って、人とのおしゃべりも大好きで
話し出すととまらなくなるところもあったりして。
会社ではテキパキ指示をだしたり
決定したりしていそうな感じも想像できてしまいます。

アコーディオン楽団では
ちょっとヘタレな部分も見せたりします。
同時に暴走じいさんたちに気づかれないよう、
何気に彼らにブレーキをかけながら、
ふんわり皆をまとめるカリさん。
そのためにいじられたり笑われたり。
カリさんがアコーディオン楽団で見せる姿、
縁の下の力持ちぶり、少し自虐的で気弱な感じ‥‥
男前を自覚しているカリさんに、
ここまでさせるのはアコーディオンの魅力?
それともおじさん期を過ぎたじいさん、
人生の先輩たちの魅力なのでしょうか。

どっちもですね、きっと。

2009-03-05-THU
morishita

とじる

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