ほぼ日刊イトイ新聞 フィンランドのおじさんになる方法。

第24回 サウナは、自分が自分らしくいられる時間。 森下圭子

森にサマーハウスを建てるとき、
まずはサウナ小屋なんだそうです。
湖にほど近いところに建てるサウナ小屋には
大きめの脱衣所があって、
そこにはソファがあったりと
ゆったり休憩できるようにもなっています。
実はこのスペースで寝泊りしながら
次に母屋となるサマーハウスを建てていくのです。
サウナを暖めれば、
少し季節はずれの時期に来て大工仕事をしていても
寒さで眠れない夜なんてこともありません。
汗も流せるし、
サウナの熱で筋肉をほぐすこともできます。
何よりも薪がパチパチと燃える音を聴きながら
ほの暗いサウナの中でじっとしている時間の
心地良いこと。

暮らしにサウナあり、なのでしょう。
平和維持活動で
気温が40℃くらいになりそうなところでさえ、
そこにフィンランドの人たちがいれば、
まず彼らはサウナを設けます。
ラップランドの森の中を歩き続けているその合間に
ふとサウナと思えば、
なんとかありあわせのもので
サウナらしきものをこしらえてしまう人もいます。
セーリングしているヨットの中にも
テントサウナのキット一式が忍ばせてあることも。
そしてかつては命の誕生をサウナで迎え、
人の死を看取る場がサウナでした。
家の中に水道などなかった頃、
生活空間の中で最も清潔だったのはサウナでした。
水があるところ、湯が用意できるところ。
そんな風にサウナとつきあってきた
フィンランドの人々です、
サウナのない生活なんて
考えにくいものなのかもしれません。

サウナの正しいはいりかた?
そんな決まりごとはありません。
そこがフィンランドらしいとも思います。
サウナは自分にとって
気持ちいい場所であるべきなのです。
温度も何分くらい入るべきか、
何回くらい出たり入ったりするか、
一人ひとりの判断でいいのです。
自分が寛げる場所、
疲れをゆっくり癒せる場所になるように。
フィンランドの人たちは誰彼かまわずに
人をサウナに誘ったりしません。
とくにおじさんたちは
親しい仲間たちと過ごすサウナの時間を
とても大切にしています。
木の香り、薪の音、サウナストーブからの蒸気が
じわじわと体の中にはいっていくような感覚。
そんなところでの裸のつき合いには、
そんなところの言葉には、
飾りや嘘で覆うこともなくなってしまうでしょう。
「裸でいると人は偽れないからね」
なんてことをおじさんたちが話してくれます。

愉快な仲間との時間はサウナの外でも続きます。
タオル一枚をぐるりと巻いてベンチに腰かけ、
外気で火照った体を冷ましながら、
たっぷりの水分を補給しつつ話がさらにはずみます。
なんだか本当に裸が自然で、
自分が自分らしくいる時間。
タオルがなくてもあんまり変わらないくらい、
裸で寛いでいるんです。

サウナにはいろんな種類のものがあります。
電気で暖めるものも最近は多いですが、
「やっぱり薪がいいね」
と、みな口を揃えて言います。
薪サウナといっても、
暖め方には何タイプかあります。
ただ森の中のサウナ小屋に関しては、
薪が尽きないようにくべつづけ
暖め続けるタイプが一般的です。
パチパチという薪の燃える音こそ聞こえませんが、
湖をボートで進んでいくと
木々の向こうのあちらから、そちらから
サウナの煙がモクモク上がっていたりします。
そのうち煙のある方から元気よく誰かが走ってきて、
素っ裸で湖に飛び込んでくるかもしれません。
そうそう、自分とこの犬がサウナ好き
ってことが大いに自慢になるフィンランド。
犬も一緒に飛び込んでくる場合だってあります。
これもまたサウナの愉しみのひとつ。
サウナでほてった体を
湖の水で引き締めるのが気持ちいいのなんの。

遠くからサウナ小屋の煙突からのぼる
煙を眺めているだけで、
いろんな人のいろんな暮らしや
笑顔が見えてくるようです。
また想像しているのも楽しいものです。
「ウチのサウナが一番だよ」
‥‥そう自慢するおじさんに
今までずいぶん出会いました。
ふだん控えめな人でもサウナの話になると別。
改めて、サウナって
「一家の主の顔」的存在かもしれません。
サウナの個性はその家の主の個性と重なる
そう断言したくなってきました。
ちょっとそんな気分です。
フィンランドにいらしたら、
ぜひ一度くらいはサウナをお試しください。

2009-04-20-MON
morishita

とじる

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