ほぼ日刊イトイ新聞 フィンランドのおじさんになる方法。

第29回 レオさんのいる風景 森下圭子

おしゃべり好きのきこり(樵)のことを話すと、
フィンランドの人たちは驚いて
(「え? そんな人いるの?」)、そして笑う。
きこりとは無口なものなのでしょうか。
この職業、なんとなくフィンランドの
原風景的な印象もあります。
昔ながらの風景を描く映画や小説に、
きこりは欠かせませんからね。
自ら好んで世間から離れて暮らし、
無口で、でも焚き火を囲んで音楽を演奏するような
趣味人の面もあって。
きこりは、そんな風に描かれることが多いかなあ‥‥
なんて思います。

ホンモノの樵に会ったのはレオさんが初めて。
そしてレオさんは、
映画や小説で垣間見たきこり像を
どこかしら髣髴させつつも全然違うような、
きこりのイメージに
つかず離れずの、個性的な人でした。

保守的な田舎の村で、
人と違う服装やふるまいをするのは
何だかんだと言われる原因になります。
村人たちが集まるお祝いの場。
男性は背広を着るものなのかな、
誰もかれもが揃って背広でした。
だけど、レオさんは一人だけ、
いつもと同じジャージでやって来ました。
そしてきこりという一般的なイメージと
レオさん自身の関係のように、
ここでもまた、大勢が集まるところにいながら、
でもどこか一匹狼ぽいところもある、
そんなつかず離れずの絶妙な間合いで
人々の輪の中にいました。
レオさんは目の前で奏でられる音楽を心から楽しみ、
主催者が用意してくれたご飯を丁寧にいただき、
人のスピーチに真剣に耳を傾けます。
中には音楽よりもご飯、ご飯のときはご飯よりもバカ話、
お酒も入ってくると人のスピーチにうとうと‥‥
こういう人たちが、実はけっこういます。
お祝いの会がすすむにつれて、はっきりしてました。
村の人たちにはレオさんのジャージなんて、
どうでもいいことです。

レオさんのお宅に初めて伺った日。
彼は大きな敷地に自分で建てたらしい納戸や
小屋を次々と、楽しそうに案内してくれました。
そこに貯蔵されているいろんな種類の麦のこと、
ベリーの保存法、パンを焼くときの薪のくべかたや
用途で使いわける木の種類のこと‥‥
熱心にいろんな話をしてくれました。
どれも親や周囲の人たちから教えられた
生活の知恵に根付いていながら、
それらは同時に自分でもいろんな方法を試し、
確認した結果でもありました。

昔ながらの暮らしぶり、そんな風でもあり、
こだわるところも多そうだけれど、
でもガチガチじゃないんですよね。
自分の口にするものは、
出来る限り自分の手で育てている、
そいういうこだわりはあるけど、
スーパーでのお買い物も楽しいよ、みたいな感じ。

「レオさんはね、自分が人にどう思われているかなんて
 まったく気にしないんですよ。
 だから私はレオさんが大好きなんです」

そう、村の人が言っているのを聞いたことがあります。
真摯でしなやか‥‥
レオさんは私がよくフィンランドの人たちに対して使う、
このキーワードのまんま暮らしている、
そんな人のように思えます。
またフィンランドの人たちがいいなと思う、
そんな生き方をしていらっしゃるようでもあります。
自分から率先して
お友達を作っているようではありませんが、
向こうからいろんな人たちが、
なんとなくレオさんと一緒にいたくてやってくる‥‥
そういう心地のよさがレオさんにあるし、
レオさんの家にもあります。

2009-05-07-THU
morishita

とじる

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