たたずまいが飄々としていて、淡々とお話をする‥‥
そんな印象のあったハッリさん。
ハッリさんと、パートナーのテレサさんの経営する
彼らのレストランにはじめて行ったとき、
ホールを担当するハッリさんとお話ししながら、
カウリスマキ映画に登場する
“飄々として、淡々”なおじさんたちのことが
頭をよぎっていました。
そんな人を目の前にしながら、
私はレストランに流れた
往年のフィンランドタンゴに合わせて、
ノリノリで歌いだしていました。
淡々と静かに話していた空間に
とんちんかんな空気が広がります。
そんな空気を静かに受け入れるどころか、
ハッリさんは大喜びしてくれました。
そして、このレストランでは
古き良きフィンランドの音楽しか流さないんだと
嬉しそうに話してくれました。

ハッリさんのレストランには、
常連さんたちがいて、
同窓会のようなグループがいて、
仲良しさんたちでお祝いのお食事会がいて、
そして外国人の旅行者たちがいて‥‥と
色んな人たちが来ています。
元ボクサーのおじいちゃん。
長年連れ添った奥様をなくされて
家庭料理が恋しくてやってくるおじいさん。
そんな人たちに彼はやさしく声をかけます。
息子っぽい表情でくだらない冗談も交えながら。
年齢が近いお客さんたちとは、
もっとアホらしい冗談を言い合ってみたり。
元大工さんの彼は、同世代の男性にとって
憧れの腕前の持ち主で、
いろんな大工仕事のことを
丁寧に説明してあげたり、そうして
兄貴のような表情で
お客さんたちを見守っています。
フィンランドのレストラン文化。
独り身の、特におしゃべりが得意でないような男性が、
身の上話をゆっくり聞いてもらえる場所‥‥
かつてレストランはそういう場所だったのだそうです。
不況の時代にそういう場所がひとつ、
またひとつと消えていきました。
お給仕さんたちを減らしたり、
安く働いてくれる若い人たちを雇いたがる
レストランが増えたからでした。
ハッリさんとテレサさんが二人で切り盛りしている
このレストランは、
身の上話をゆっくり聞いてくれる人がいて、
そして誰にとっても
「おかあさんの味」になってしまうような
愛情たっぷりのご飯がある、
そんな場所なのでした。

飄々淡々でありながらお話大好きハッリさんですが、
聞き上手でもあります。
そんな彼と彼の周りには
楽しいエピソードがたくさんあります。
子供の頃のいたずらとか武勇伝とか、
やっぱりフィンランドのおじさんも、
「昔のワルっぷり」を自慢し合ってみたり、
笑いあったりするのが好きなんです。
おまけにそういう話を喜んで聞いてくれる人が
いるって分かってからのスパートのかけ具合いときたら。
それは絶対誇張しすぎでしょう、みたいな話が
次から次へと競うようにでてきます。
なんだか私も行くたびに
「おじさん、おおいに語るの会」に
巻き添えくらったような状態になっていました。
その日はまだあまりお客さんの
いらっしゃらない時間でした。
ハッリさんは唐突に
「力作、わがサマーハウス」な話をしてくれました。
湖と川が出会う場所、スモークサウナ、
釣った魚を炙り焼きできる小屋、
こっちにあれがあって、こっちは何々で‥‥
途中で紙を取りにいき、青いボールペンで
いろんな建物やら魚の絵、
サマーハウスの建つ敷地のことを
あれこれ描いてくれました。
これはすごい! そんなサマーハウスです。
こんなにこだわりのある、
かわいらしいサマーハウスは見たことありませんでした。
ハッリさんの淡々と飄々のハザマには、
人が好きで自然が好きで、そして手仕事が好きな、
すごい世界がいっぱいありました。
|