鈴木敏夫さんと
深夜の映画館で。
「ダークブルー」の時の
トークを文字で読む。


物語は「縛り」から生まれる





糸井 え、まぁ、ほんとにねぇ‥‥。
急に思いついて、鈴木さんに電話して
こんなイベントをさせてもらっちゃって。
鈴木 いえいえ、こちらこそ。
いつもお世話になっていますから。
糸井 いま一緒に見た『ダーク・ブルー』
そうですけど、日本でも、映画監督たちが、
時代劇映画を作りたがる風潮があるんですよ。

あ、日本だけじゃないかもしれない。
ほらあれ、こないだ日本に来ていた、
ぼくがよく似てると言われるトム・クルーズが‥‥。
鈴木 (お客さんに)ここ、笑うところらしいですよ(笑)
糸井 (笑)‥‥こういうのって、
ぼくが家庭内で言っては、
いやがられるギャグなんですけど‥‥
まぁ、トム・クルーズもサムライをやってますよね?
鈴木 ええ。
糸井 それから、『あずみ』という映画もありますし、
『GO』の行定勲監督もそっちに行きたいみたいです。
宮本武蔵ブームも、そうでしょう?

「縛りがあって
 人の社会があった時代じゃないと、
 物語が作りにくくなっているのかなぁ」
という消極的な見方もできるわけですし‥‥。
鈴木 みんなが時代劇をしたがるっていうのは、
どういうことなんですか?
糸井 恋愛をしろって言った時に、
「誰としたっていいじゃない」
という時代って、描きようがないですよね。
でも、こないだ
テレビドラマで流行った『真珠夫人』とか。
‥‥あ、知らないですか?
これは、教養として
知っておいたほうがいいですよ(笑)
鈴木 (笑)
糸井 内容は、つまり鈴木さんが男で、
ぼくが女だとしたら、ふたりは申しあわせて、
「わたしとあなたは一緒になるの」
という約束を、しているんですよ。
ところが、どういう理由かわかりません、
ま、ぼくは詳しくは知っていないんですけど、
これが、とにかく分断されるんです。

で、ぼくが、金だけ持ってる夫のところに、
嫁ぐんです。
ところが‥‥ダンナには「させない」んですよ。
鈴木さんに操を立てつづけている。
鈴木 (笑)ふーん。イイ話ですね!
糸井 ええ(笑)。
そこでは、セックスが
暴力のようなものとして扱われるんですよ。

夫が、なんやかんや言って
「‥‥させろ!」という行動に出る。
しかし、いや、させない。
あぁどうしよう、あ、こんなことが、
ついに今日はさせちゃうんじゃないか‥‥。
というようなことを、
みんなが毎日見てたらしいんです‥‥。

つまり、貞操が風前の灯火、
「逃げろ! あぶない! 敵はうしろだ!」
みたいな‥‥そういうところにかならず
何かポーンと後ろにぶつかって夫が気絶するのか
なんなのかは知りませんけれども、事件が起こって、
「とうとう、今日もさせませんでした。よかった」
っていうことを、「させるなぁ!」って
みんなが応援する昼メロなんですよ。
観客 (笑)
糸井 原作がね、あの誰だっけ。
古いんです。舟橋聖一じゃなくって‥‥。
(※註:NHK大河ドラマ第1作
    『花の生涯』などの原作者)
鈴木 それ、また、古いですね(笑)
糸井 (笑)
観客 ‥‥菊池寛!
糸井 そうそう、菊池寛。
鈴木 え!そうなんですか。
糸井 そうなんですよ‥‥これはね、もう、
言わば、貞操をめぐる戦争物語ですよね。
「貞操戦争」だ!
鈴木 (笑)さっきの「縛り」っていうのは、
いま、流行っているんですかねぇ、やっぱり。
糸井 「縛り」がないと、
できないからでしょうねぇ‥‥。
例えば、スターウォーズにしたって、
「縛り」から作っているようなものじゃないですか。

あれこそ、宇宙っていう無限の可能性を前に
「化け物は何を描いてもイイのねぇー」と
自由絵画をおこなっているように見えるけれども、
言わばギリシャ神話とでも言うか、
「チャンバラもの」でもありますし、
ところどころ、西部劇の「縛り」があったりする。
そもそも「姫」がいるわけですし。

テレビゲームのRPG中で描かれているのも、
「じつは後の何々の王様だった」だとか、
騎士道物語のモチーフを扱うことが多いでしょ?

「いま」をそのまま扱うことって‥‥
そうですねぇ、よっぽど、
もう崩れてしまった何かを描いて、
「あ、オレは、ああいう風じゃないなぁ」
と思わせるようなものはありますけれども、
そうじゃない描き方って、
ほんとうに、たいへんなんじゃないかなぁ。

山田太一だって、時代劇でしょ?
とうとう、寅さんから。
鈴木 (笑)‥‥それ、洋次。
糸井 あ、そうそう。洋次洋次。
鈴木 いやぁ、いま伺っていて、
ちょっと気になったのは、
ちょうどいま、再来年の作品について、
宮崎駿と話しあっているところだから
なんです。

『ハウルの動く城』という再来年公開の作品。
イギリスの児童文学としての原作はあるんですけど、
宮さん(宮崎駿さんのこと)は、
いつも自由闊達にやるほうですので、
時代設定から考えていくわけです。

そしたら、ある時、宮さん、
「19世紀末にしよう!」と言いだしたんです。

なんでかというと、
その時代のヨーロッパの人たちは、
「空想絵画」をいっぱい描いてるんですね。
糸井 へぇー。
鈴木 「20世紀は、こうなるだろう」って。
そうすると、当時の空想であるがゆえに、
ほんとうには実現できないものなんですけど、
そうなると、結果として、
科学と魔法が入り交じった世界になるんですね。
糸井 うんうん。
鈴木 「それが舞台だ」と。
その中で、いま彼(宮崎さん)と
話していていちばん悩んでいるのが、
「クルマを出すべきか、出さざるべきか?」と、
これをいま、考えているんですよねぇ。
糸井 へぇー、なるほど。
つまり「タイヤを履いたもの」があるかどうか。
鈴木 でも、当時、すでに飛行機は飛んでいる、という
そういう時代なんです。
糸井 飛行機は、
鳥から想像して作るわけだから、
ありうるわけですね。なるほど。
鈴木 そうなんです。
そのくせ、クルマをなしにするかも、という。

で、その時代に設定すればね、
そこでの恋も、艱難辛苦を乗りこえないと、
うまくいかないだろうという‥‥。
「それをやろうよ」というのが宮さんの提案なんです。

そして、もう1コ。
戦争というものが起きている時代。
戦争が起きて、それが迫ってきている。

たいがい、そういう状況におかれれば、
激しくなるじゃないですか。
糸井 恋愛の中に「死」までが
計算に入ってきますね。
鈴木 ええ、そういうことです。
それでなおかつ、主人公たる人は、
「戦いの中で、どっちにつくのか?」
という極限状態にも立たされるという‥‥
そういうことを、ここのところ毎日話していますから、
「縛り」って聞いて、なんだか気になったんです。
糸井 それはやっぱり、物語って、
「縛り」に行くしかないんじゃないかなぁ‥‥。


(明日につづきます。おたのしみに!)

2002-12-04-WED

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