糸井 |
歳取ってもね、
いっつもたのしいですよ。
「きついなぁ」というのも含めてたのしいです。
いずれにせよ、「やりようがある」と
思ってるうちは
何だってたのしいですよね。 |
鈴木 |
はい。 |
糸井 |
「ああこれは、ほんとうにやりようがない!」
と、思う瞬間が来たとき、
それにのまれちゃったら、
いよいよたのしくなくなるでしょう。
ぼくは、そういうふうに
「あ、ダメだ」と
思ったことがありました。
そして、ぼくはまず、
手に持ってるものを全部手放した。
それが、40代のおもしろさでした。 |
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鈴木 |
そうなんですか。 |
糸井 |
手放していくと、
つらくなくなっていくんです。
「へぇ、ここからまた変わるんだ」
ということになって、
それはぜんぶ、おもしろかったですよ。 |
鈴木 |
へぇえ。 |
糸井 |
‥‥あ、そういえば、その頃だ、
木村拓哉くんに会ったのは。 |
鈴木 |
そうか、その頃‥‥。 |
糸井 |
映画の「イージー・ライダー」で、
ピーター・フォンダが
ハーレーダビッドソンに乗ってたでしょう。
砂漠の一本道をバイクで行くとき、
後ろに弁護士出身で酔っぱらいの
ジャック・ニコルソンが乗ってるんです。 |
鈴木 |
そうですね。 |
糸井 |
運転してるピーター・フォンダは
それなりに冷静で、でーんと構えてる。
だけど、後ろに乗ってる弁護士は
それまで知らなかった世界がおもしろくて、
キャーキャー言ってるんです。
それがオレですよ。 |
鈴木 |
ははははは。 |
糸井 |
40代のオレは、
新しい世界に乗っけてもらって、
キャーキャーしてました。
なんておもしろいんだ、
若いやつっていうのはなんておもしろいんだ、
ってね。
それまでのオレは、いわば
弁護士の資格で商売してました。
それを酒瓶ひとつに変えちゃって、
キャーキャー言ってた。
40代は、厄年も来るし、
いろんな人のいろんなことが
いっぺんにやってきますから。 |
鈴木 |
そうそう、厄年‥‥厄年っていうのは、
いったい何なんでしょうか。 |
糸井 |
いわば、折り返しでしょうか。
そこで病気したり、
あるいは、金で済ませるような
プレゼントを考えるはめになったり(笑)。
そういう暮らしのあれこれが
だいたいひととおり
「ため息つくような事態」になる。
それが厄年なんでしょうねぇ。 |
鈴木 |
そういう40代って、
怖くないでしょうか。 |
糸井 |
怖いです。
だけど、その不安が
すごく栄養になって、
ジタバタしたこと全部が
あとの自分を作ります。
ジタバタしてよかったし、
手放してよかったし、
請求書を見つめてよかったし‥‥。
鈴木さん、すれ違っただけの
女の子にモテちゃったりしたことも
あるでしょ? |
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鈴木 |
いやぁ、あの(笑)‥‥、
ぼくが、大島の前に
半年間つきあってた人がいまして、
その方は、モデルさんでした。
その人が、ぼくが大島と
結婚することを知ったとき、
そうとう愚痴を言ってたそうなんですが、
いや、そりゃそうだよな、って思うんですよ。 |
糸井 |
そりゃそうですよ。
それが、40歳になると
さらに大きな請求書となって
返ってきます。 |
鈴木 |
40で。 |
糸井 |
うん。
当時、その人と
建築したものがあります。
自分なりに、構想もありました。
だけど、鈴木さん‥‥、
モデルには、してもいいと思ってるんですよ、
そういうこと。 |
鈴木 |
そうですね。
‥‥はい。 |
糸井 |
女子大生にはしちゃダメだけど、
モデルには、いい。
「どうせモテるんだし」 |
鈴木 |
‥‥そうですね。 |
糸井 |
でも、彼女は
「別れの似合う女になってます」
みたいな歌を、
モデルであると同時に歌っています。
どうしますか。
40になって、請求書来ますよ。 |
鈴木 |
‥‥はははは。 |
糸井 |
道でばったり会うか、もしくは
誰かのマネージャーとして
テレビ局に来たりします。
子役デビューした娘に
母親として付き添ってスタジオに来て
「あ、鈴木さん」
って、ものすごく丁寧に言ってきます。 |
鈴木 |
ははははは。 |
糸井 |
「これは謝ることでもないけど
オレはあんとき
モデルだということをいいことに、
大島に乗り換えたっけなぁ」 |
鈴木 |
うーん。 |
糸井 |
女優だ、モデルだみたいな子は傷つかないと
思ってるんですよ、放送作家は。 |
鈴木 |
いや、あの‥‥ははははは。
またその、モテる感じに腹を立てたりも
しましたからね。 |
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糸井 |
ぶっ(笑)。 |
鈴木 |
モデルは、クラブとか
タダで入れてくれたりするんです。
それに説教したりしてました。 |
糸井 |
そんなことしてたから、
それを利用して、タダ乗りしたんですよ。
お父さんもお母さんもいるんだよ、彼女には。 |
鈴木 |
そうなんですよ。
そこなんですよ。 |
糸井 |
大島さんのお父さん、お母さんのように、
モデルにも、お父さん、お母さんがいます。
きれいな子たちの傷は、
誰からも同情されないんですよ。 |
鈴木 |
たしかに、新聞に「女優が別れた」
みたいな記事が出ても、
なんとも思わないですもんねぇ。
別れたって、すぐまた彼氏できるし、
と思ってしまいます。 |
糸井 |
へっちゃらでしょう。 |
鈴木 |
でも、傷つき方たるや、
当然ながらそうとうな思いなわけです。 |
糸井 |
女優は女優で、
女優スーツ着てますから、
わたしは傷つかないんだというふうにして
心情をチェンジすることが
上手になっています。
だけど、魂の部分では、
女の人は全部おんなじ女の人ですから。
‥‥ということが、
45ぐらいのときにわかります。 |
鈴木 |
予告編を見ちゃいました(笑)。 |
糸井 |
うん。
鈴木さんだけじゃない、
誰でもそういうことをしてるわけです。
「わたしは平気」というテーマの
中島みゆきさんの歌が
染みるようになったりする、それだけです。
たまんないです。
反省すればいいのかというと、
よくわかんない。
きっと、「わかりました」と言いながら
世界観を広げるしかないんですよ。
そして、自分が作れるもので
恩返しをしたりするしかないんですよね。 |
鈴木 |
そうかぁ。 |
糸井 |
だけどそれは男ばかりかというと
そうでもなくて、
男を粗末に扱った女が
40ぐらいになって悪かったかもしれない、
と思う。
そういう時代がいま、来ていると思います。 |
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(続きます) |