為末大さんプロフィール
ツイッター上ではやり取りしていたので、なんだか昔からの知り合いみたいに思ってる人も多いかもしれませんが、じつは、この日が初対面でした。男子400mハードル日本記録保持者、為末大さん。世界選手権で二度の銅メダルを獲得し、2012年の現役引退後は、さまざまなメディアで自身の考えを積極的に発信しています。糸井重里と共通するのは、たっぷり考えることと、たくさんしゃべること、出会った早々、ふたりはすぐに深いところまで降りていって、思ったとおり、あっという間に時間が過ぎました。
もくじ
第1回 「言える」と「できる」。 2014.8.29
第2回 誰に話しているんだろう? 2014.9.1
第3回 有名になる能力はなかった。 2014.9.2
第4回 日常から、はみ出たい。 2014.9.3
第5回 引退に向かうとき。 2014.9.4
第6回 あの興奮はもうないんだ。 2014.9.5
第7回 ひざを出すスイッチがひじにある。 2014.9.8
第8回 9秒3とか行っちゃうかもしれない。 2014.9.9
第9回 動きがあったほうがたのしい。 2014.9.10
第8回 9秒3とか行っちゃうかもしれない。
糸井 最後に、どうしてこんなにしゃべるのかなぁ、
という最初の質問に戻ってみたいんですけど。
為末 はい。
糸井 それってじぶんへの問いかけでもあるんです。
誰になにを言いたいんだろうな、って。
で、ぼくがひとつ思ったのは、
やっぱり、じぶんが生きやすいように
そうしているんだな、ってことです。
芝刈りをしたり、道を平らにしたり、
っていうのと同じように、
つまり、俺の生きやすい環境をつくるために
しゃべってるんだよ、っていうのが、
いまのところ、一番、しっくりくるんです。
為末 あーー、なるほど。
糸井 だから、たとえば、ぼくが言ったことに、
誰かほかの人が怒ったりする。
なぜ怒るかっていうと、
「それは、おまえは生きやすくなるけど、
 俺は生きづらくなっちゃうぞ」
っていう意味だと思うんですね。
為末 そうか、そうか。
あの、ぼくは、
じぶんがなぜこんなにしゃべるのか、
今日、はじめて聞かれたことなんで、
ずっと考えてるんですけど‥‥。
糸井 なかなか質問されないことですよね(笑)。
為末 ええ(笑)。
手がかりとしてひとつあるのが、
ぼく、競技をやってるときに、
「なんでこんなに走りたいんだろうな?」
って、よく思っていたんですよ。
もう、さんざん、走ったのに、
まだ走りたいって思ってる。
ぼくだけじゃなく、
陸上のグラウンドに行くと、
走り出そうとしている子どもたちがいる。
人間って、なんでこんなに
走りたいんだろうな、ってよく思うんです。
で、思ったのは、こう、
持っている能力を使いたいというか、
じぶんを発散させたいというか、
もっとシンプルにいうと、
「動き」がほしいのかなという気がするんです。
糸井 ほう、ほう。
為末 こう、いろんなものに、
動きがある、っていうことが、
ぼくらのよろこびだったり、
たのしさだったりするんじゃないかと。
なにかしゃべる人たちって、
やっぱり、なんかこう、社会に動きを
つくっていきたいんじゃないかと思うんです。
ぼく自身、動きをつけたいというのは
欲求としてずっとあって。
じぶんの体も動かしたいし、
社会も動いてほしい。
動かしたいと思ってる方向が、
どういう方向なのか、
それはよくわからないんだけど、
「動きがあったほうがたのしい」
みたいな感じが、ぼくのなかでは強くて。
じぶんがしゃべることで、
なんかいろいろと、動きをつけたい
というのはあるのかなと思いました。
糸井 それは、為末さんの動機としては
すごく腑に落ちますね。
為末さんって、いつも、
なにかを変えることについて
しゃべってますよね。
具体的になにかが動かなくても、
少なくとも、
誰かのこころを変えるようなことを。
為末 ああ、そうですね。
糸井 その逆が、しゃべるためにしゃべるというか、
じぶんの頭のよさをアピールするためだけに
しゃべっているようなことで。
大衆という殿様のまえで、
木刀持って腕自慢をするような感じで、
自分の価値を高くするためにしゃべってる。
為末さんは、そういうことを
したいわけじゃないんですよね。
為末 はい。
糸井 ぼくも興味ないんですよ、そこは。
だから、負けてもいいし、
どう思われてもしかたないなと。
ただ、じぶんが生きやすくなるように
しゃべってるんだと思う。
為末 たぶん、ぼくは、じぶんがしゃべることで
なにかが動くのがたのしいんだと思うんですね。
だから、突き詰めていうと、
世の中がそれでよくなるかどうか、
たぶん、ほんとのところは
あんまり興味がなくて。
糸井 うん、うん、うん。
為末 でも、そういう世の中になったほうが、
じぶんがわくわくする
っていうところから来てる。
勝手な理由のようですけど、
競技をやってたときも、
そういうふうにとらえている方が、
モチベーションが高くて
いいパフォーマンスが続くんですよ、なんか。
糸井 ああー。
為末 だから、深いところでは、
「誰かのために」っていうことがあっても、
やっぱり、大切なのは‥‥。
糸井 「たのしい」とか。
為末 そうなんですよね。
「たのしい」とか、
よろこんでる人の顔を見ることで、
「じぶんがよろこぶ」からやるっていう。
なんか、けっきょく、じぶんのことに。
糸井 行きますよね(笑)。
為末 ええ。
だから、そういったモチベーションが
すごく強いのかなと思うんですけどね。
糸井 それは、正直言って、ぼくも、
まったくそうだと思っていて。
だから、なんかのためだっていうときに、
社会のため、みたいなことを、
そういう気持ちはもちろんゼロじゃないけど、
それを言う手前でやめておきたいっていうか。
為末 うん。わかります。
糸井 やっぱり、じぶんのためなんだなぁ。
で、「俺のため」って、ちゃんと言うほうが、
たくさんの人が、逆に助かるんじゃないか、
みたいなことを、こう、探そうとしている。
そんな気がするんですよね。
為末 はい。
糸井 だから、政治家じゃなくて、
さっきも言いましたけど、
じぶんの店をたのしくしようとしている
マスターみたいなものかもしれない。
たのしい店をやってる、マスター。
為末 そのくらいの規模感がいいですよね。
あの、最後にひとつ、質問していいですか?
糸井 ええ。
為末 糸井さんが、考えたことや、思ったこと、
いろんなことをことばにしていくときに、
気をつけてることってありますか。
糸井 ああ‥‥。
あの、書いたものって、
かならず、なにかに似てるんですね。
いちばんは、前にじぶんが書いたものに、
無意識で似るんです。
たとえば、為末さんだったら、
ふつうに走ったら、こうなるっていうことが
自然にわかりますよね。
走るときのピッチとか、ストロークとか。
それと同じように、書いてるときにも
同じようなことを同じように
書いてしまうことがある。
それでもいいや、って決めて
あえてそのままにするときもあるんですが、
できるだけやらないようにしてます。
為末 ああーー。
糸井 いい違和感だったらいいんですけど、
いやな違和感があったら、捨ててしまう。
そこは、いつも気づけるように、
じぶんに対して敏感でいられるように
していると思いますね。
為末 なるほど‥‥。
ありがとうございます。
いや、今日はとてもおもしろかったです。
糸井 こちらこそ、どうもありがとうございました。
(ふたりの対談はこれで終わりです。
 最後までお読みいただき、
 どうもありがとうございました。)
2014-09-10-WED