糸井 | 最後に、どうしてこんなにしゃべるのかなぁ、 という最初の質問に戻ってみたいんですけど。 |
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為末 | はい。 |
糸井 | それってじぶんへの問いかけでもあるんです。 誰になにを言いたいんだろうな、って。 で、ぼくがひとつ思ったのは、 やっぱり、じぶんが生きやすいように そうしているんだな、ってことです。 芝刈りをしたり、道を平らにしたり、 っていうのと同じように、 つまり、俺の生きやすい環境をつくるために しゃべってるんだよ、っていうのが、 いまのところ、一番、しっくりくるんです。 |
為末 | あーー、なるほど。 |
糸井 | だから、たとえば、ぼくが言ったことに、 誰かほかの人が怒ったりする。 なぜ怒るかっていうと、 「それは、おまえは生きやすくなるけど、 俺は生きづらくなっちゃうぞ」 っていう意味だと思うんですね。 |
為末 | そうか、そうか。 あの、ぼくは、 じぶんがなぜこんなにしゃべるのか、 今日、はじめて聞かれたことなんで、 ずっと考えてるんですけど‥‥。 |
糸井 | なかなか質問されないことですよね(笑)。 |
為末 | ええ(笑)。 手がかりとしてひとつあるのが、 ぼく、競技をやってるときに、 「なんでこんなに走りたいんだろうな?」 って、よく思っていたんですよ。 もう、さんざん、走ったのに、 まだ走りたいって思ってる。 ぼくだけじゃなく、 陸上のグラウンドに行くと、 走り出そうとしている子どもたちがいる。 人間って、なんでこんなに 走りたいんだろうな、ってよく思うんです。 で、思ったのは、こう、 持っている能力を使いたいというか、 じぶんを発散させたいというか、 もっとシンプルにいうと、 「動き」がほしいのかなという気がするんです。 |
糸井 | ほう、ほう。 |
為末 | こう、いろんなものに、 動きがある、っていうことが、 ぼくらのよろこびだったり、 たのしさだったりするんじゃないかと。 なにかしゃべる人たちって、 やっぱり、なんかこう、社会に動きを つくっていきたいんじゃないかと思うんです。 ぼく自身、動きをつけたいというのは 欲求としてずっとあって。 じぶんの体も動かしたいし、 社会も動いてほしい。 動かしたいと思ってる方向が、 どういう方向なのか、 それはよくわからないんだけど、 「動きがあったほうがたのしい」 みたいな感じが、ぼくのなかでは強くて。 じぶんがしゃべることで、 なんかいろいろと、動きをつけたい というのはあるのかなと思いました。 |
糸井 | それは、為末さんの動機としては すごく腑に落ちますね。 為末さんって、いつも、 なにかを変えることについて しゃべってますよね。 具体的になにかが動かなくても、 少なくとも、 誰かのこころを変えるようなことを。 |
為末 | ああ、そうですね。 |
糸井 | その逆が、しゃべるためにしゃべるというか、 じぶんの頭のよさをアピールするためだけに しゃべっているようなことで。 大衆という殿様のまえで、 木刀持って腕自慢をするような感じで、 自分の価値を高くするためにしゃべってる。 為末さんは、そういうことを したいわけじゃないんですよね。 |
為末 | はい。 |
糸井 | ぼくも興味ないんですよ、そこは。 だから、負けてもいいし、 どう思われてもしかたないなと。 ただ、じぶんが生きやすくなるように しゃべってるんだと思う。 |
為末 | たぶん、ぼくは、じぶんがしゃべることで なにかが動くのがたのしいんだと思うんですね。 だから、突き詰めていうと、 世の中がそれでよくなるかどうか、 たぶん、ほんとのところは あんまり興味がなくて。 |
糸井 | うん、うん、うん。 |
為末 | でも、そういう世の中になったほうが、 じぶんがわくわくする っていうところから来てる。 勝手な理由のようですけど、 競技をやってたときも、 そういうふうにとらえている方が、 モチベーションが高くて いいパフォーマンスが続くんですよ、なんか。 |
糸井 | ああー。 |
為末 | だから、深いところでは、 「誰かのために」っていうことがあっても、 やっぱり、大切なのは‥‥。 |
糸井 | 「たのしい」とか。 |
為末 | そうなんですよね。 「たのしい」とか、 よろこんでる人の顔を見ることで、 「じぶんがよろこぶ」からやるっていう。 なんか、けっきょく、じぶんのことに。 |
糸井 | 行きますよね(笑)。 |
為末 | ええ。 だから、そういったモチベーションが すごく強いのかなと思うんですけどね。 |
糸井 | それは、正直言って、ぼくも、 まったくそうだと思っていて。 だから、なんかのためだっていうときに、 社会のため、みたいなことを、 そういう気持ちはもちろんゼロじゃないけど、 それを言う手前でやめておきたいっていうか。 |
為末 | うん。わかります。 |
糸井 | やっぱり、じぶんのためなんだなぁ。 で、「俺のため」って、ちゃんと言うほうが、 たくさんの人が、逆に助かるんじゃないか、 みたいなことを、こう、探そうとしている。 そんな気がするんですよね。 |
為末 | はい。 |
糸井 | だから、政治家じゃなくて、 さっきも言いましたけど、 じぶんの店をたのしくしようとしている マスターみたいなものかもしれない。 たのしい店をやってる、マスター。 |
為末 | そのくらいの規模感がいいですよね。 あの、最後にひとつ、質問していいですか? |
糸井 | ええ。 |
為末 | 糸井さんが、考えたことや、思ったこと、 いろんなことをことばにしていくときに、 気をつけてることってありますか。 |
糸井 | ああ‥‥。 あの、書いたものって、 かならず、なにかに似てるんですね。 いちばんは、前にじぶんが書いたものに、 無意識で似るんです。 たとえば、為末さんだったら、 ふつうに走ったら、こうなるっていうことが 自然にわかりますよね。 走るときのピッチとか、ストロークとか。 それと同じように、書いてるときにも 同じようなことを同じように 書いてしまうことがある。 それでもいいや、って決めて あえてそのままにするときもあるんですが、 できるだけやらないようにしてます。 |
為末 | ああーー。 |
糸井 | いい違和感だったらいいんですけど、 いやな違和感があったら、捨ててしまう。 そこは、いつも気づけるように、 じぶんに対して敏感でいられるように していると思いますね。 |
為末 | なるほど‥‥。 ありがとうございます。 いや、今日はとてもおもしろかったです。 |
糸井 | こちらこそ、どうもありがとうございました。 |