書店に平積みされた少女漫画の単行本を
開いてみると、そこには
めくるめく、TAROワンダーランドが
くり広げられていた!
『オッス! トン子ちゃん』は、
TAROを好きな人はもちろん、
これから知ろうとしている人にも、
ぜひ手に取ってほしい一冊です。
「太郎サまで 太郎サまで
 アタスらしさとか言うダスか!」
 主人公にこんな言葉を言わせる作者、
タナカカツキさんのTARO観とは?


第2回
ウソがつけなくなってしまう!


── タナカさんは、
映像作品もたくさん
つくっていらっしゃいますが、
世にたくさんある映像の作品について、
正直言って「わからないな」と思って
みてしまうことが多いんです。
現代的な音楽にあわせて、
グルングルンとテーマのような
CGがまわっている。
「わかる」ということよりも、
楽しむものなんだと思おうとしても
「わっからんなー‥‥終わった‥‥」と
なってしまうことが多い。
ところが、タナカさんの作品は、
なぜか見入ってしまうんですよ。
タナカ うーん。そういう場合は、もしかしたら、
作家がわからんまま、
つくってるのかもしれないね。
少しは自分のつくっているものを
わかりながらつくるとええんとちゃうかな。
全部をわからなくてもいいですけれども。
── スタイルでやっているかんじが、
ちょっとわかってしまうというか。
タナカ ああ、そうね。スタイルの上に
あぐらをかいてるかんじでしょ?
なんなんですかね、スタイルねぇ。
‥‥そういうときに
岡本太郎がまたええこと言うんですよ。
── あ! どんなことでしょう!
タナカ えっとなー(笑)!
人間の根源的なとこで感じろ
とか、言うのよ。
なにしろ、なにかの一部を切り取って
そこで盛り上がってるものはあかん、と。
── はい。
タナカ たとえば、「伝統」というものは、
スタイルの最たるものでしょ?
伝統伝統言うたって、
ただ伝統を守りゃええのではなくて
おもろいもんだけを残しゃあええやないか、と
太郎はよく言っていたと思うんですよね。
そもそも、スタイルで
なにかをつくろうとしているときは、
「おもしろい」と
思てないでしょ。
── あ、つくる側が!
タナカ そこですよ。
がないですやん、魂が! な?
スタイルとかいうもんには、
魂があれへんやん。
── ‥‥でも、
それは、若いとしょうがないかもしれません。
タナカ そやね!
── すぐに肯定しますね!
タナカ タハハハ。
── 「あの人と比べて私は負けている」
「うまくやっていかないとだめだわ」
と思っているとしたら、
スタイルに入ることがまずはいちばんの
近道のような気がしてしまうんですよ。
ですから、前髪バッツンしてみたり。


『オッス! トン子ちゃん』より
タナカ そやね、そやね。
それは、そうしてしまうもんなんやね。
でも、トン子ちゃんは
前髪バッツンの人のことを、
認められないんですよ。
それはそれで悲しいことやね。
あのね‥‥この子はね、
なんにも信じれないんですよ。
なににも「はまる」ことができないわけですよ。
── 「前髪バッツンめ!」


『オッス! トン子ちゃん』より
タナカ 「型にはまってろっつの!」
でもまあ、トン子も一種の型だよね。
こういう人、いるやん。
── 「自己紹介はニガテダス」。
タナカ そうそう(笑)。斜に構えて、距離を置いて、
ちょっとマニアックなものが好き。
そういう型に入っている人も、
たくさんいるよ。


「型にはまって、魂を忘れたらだめよ」
── ところで、
「スタイルには魂というものがない」
という話が出ましたが、
魂って、どこから生まれてくるんでしょうか?
タナカ そうやね。例えばふだんは
こまかーいウソつきながら
生きているわけです。
「今日は天気いいですね」と言われたときに
ちょっと曇ってるなーって思っても
「曇ってますけどねえ」言うたら、
だめでしょ。
そこを飲み込んで「いい天気ですね」と言う、
そういうことがいっぱいあります。
── はい。
タナカ そんな生活のなかで
ある日、夕焼けを見て、
それがめちゃくちゃきれーかったら
そこでは、こまかいウソをつく必要が
なくなるんです。
── ただ、「きれー!」という気持ちで
いっぱいになりますね。
タナカ うん。もうひとつ例を挙げますね。
ちっちゃいときって、みんな
虫に興味を持つでしょ?
でも、大人になったら
好きじゃなくなる。なんでか?
── 気持ち悪いから。
タナカ そう、それはたぶん、
いろいろ知るからですよね。
気持ち悪いということが、なんなのかも。
── 虫は、足がゲジョゲジョ動いていて、
気持ち悪いです。
タナカ うん、例えば、
足がいっぱいある虫の代表、ゲジゲジですが、
あれは、裏向けたら、
等間隔で足がはえていて、すごいでしょ?
ほんとは、美しいんですよ。
きっと数式が書けるくらいきれいなんです。
でも「気持ち悪い!」と思ってしまうのは、
魂のところにある扉
無理やり開かれるからなんです。
「あかん!」という力が働くのよ。
── へえ!
タナカ あかんねん!
ここ開いたら、
こまかいウソが
つけなくなるから!

ふだんはみんな、
人やものとの関係のなかで生きてるから、
無意識に避けてしまうんですよ。
そこに、魂がかくれているんです。
── はあー!

(つづきます!)

2004-01-13-TUE

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