松田 |
糸井さん、
「アニョープレサレ」ってご存知ですか?
|
糸井 |
いえ、知らないです。‥‥何ですか?
|
松田 |
フランスの海沿いで飼われている羊なんですが、
その地方は、海の塩分を吸う関係で
草が塩味を含んでるんです。
で、その塩味の草を食べることによって
羊の肉質が、とても柔らかくなるんです。
|
|
糸井 |
ほー‥‥。
|
松田 |
ぼく、いままでに食べた肉のなかでも
そのアニョープレサレが
いちばんおいしいなと思っていまして。
|
糸井 |
なにか、聞いただけで、おいしそうな。
|
松田 |
陸前高田の町も、
津波のために塩がしっかり入っていて、
作物をつくることができない。
|
糸井 |
‥‥ええ。
|
田村 |
でも、ごらんになったかも知れませんが、
草はボーボーに生えてますでしょ。
|
糸井 |
つまり‥‥。
|
松田 |
この町で羊を飼って、
塩分の効いた草を食べてもらって‥‥
羊の肉を名物にできたら
おもしろいんじゃないかなぁって。
|
糸井 |
なるほど‥‥ジンギスカンだ。
|
松田 |
平地に羊が飼われていて、羊飼いがいて‥‥
人は高台のほうに住む。
12.5メートルの防潮堤を建てるよりも
ずっといいと思うんです。
|
糸井 |
でも、具体的に「飼う」って、どこで‥‥。
|
田村 |
こういう絵があるんです。
|
|
糸井 |
これは‥‥?
|
田村 |
この町を復興していくにあたって、
ぼくたちの「理想のかたち」を絵に描いたんです。
|
糸井 |
はぁー‥‥。
|
田村 |
この絵でいうと、低くて平らなところは、
すべて農地や牧草地なんです。
|
糸井 |
じゃ、そこで、羊を。
|
松田 |
はい。
|
糸井 |
‥‥市場の一般的な羊の値段とは違う、
ちょっとハイクラスなものをつくりあげる必要性が
たぶん、ありますよね。
|
松田 |
プレミアムなもの、ですね。
|
糸井 |
ひとつの「ブランディング」ですけれども、
田村さん、
これ、経営者としての直感で‥‥やれますか?
|
田村 |
やれると思います。
|
糸井 |
その根拠は、何か‥‥?
|
田村 |
ぼく、遠野にも自動車学校を持っているんですが
あちらの人たちは、
非常に、ジンギスカンをよく食べるんです。
|
|
糸井 |
へぇ、そうなんだ。
|
田村 |
で、そのジンギスカン用の肉って、輸入してるんです。
|
糸井 |
なるほど‥‥。
|
田村 |
だから、陸前高田のアニョープレサレは
まずは羊の消費量の高い遠野に、供給する。
|
糸井 |
遠野の人たちは、高い羊でも食べますかね?
|
松田 |
そのへんはまだ、ちょっとわからないんですが、
ぼくたちは
観光でいらっしゃるお客さまに、食べてほしいなと
思っていて。
|
糸井 |
なるほど、「観光資源」として、ですか。
近くには、世界遺産の平泉がありますし。
|
松田 |
そうそう、そうなんですよ。
|
糸井 |
東京はじめとした都市部のお客さんを
どうやってつかむか‥‥が、大切でしょうね。
|
松田 |
はい。
|
糸井 |
もしかして、いままで「仙台」あたりを見ていた
東北の「市場的な視点」を
もう少し先、東京くらいまで伸ばしていくことが。
|
田村 |
そうそう、そうなんです。
|
糸井 |
でも、その羊は‥‥ちょっと興味あります。
|
田村 |
羊飼いには、地元のおばさんたちを雇って。
|
糸井 |
いいですねぇ(笑)。
|
田村 |
羊飼いのおばさんたちが
の〜んびり、羊といっしょに歩いている町。
|
糸井 |
うん、うん、うん‥‥。
この、まぁるいお花みたいなのは、何ですか?
|
|
田村 |
住宅にできればなあと思っております。
|
糸井 |
ああ、家か。
|
松田 |
拡大したものが、これなんですが‥‥。
|
|
田村 |
陸前高田は土地が狭いものですから、
できるだけ有効利用すべく、ロータリーの構造に。
|
糸井 |
ようするに「みんなの庭」をつくるわけだ。
|
田村 |
集合住宅としてのコミニティを
きちんと形成できれば
たとえばカーシェアリングもできるかなと
思ったりしていて。
|
糸井 |
なるほど。
|
松田 |
交差点も「ラウンドアバウト」にすれば
信号が必要ないので、電気代も削減できます。
|
糸井 |
ラウンドアバウトって、
あの、同じ方向にクルッと回っていく‥‥。
|
田村 |
車両がすべて左折で円に進入する方式です。
|
糸井 |
陸前高田のくらいのサイズの町なら、
できそう‥‥なんですか?
|
田村 |
交通量が「1時間あたり500台以内」であれば
成立するという話ですね。
|
糸井 |
町が小さいことを、うまく生かして。
|
田村 |
そうですね、はい。
|
糸井 |
なるほど‥‥「町のサイズ」という意味でも、
地元の人だけではなく、
おいしいものを目当てにしてる東京の人が
興味そそられるものを、つくりたいですよね。
|
|
松田 |
「陸前高田の羊」が現実的だなぁと思うのは、
子羊であれば
1年くらいの期間で出荷できるんです。
これが、カキやホタテの養殖となると
3年から5年かかりますから。
収入として
かたちにしやすいと思うんです、羊のほうが。
|
糸井 |
いま、お聞きしたようなアイディアを
四の五の言わずに
とにかくはじめちゃおうとしている速度感とか、
本気さとか‥‥これって
東京にいても、ぜったい産まれてこないです。
|
田村 |
陸前高田の市役所でも、
70人近くの職員が、亡くなっているんです。
だから、目の前の問題で精一杯なために、
この町の将来設計を考えているのは
外部の人なわけです、大学の教授だとか。
|
糸井 |
なるほど‥‥。
|
田村 |
それって、少しおかしいなと思っていて。
だから、すくなくとも
地元の人間による「叩き台」をつくったほうが
いいだろうと思って、この絵を描いたんです。
|
|
糸井 |
ええ。
|
田村 |
この町の将来を、どうしたらいいか。
先ほども申し上げましたが、
いまの計画では
防潮堤をつくって盛り土をするのに
5年かかると言われています。
|
松田 |
いなくなっちゃいますよね、みんな。
|
田村 |
ですから、通洋からもお聞きしているかと
思いますが、
まずは、ぼくたちがやれることとして、
12月に「なつかしい未来商店街」というのを
オープンしようと思っています。
|
糸井 |
ほう、なつかしい未来。
|
田村 |
コンテナの仮設店舗を一箇所にたくさん集めて
ひとつの商店街とする構想なんです。
そのための会社も、立ち上げました。
|
糸井 |
‥‥そのお話、たぶん今日、これから
通洋さんに聞くんだと思います、ここで。
|
田村 |
あ、そうなの?
|
河野 |
‥‥こんにちはー。
|
糸井 |
噂をすれば(笑)。
|
田村 |
おう、通洋。
|
河野 |
どうも。あ、糸井さん、こんにちは。
|
|
糸井 |
昨日お会いしたばかりですけど、東京で(笑)。
|
田村 |
お前の噂で持ちきりだよ。
|
河野 |
悪口言ってたんじゃないの?
|
田村 |
オレは言ってねえよ。
別に、ほめてもいねえけどな。
|
|
糸井 |
(笑)
<おわります> |