糸井 |
先日、「ほぼ日」のみんなで
『淀川長治の名画解説』(DVD)を
観たんですよ。
すばらしかったです。
「ほぼ日」のコンテンツは
タイトルのすぐそばに
「こういう内容ですよ」ということが
わかるような短いリード文を
つけているんですけれど、
ぼくたち、それを「ヨドガワ」って
敬意をこめて、呼んでいるんです。
もちろん淀川長治さんの
「日曜洋画劇場」の解説がヒントです。
淀川さんのだれにでもわかる平易なことばで
「よし、じゃあ観てみよう!」と
思ってもらえるような解説は、
ぼくたちのお手本なんですよ。 |
淀川 |
どうもありがとうございます。
あのDVDを目に留めていただいて、
見ていただけたということが、
ほんとうにうれしくて。 |
糸井 |
ぼくは淀川長治さんのことを
よく知っているわけではないんですけれど、
知ってる限りで言うと、
映画会社の方だったんですよね。 |
淀川 |
ユナイテッド・アーティスツという
映画会社の宣伝部を経て
『映画之友』(のち『映画の友』に改題)
という雑誌の編集長を
1968年に廃刊になるまで、
長くつとめていました。 |
|
糸井 |
ぼく、『映画の友』って読んでましたよ。 |
淀川 |
あ、そうですか!
『スクリーン』という雑誌もあって。 |
糸井 |
『スクリーン』と『映画の友』、
もうひとつ『キネマ旬報』があって。 |
淀川 |
ええ、そっちの方が
ちょっとコアな映画雑誌。
『映画の友』と『スクリーン』が、
いわゆるメジャーな映画雑誌でしたね。
『スクリーン』の編集長が
女性だったんですね。当時では珍しく。
叔父はすごく『スクリーン』に
ライバル意識を持っていました。 |
糸井 |
そうですか! |
淀川 |
映画スターが来日すると、
お互いにしのぎを削って会いたいわけです。
そんなとき、
女性編集長のほうがちょっと
得だったりして。 |
糸井 |
今みたいに外国のスターが来たときに
みんなが大勢で記者会見をする、
っていうことはなかったでしょうしね。 |
淀川 |
そうですね、テレビに出ることも
あまりなかったでしょうね。
だからとても会いたかったみたいです。
今日、そういうのは必要ないと思って
持ってこなかったんですけど、
叔父がハリウッドに行って、
映画スターに会ったときの写真が
いまでも山のようにあるんですよ。
叔父はスターに会ってサイン貰うのが趣味! |
糸井 |
(笑)個人的な趣味だったんですね。 |
淀川 |
お相撲さんみたいに手形取っちゃって、
その横にサインしてもらって。 |
糸井 |
へえ!
あの人に頼まれたら断りにくいでしょうね。 |
淀川 |
そうなんでしょうね。 |
糸井 |
はじめて会うのに、親しく感じるみたいな。
お茶目な部分とか、
ものすごい人なつこく見える部分が
あるんですよね。 |
淀川 |
そうですね。
一緒にいると恥ずかしいぐらい、
人なつこいんですよね。 |
糸井 |
そうですか。たとえば、落語家の人とかは、
もう家ではむっつりしてる、
っていうお話もあったけれども、
そんなことはなかったんですか? |
淀川 |
いや、やっぱり、
気難しいところのある人でしたよ。 |
糸井 |
気難しいですか。
恐かったとか? |
淀川 |
ええ、恐かったですよ。すごく。
家でも話は面白いんだけど、
気難しい部分もあって、
半々なんですよね。 |
糸井 |
うわあ。どこでチェンジするんでしょう。
ご一緒に住まわれていたんですか。 |
淀川 |
そうなんですよ。一緒に住んでいたんです。
叔父には父親のように
よくしてもらいました。
叔父は、うちの母親と姉弟で、
わたしも父親がいなくて、
叔父は家族がいなくて、
わたし、母親、祖母、叔父の4人という、
地味な家族だったんですけど。 |
糸井 |
長く一緒にいられたんですか。 |
淀川 |
そうなんですよ。
高校生ぐらいまではずっと。
叔父は後半はずっと
ホテル暮らしでしたけれど。 |
糸井 |
じゃ、すごく影響を与えられたんですね。
淀川(美代子)さんが、
お生まれになったときには
もう叔父さんがいらっしゃったんですか? |
淀川 |
物心ついたときはいたんですね。 |
糸井 |
じゃもう、毎日ですね。 |
淀川 |
そうですね、毎日。 |
糸井 |
一緒にご飯食べた。 |
淀川 |
そうです。 |
糸井 |
そんなに深い間柄だったんですね。 |
淀川 |
そうなんですよ。父親ですね。
小学校のときとかは、すごい勝手な、
今では考えられないようなこともあって。
「今日は試写会があるから早退しておいで」
って言われるんです。そうすると先生にね、
「今日、試写会なんで早退します」
「はい、どうぞ」って。
いい時代ですよね。 |
糸井 |
(笑)そういう雑さがほしいですねー。 |
淀川 |
ええ、もう2週間に1回は
早退してましたね。 |
糸井 |
そうですか。そのときには
その「いいよ」って言う先生は、
叔父さんが、あの、
にぎにぎした叔父さんだっていうことは
知ってたんですか? |
淀川 |
いえ、時代がもっと前ですから。
テレビとかに出る前なので‥‥。 |
糸井 |
じゃもう全然、
ただ、早退なんですね(笑)。 |
淀川 |
でも一応は、知ってたと思います。
映画が好きな家族で、
映画に行くんだろうみたいな感じ。
そんなふうに小学校のときから
映画、いっぱい観せてもらっていたんです。 |
糸井 |
とんでもない英才教育ですね、それは。 |
淀川 |
そうなんです。それで観てきて、
その日の夜にその感想を
言わないといけないんですよ。 |
|
糸井 |
小学生でも? |
淀川 |
そう、小学生でも。
どうだった? って。 |
|
(つづきます) |