イズミ |
こう、あらたまって、ていうのも
ちょっと変ですねぇ。
今日はよろしくお願い致します。
|
柚木社長
(ユノキ) |
あ、こちらこそよろしく。
まぁ、なかなかこういうのも
おもしろいかもしれない。 |
イズミ |
あの、さっき柳井会長が
今年最後の全体ミーティングに
参加されたじゃないですか。
あれ、実はすごくうれしかったんです。
柳井会長のなかに食品はユノキさんに任せた、
っていう意識があるから、
ほとんど口出してこないじゃないですか、
いつも。
ユノキさんはいろいろ話されて
いるんでしょうけど、
私たちとはそういう機会が
今までなかったので、
結構さみしかったりしたんですよね。
|
ユノキ |
ああ、それはあったかもしれないね。
完全に独り占めしていたから(笑)
えーっと、
実は今日の朝、
柳井会長に今日のミーティングお願いします、
みたいな話を、しにいったんだけれども
逆に、ユノキ君はもっとメンバーを
巻き込まないといけない、
みたいなことを結構強くいわれて。
で、しまいには
「僕はこの事業は
本気じゃない」
なんてことを言われるし・・・。 |
イズミ |
ええ!?
どういうことですか?
|
ユノキ |
いや、つまりね、
大切なことは
僕(ユノキ)を始め、
エフアール・フーズの
メンバー一人一人が本気なのかどうかだと。
つまり、自分(ヤナイ)が
本気かどうかではなくて
僕(ユノキ)たちが本気ならば、
それを応援するんだと。
これは柚木君の事業であって、
私の事業じゃないからと。 |
イズミ |
へぇ〜。ああ、
でも分かる気がします。
今日も全員に聞いていましたよね。
「じゃあ、君は何がしたいんだ」って。
私はずっと、
柳井会長が何を考えているか知りたいって、
言っていましたけれど
まったく逆でしたね。
柳井会長の方が
僕らが本気なのかどうか、
確かめに来た、って感じでした。
ユノキさんからみて、柳井会長ってどんな
人ですか?
|
ユノキ |
うーんと。
ひとことでいうと変人だよね(笑)
そう、僕はこの事業で成功して、
柳井会長みたいな変人、
いや、ずば抜けた
何かを持っていなくても、
成功できるということを
証明したいと思っていて。
そういう気持ちはいつも持ってる。
|
イズミ |
変人ですか・・・。
あー、でもほっとしたんですよ。
名前覚えていてくれて。
トラックで山口行ったときは
トラックのことばっかりみていたし。
ああ、すみません、ちょっと余談でした。
そろそろインタビューを。
|
ユノキ |
あ、これはまだだったのね・・・。
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イズミ |
早速ですが、
私がこのチームにはいったのは
去年の3月のことだったと思うんですが、
ユノキさんはいつごろから、
食品事業をやろうと動いていたんですか?
|
ユノキ |
えーっと。
2001年の4月くらいからだね。
当時はダイレクト販売の部長だったんだけど
新聞で柳井さんが、
「これからは新規事業に進出する」
というようなことを言っていて。
だったら、食品をやりたいと思って。
それからだね、
ネットでいろいろ調べたり、
いろいろな人に会ったり。
|
イズミ |
え? 新聞でって、役員じゃないですか・・・。
しかもダイレクト部長だったんですよね・・・?
いつしてたんですか? そんなこと。
|
ユノキ |
月から金まではダイレクト部長。
土日とか深夜をつかってやっていたかな。
企画書もたくさん書いた。
何度もボツになったけど・・・。
|
イズミ |
誰にもばれなかったんですか?
|
ユノキ |
うーん。
まわりの人間は
気づいていたかもしれないけど。
当時はいろいろ調べた。
始めはオーガニックスーパーやろう
としていたから、
アメリカのスーパーを研究したり。
次はお弁当屋さんやお惣菜屋さんを
やろうと思って
「オリジン弁当」とかに行って
たくさん質問をあびせかけたり。
「これ本当に作りたてですか?」とか。 |
イズミ |
いやな客ですねぇ(笑)
|
ユノキ |
そう、いやな客(笑)
で、そういうのをみればみるほど
競争力の源泉は
「レシピ」と「オペレーション」だと。 |
イズミ |
おお、難しいことを。
|
ユノキ |
でも、ユニクロにはそのどちらもない。
で、よくよく考えるとやっぱり
「素材」かと思うようになった。
それからは、
野菜のことを調べていたんだけれど、
なかなかないんだ。
そんなとき、ある人を介して衝撃的な
出会いをするんだけれども。
|
イズミ |
それは、ひょっとして。
|
ユノキ |
そう。
そのひょっとして。
テリー永田こと永田照喜治さん。
ある日、柳井会長の秘書から
メールがはいっていて。
なんでも「奇跡のトマト」を作る
永田先生という人がいると。
|
イズミ |
ああ、それ聞いただけで、
うさんくさいですねぇ。
|
ユノキ |
そう、正直うさんくさかった。(笑)
で、忘れもしないんだけれど
2001年の8月29日に初めて会った。
そのときにいきなりトマトジュースを
飲まされて。
|
イズミ |
「奇跡のトマト」からできた
トマトジュースを飲んでしまったと。
え? それ、異動してきた私たちに
やったのと同じ手口じゃないですか!
異動してきた日に
飲み比べさせられましたもん。
ま、いいです。
それで・・・?
|
ユノキ |
トマトジュースを飲んだ3日後には
永田先生と新潟にいた(笑)
吉川町の山本さんに会ったり、
なぜか町長に会ったり。
|
イズミ |
早!
え? でも、まだ発表前じゃないですか。
その辺はどうしていたんですか?
|
ユノキ |
そう、だから永田先生は僕のことを
「この人は今度、農業をやろうと
している若者です」
と、あちこちで紹介しまくってた。
まぁ、ウソではないと思うけど。
|
イズミ |
ウソではないと思いますけどねぇ。
でも誰も信じなかったでしょうねぇ・・・。
|
ユノキ |
で、新潟に行った翌々日に
静岡県の藤枝っていうところに
行ったんだけど。
予定では日帰りだった。
村松さんというナスの名人に会って
東京に帰る予定だったんだけど。
急に思い立って、
「今日、永田先生の家に泊めてください!」
ってお願いして。
|
イズミ |
なんでまた?
|
ユノキ |
永田先生って人が分からなくなってしまって。
本当に、この人と組んでいいんだろうかと。
で、もし家が豪邸だったら組むのやめようと(笑) |
イズミ |
違いますもんねぇ、実際は。
先日おじゃましたときは、
なんか東海地震に耐えられるようにって、
壁に板はっていましたよ。
あれは可笑しかった。
|
ユノキ |
そう。
ああ、この人と仕事しようって。
家みて思った。
|
イズミ |
お金目当てに仕事やっている人の
家じゃないですね、あれは。
別宅もなさそうだし。
|
ユノキ |
そう、それで
9月14日の役員会に今回の事業の
企画書を提出したわけ。
役員全員にトマトジュース飲ませながら。
あ、そのときの企画書見たことある?
|
イズミ |
いえ、ないです。
|
ユノキ |
ちょっと待ってて。
(走って自分のデスクから
資料を持ってくる)
これこれ、うわー、
コピーなんかも書いてるし。
あ、もう一枚ある。
|
イズミ |
・・・。
一応これ、
写真撮らせてもらいます。
|
ユノキ |
で、2日後の9月16日には
「事業開発部」という
秘密の部署ができた。
|
イズミ |
あ、企画書とおったんですか。
それにしても急展開ですね。
しかも「事業開発部」って懐かしい。
私が入ったときは、まだ
「事業開発部」でしたもん。
|
ユノキ |
そう、まだ食品のことは
社内でも内緒だったから、
「事業開発部」って
部署の名前にした。
女子更衣室だった部屋をもらって、
一人でいろいろやっていたんだけど、
ぜんぜん分からない。
立て続けに永田先生と10ヶ所以上
産地をまわって方向性はなんとなく見えて
きてはいたんだけれど、
どうやって商売にするかが全くみえない。
困っていたら、永田先生の長男の
永田まことさんを紹介された。
いろいろ青果の販売のこと、スーパーの
青果の実態などを聞きながら
この季節にはこれを売ってとか、
そういうのをやりながら、
なんとなくそれっぽくなっていった。
|
イズミ |
で、これはいけると?
|
ユノキ |
いや、そうでもなかった。
12月の上旬だったと思うんだけど。
1回、ボクが机を
ひっくりかえしたことがある。
やっぱり新規事業は無理だ!
って。 |
イズミ |
えーっと、それは糸井さんと
会う前ですか? |
ユノキ |
確か〜・・・。
もう無理だって思う前に1度会っているね。
柳井さんに紹介してもらった。
「食」という、ある意味難しい素材を、
日本中に広く伝えられるのは
糸井さんしかいないからって。
|
イズミ |
ほぼ日ブックスから対談の本も
だしていましたしね。
|
ユノキ |
そう。
紹介してもらうときも会長と2人で
「明るいビル」におじゃまして。
あの和室にあがって。
散々説明したんだけど、
最後に
「これは僕がやる意味があるような
気がする」
っておっしゃっていただいて。
|
イズミ |
ああ、すごい。
でも、そのあと無理だって
思ったんですよね。
|
ユノキ |
そう。
だからまた、会長と2人で
やっぱりごめんなさいって
謝りにいった。
|
イズミ |
うーん。もったいない・・・。
糸井さんはなんて?
|
ユノキ |
実はよく覚えてないんだよね。
ボロボロだったから(笑)
でも会長がすごくさびしそうだった。
なんていったと思う?
|
イズミ |
え、全然分かりません。
|
ユノキ |
「柚木君、
君もびびったか・・・」 |
イズミ |
おお、ブルータスお前もか・・・
みたい。
|
ユノキ |
(さらーっと流す)
やっぱり無理ですっていったあと。
こっちは、申し訳なくて、
びびってやめるなんて、とても
いえないから、そうじゃない理由を
だらだらと説明するわけ。
で、最後に
「柚木君、君もびびったか・・・」
しかも、すごくさびしそうに。
|
イズミ |
ぜーんぶ、見透かされちゃってる。
|
ユノキ |
そう(笑)
それで、会長は
「そんなもんだよ」って。
大抵みんな、びびる。
君だけじゃないって。 |
イズミ |
それで、どうしたんですか?
|
ユノキ |
いろいろ考えて、
すぐに浜松の永田先生の
ご自宅にもおじゃまして、
もう1度、やらせてくださいって
会長にメールをした。
(ファイルからメールを出してみせる)
|
イズミ |
うわ、すごい長いメール。
まぁ、一言でいうともう1度
やらせてくださいと。
|
ユノキ |
そういうこと。
で、このながーいメールに対して。
|
イズミ |
「やりましょう」
って、短か!
うわ、一言ですけど、
よっぽどうれしかったんでしょうねぇ。
心なしか
「やりましょう」
が踊って見えます。
|
ユノキ |
それが12月15日。
で、クリスマスイブに永田先生の
まことさん以外のお子さんにも会って、
お子さんっていってももう、
いい大人だけれど。
その場でやりましょうってことになった。
そのあとすぐ、契約書を作りはじめて・・・。
|
イズミ |
そうですか。
ユノキさんにとって
今までで1番大きな節目ってなんですか?
やっぱり、9月2日の会社設立ですか?
|
ユノキ |
いや、やっぱり10月3日の
記者会見かなぁ。
こんなこというといけないのかも
しれないんだけれども、
「よくここまできたよなぁ」って。
廃校で2日前から設営とかはじめた
と思うんだけど、あれがだんだん
出来上がっていく様子をみていて。
糸井さんがコピー書いたり、
アッキィさんがいろいろ指示だしていたり。
「農業家」の方が続々集まってきたり。
自分たちのためにこんなにも人が
集まってくださっている。
|
イズミ |
それを目の当たりにして。
|
ユノキ |
そう。
感慨深いものがあった。
|
イズミ |
他には何か変わりました?
|
ユノキ |
仕事の進め方かな。
それまでは、プロデューサーっぽい
仕事の仕方だったんだけれど。
自分でいうのもなんだけど、
それまでは結構うまくできていたと
思うんだけども。
記者会見が終わって、次の日から
もう今までの仕事の仕方がうまくいかない。
実際にはじまるとやっぱり
あちこちで、問題は起こるし。
正直、ふんづまってた(笑)
で、僕がふんづまっちゃって
ふんづまっちゃった顔してたら
みんなもふんづまっちゃって・・・。
それが2ヶ月くらい続いちゃって。
|
イズミ |
ああ、分かる気がします。
私はトラックで旅にでてしまったので
人づてなんですけれど。
でも、「ふんづまり」ながらも
そんな姿に感動していた
ユニクロの社員の方は
多かったみたいですよ。
ほら、みんなでトレーナー着て、
渋谷の駅前で「あかね」りんごを
配っていたじゃないですか。
「事業の立ち上げって
こういうことなんだと
思わず胸が熱くなりました」って。 |
ユノキ |
ああ、それはうれしい。
|
イズミ |
はい。
だから、いいんじゃないかなぁって
思うんですよね。
かっこいいところもわるいところも。
全部みせちゃえって私は思っちゃう。
そこからの広がりの方がかえって
得るものが多いような・・・。
そういえば、
ユノキさんって社長じゃないですか。
なんか社長になって変わりました?
|
ユノキ |
いや、何も。
だって誰も社長って呼ばないから。 |
イズミ |
あ、そうでした・・・。
以後気をつけます。
ちょっと思い出したんですけれど
私がはじめてユノキさんに会ったとき
「想像できることは実現可能だ」
っていうことをいっていたんですよ。
それが、結構よかったんです。
あの言葉で、新規事業やろうと思った。
で、私は
「日本一の食材メーカーになりたい」
そんなことを
想像しているわけなんですが、
ユノキさんが「想像」していることって
なんですか?
|
ユノキ |
え?
内緒!
ってうそうそ。
まさにそれが今日、
柳井会長にミーティングに
参加してもらった理由でもあるわけで。
|
イズミ |
というと?
|
ユノキ |
さっき、柳井会長に
「もっと巻き込め」といわれたと
いったと思うんだけど。
で、それってどういうことかっていうと
みんなで「ビジョン」を作れと。
で、そのビジョンに対して一人一人が
責任を持つっていう形にしなさいと。
|
イズミ |
なるほど。
だから
「君は何をしたいのか?」
っていうことを
しきりに言っていたんですね。 |
ユノキ |
そう。
それでもっと議論する。
|
イズミ |
そんな場合かって気もするけれど
そんなときこそ、けんかするくらい話を
しないといけないと思うんですね。
で、本気で納得した上で、うわーって
みんなでビジョンに向けて走りださないと。
|
ユノキ |
まさにそうで。
これはベンチャーだし。
失敗したら死ぬって気持ちを
全員がもたないと。
そのためにも全員に納得された
ビジョンが必要。
だから、少し休んで頭を整理して欲しい。
今は目の前のことに精一杯だけど。
|
イズミ |
でも、目の前のことでふんづまっても、
ビジョンがあれば越えていける。
だから、年明けの最初の仕事は
それですよ。
そこから、はじめないと。
|
ユノキ |
簡単じゃないけれど。
それこそ、議論するだけで
丸2日くらいかかるかも。 |
イズミ |
楽しそうです。
では、そろそろ最後に読者の皆さんに何か
伝えておきたいことありますか?
|
ユノキ |
えーっと・・・。
そうだなぁ。
そういわれるとなかなかなぁ。
えーっと・・・。
もうおかしくなっちゃう
くらいにやりましょう。 |
イズミ |
あ、いいです、それ。
植木さんもいってましたから。
かいた恥は無駄にならないって。
高倉健さんみたいですけど。
|
ユノキ |
ああ、いいねぇ。
まだあの原稿ぜんぶ目を
とおしてないんだけど。
とにかくやりましょう。
それだけです。
今年はとにかくやります!
よろしくお願い致します。
|