対談 柚木社長 写真 SKIPが出来るまで

エフアール・フーズの社長ユノキは社長1年生。
そりゃ、悩んだりもします。
正直なところ、だいたい毎日、悩んでいます。
てんちょー(仮)イズミが1年生社長ユノキに聞く。
「ボクが社長になるまで」

日本の農業の仕組みを変えてやろう!
そんな気持ちで起業を決意した男は
いかにして社長になったのか?
たくさんの人と出会いながら、新しい事業に
挑戦する社長ユノキの1年を振り返ってみた。



イズミ こう、あらたまって、ていうのも
ちょっと変ですねぇ。
今日はよろしくお願い致します。
柚木社長
(ユノキ)
あ、こちらこそよろしく。
まぁ、なかなかこういうのも
おもしろいかもしれない。
イズミ あの、さっき柳井会長が
今年最後の全体ミーティングに
参加されたじゃないですか。
あれ、実はすごくうれしかったんです。
柳井会長のなかに食品はユノキさんに任せた、
っていう意識があるから、
ほとんど口出してこないじゃないですか、
いつも。
ユノキさんはいろいろ話されて
いるんでしょうけど、
私たちとはそういう機会が
今までなかったので、
結構さみしかったりしたんですよね。
ユノキ ああ、それはあったかもしれないね。
完全に独り占めしていたから(笑)
えーっと、
実は今日の朝、
柳井会長に今日のミーティングお願いします、
みたいな話を、しにいったんだけれども
逆に、ユノキ君はもっとメンバーを
巻き込まないといけない

みたいなことを結構強くいわれて。
で、しまいには
「僕はこの事業は
 本気じゃない」

なんてことを言われるし・・・。
イズミ ええ!?
どういうことですか?
ユノキ いや、つまりね、
大切なことは
僕(ユノキ)を始め、
エフアール・フーズの
メンバー一人一人が本気なのかどうかだと。
つまり、自分(ヤナイ)が
本気かどうかではなくて
僕(ユノキ)たちが本気ならば、
それを応援するんだと。
これは柚木君の事業であって、
私の事業じゃないから
と。
イズミ へぇ〜。ああ、
でも分かる気がします。
今日も全員に聞いていましたよね。
「じゃあ、君は何がしたいんだ」って。
私はずっと、
柳井会長が何を考えているか知りたいって、
言っていましたけれど
まったく逆でしたね。
柳井会長の方が
僕らが本気なのかどうか、
確かめに来た
、って感じでした。
ユノキさんからみて、柳井会長ってどんな
人ですか?
ユノキ うーんと。
ひとことでいうと変人だよね(笑)
そう、僕はこの事業で成功して、
柳井会長みたいな変人、
いや、ずば抜けた
何かを持っていなくても、
成功できるということを
証明したいと思っていて。
そういう気持ちはいつも持ってる。
イズミ 変人ですか・・・。
あー、でもほっとしたんですよ。
名前覚えていてくれて。
トラックで山口行ったときは
トラックのことばっかりみていたし。
ああ、すみません、ちょっと余談でした。
そろそろインタビューを。
ユノキ あ、これはまだだったのね・・・。






イズミ 早速ですが、
私がこのチームにはいったのは
去年の3月のことだったと思うんですが、
ユノキさんはいつごろから、
食品事業をやろうと動いていたんですか?
ユノキ えーっと。
2001年の4月くらいからだね。
当時はダイレクト販売の部長だったんだけど
新聞で柳井さんが、
「これからは新規事業に進出する」
というようなことを言っていて。
だったら、食品をやりたいと思って。
それからだね、
ネットでいろいろ調べたり、
いろいろな人に会ったり。
イズミ え? 新聞でって、役員じゃないですか・・・。
しかもダイレクト部長だったんですよね・・・?
いつしてたんですか? そんなこと。
ユノキ 月から金まではダイレクト部長。
土日とか深夜をつかってやっていたかな。
企画書もたくさん書いた。
何度もボツになったけど・・・。
イズミ 誰にもばれなかったんですか?
ユノキ うーん。
まわりの人間は
気づいていたかもしれないけど。
当時はいろいろ調べた。
始めはオーガニックスーパーやろう
としていたから、
アメリカのスーパーを研究したり。
次はお弁当屋さんやお惣菜屋さんを
やろうと思って
「オリジン弁当」とかに行って
たくさん質問をあびせかけたり。
「これ本当に作りたてですか?」とか。
イズミ いやな客ですねぇ(笑)
ユノキ そう、いやな客(笑)
で、そういうのをみればみるほど
競争力の源泉は
「レシピ」と「オペレーション」だと。
イズミ おお、難しいことを。
ユノキ でも、ユニクロにはそのどちらもない。
で、よくよく考えるとやっぱり
「素材」かと思うようになった。
それからは、
野菜のことを調べていたんだけれど、
なかなかないんだ。
そんなとき、ある人を介して衝撃的な
出会いをするんだけれども。
イズミ それは、ひょっとして。
ユノキ そう。
そのひょっとして。
テリー永田こと永田照喜治さん。
ある日、柳井会長の秘書から
メールがはいっていて。
なんでも「奇跡のトマト」を作る
永田先生という人がいると。
イズミ ああ、それ聞いただけで、
うさんくさいですねぇ。
ユノキ そう、正直うさんくさかった。(笑)
で、忘れもしないんだけれど
2001年の8月29日に初めて会った。
そのときにいきなりトマトジュースを
飲まされて。
イズミ 「奇跡のトマト」からできた
トマトジュースを飲んでしまったと。
え? それ、異動してきた私たちに
やったのと同じ手口じゃないですか!
異動してきた日に
飲み比べさせられましたもん。
ま、いいです。
それで・・・?
ユノキ トマトジュースを飲んだ3日後には
永田先生と新潟にいた(笑)
吉川町の山本さんに会ったり、
なぜか町長に会ったり。
イズミ 早!
え? でも、まだ発表前じゃないですか。
その辺はどうしていたんですか?
ユノキ そう、だから永田先生は僕のことを
「この人は今度、農業をやろうと
 している若者です」

と、あちこちで紹介しまくってた。
まぁ、ウソではないと思うけど。
イズミ ウソではないと思いますけどねぇ。
でも誰も信じなかったでしょうねぇ・・・。
ユノキ で、新潟に行った翌々日に
静岡県の藤枝っていうところに
行ったんだけど。
予定では日帰りだった。
村松さんというナスの名人に会って
東京に帰る予定だったんだけど。
急に思い立って、
「今日、永田先生の家に泊めてください!」
ってお願いして。
イズミ なんでまた?
ユノキ 永田先生って人が分からなくなってしまって。
本当に、この人と組んでいいんだろうかと。
で、もし家が豪邸だったら組むのやめようと(笑)
イズミ 違いますもんねぇ、実際は。
先日おじゃましたときは、
なんか東海地震に耐えられるようにって、
壁に板はっていましたよ。
あれは可笑しかった。
ユノキ そう。
ああ、この人と仕事しようって。
家みて思った。
イズミ お金目当てに仕事やっている人の
家じゃないですね、あれは。
別宅もなさそうだし。
ユノキ そう、それで
9月14日の役員会に今回の事業の
企画書を提出したわけ。
役員全員にトマトジュース飲ませながら。
あ、そのときの企画書見たことある?
イズミ いえ、ないです。
ユノキ ちょっと待ってて。
(走って自分のデスクから
 資料を持ってくる)
これこれ、うわー、
コピーなんかも書いてるし。
あ、もう一枚ある。






イズミ ・・・。
一応これ、
写真撮らせてもらいます。

ユノキ で、2日後の9月16日には
「事業開発部」という
秘密の部署ができた。
イズミ あ、企画書とおったんですか。
それにしても急展開ですね。
しかも「事業開発部」って懐かしい。
私が入ったときは、まだ
「事業開発部」でしたもん。
ユノキ そう、まだ食品のことは
社内でも内緒だったから、
「事業開発部」って
部署の名前にした。
女子更衣室だった部屋をもらって
一人でいろいろやっていたんだけど、
ぜんぜん分からない。
立て続けに永田先生と10ヶ所以上
産地をまわって方向性はなんとなく見えて
きてはいたんだけれど、
どうやって商売にするかが全くみえない。
困っていたら、永田先生の長男の
永田まことさんを紹介された。
いろいろ青果の販売のこと、スーパーの
青果の実態などを聞きながら
この季節にはこれを売ってとか、
そういうのをやりながら、
なんとなくそれっぽくなっていった。
イズミ で、これはいけると?
ユノキ いや、そうでもなかった。
12月の上旬だったと思うんだけど。
1回、ボクが机を
ひっくりかえしたことがある。
やっぱり新規事業は無理だ!
って。
イズミ えーっと、それは糸井さんと
会う前ですか?
ユノキ 確か〜・・・。
もう無理だって思う前に1度会っているね。
柳井さんに紹介してもらった。
「食」という、ある意味難しい素材を、
日本中に広く伝えられるのは
糸井さんしかいないからって。
イズミ ほぼ日ブックスから対談の本も
だしていましたしね。
ユノキ そう。
紹介してもらうときも会長と2人で
「明るいビル」におじゃまして。
あの和室にあがって。
散々説明したんだけど、
最後に
「これは僕がやる意味があるような
 気がする」

っておっしゃっていただいて。
イズミ ああ、すごい。
でも、そのあと無理だって
思ったんですよね。
ユノキ そう。
だからまた、会長と2人で
やっぱりごめんなさいって
謝りにいった。
イズミ うーん。もったいない・・・。
糸井さんはなんて?
ユノキ 実はよく覚えてないんだよね。
ボロボロだったから(笑)
でも会長がすごくさびしそうだった。
なんていったと思う?
イズミ え、全然分かりません。
ユノキ 「柚木君、
 君もびびったか・・・」
イズミ おお、ブルータスお前もか・・・
みたい。
ユノキ (さらーっと流す)
やっぱり無理ですっていったあと。
こっちは、申し訳なくて、
びびってやめるなんて、とても
いえないから、そうじゃない理由を
だらだらと説明するわけ。
で、最後に
「柚木君、君もびびったか・・・」
しかも、すごくさびしそうに。
イズミ ぜーんぶ、見透かされちゃってる。
ユノキ そう(笑)
それで、会長は
「そんなもんだよ」って。
大抵みんな、びびる。
君だけじゃないって。
イズミ それで、どうしたんですか?
ユノキ いろいろ考えて、
すぐに浜松の永田先生の
ご自宅にもおじゃまして、
もう1度、やらせてくださいって
会長にメールをした。
(ファイルからメールを出してみせる)
イズミ うわ、すごい長いメール。
まぁ、一言でいうともう1度
やらせてくださいと。
ユノキ そういうこと。
で、このながーいメールに対して。
イズミ 「やりましょう」
って、短か!
うわ、一言ですけど、
よっぽどうれしかったんでしょうねぇ。
心なしか
「やりましょう」
が踊って見えます。
ユノキ それが12月15日。
で、クリスマスイブに永田先生の
まことさん以外のお子さんにも会って、
お子さんっていってももう、
いい大人だけれど。
その場でやりましょうってことになった。
そのあとすぐ、契約書を作りはじめて・・・。
イズミ そうですか。
ユノキさんにとって
今までで1番大きな節目ってなんですか?
やっぱり、9月2日の会社設立ですか?
ユノキ いや、やっぱり10月3日の
記者会見かなぁ。
こんなこというといけないのかも
しれないんだけれども、
「よくここまできたよなぁ」って。
廃校で2日前から設営とかはじめた
と思うんだけど、あれがだんだん
出来上がっていく様子をみていて。
糸井さんがコピー書いたり、
アッキィさんがいろいろ指示だしていたり。
「農業家」の方が続々集まってきたり。
自分たちのためにこんなにも人が
集まってくださっている。
イズミ それを目の当たりにして。
ユノキ そう。
感慨深いものがあった。






イズミ 他には何か変わりました?
ユノキ 仕事の進め方かな。
それまでは、プロデューサーっぽい
仕事の仕方だったんだけれど。
自分でいうのもなんだけど、
それまでは結構うまくできていたと
思うんだけども。
記者会見が終わって、次の日から
もう今までの仕事の仕方がうまくいかない。
実際にはじまるとやっぱり
あちこちで、問題は起こるし。
正直、ふんづまってた(笑)
で、僕がふんづまっちゃって
ふんづまっちゃった顔してたら
みんなもふんづまっちゃって・・・。
それが2ヶ月くらい続いちゃって。

イズミ ああ、分かる気がします。
私はトラックで旅にでてしまったので
人づてなんですけれど。
でも、「ふんづまり」ながらも
そんな姿に感動していた
ユニクロの社員の方は
多かったみたいですよ。
ほら、みんなでトレーナー着て、
渋谷の駅前で「あかね」りんごを
配っていたじゃないですか。
「事業の立ち上げって
 こういうことなんだと
 思わず胸が熱くなりました」
って。
ユノキ ああ、それはうれしい。
イズミ はい。
だから、いいんじゃないかなぁって
思うんですよね。
かっこいいところもわるいところも。
全部みせちゃえって私は思っちゃう。
そこからの広がりの方がかえって
得るものが多いような・・・。
そういえば、
ユノキさんって社長じゃないですか。
なんか社長になって変わりました?
ユノキ いや、何も。
だって誰も社長って呼ばないから
イズミ あ、そうでした・・・。
以後気をつけます。
ちょっと思い出したんですけれど
私がはじめてユノキさんに会ったとき
「想像できることは実現可能だ」
っていうことをいっていたんですよ。
それが、結構よかったんです。
あの言葉で、新規事業やろうと思った。
で、私は
「日本一の食材メーカーになりたい」
そんなことを
想像しているわけなんですが、
ユノキさんが「想像」していることって
なんですか?
ユノキ え?
内緒!
ってうそうそ。
まさにそれが今日、
柳井会長にミーティングに
参加してもらった理由でもあるわけで。
イズミ というと?
ユノキ さっき、柳井会長に
「もっと巻き込め」といわれたと
いったと思うんだけど。
で、それってどういうことかっていうと
みんなで「ビジョン」を作れと。
で、そのビジョンに対して一人一人が
責任を持つっていう形にしなさいと。
イズミ なるほど。
だから
「君は何をしたいのか?」
っていうことを
しきりに言っていたんですね。
ユノキ そう。
それでもっと議論する。
イズミ そんな場合かって気もするけれど
そんなときこそ、けんかするくらい話を
しないといけないと思うんですね。
で、本気で納得した上で、うわーって
みんなでビジョンに向けて走りださないと。
ユノキ まさにそうで。
これはベンチャーだし。
失敗したら死ぬって気持ちを
全員がもたないと。
そのためにも全員に納得された
ビジョンが必要。
だから、少し休んで頭を整理して欲しい。
今は目の前のことに精一杯だけど。
イズミ でも、目の前のことでふんづまっても、
ビジョンがあれば越えていける。
だから、年明けの最初の仕事は
それですよ。
そこから、はじめないと。
ユノキ 簡単じゃないけれど。
それこそ、議論するだけで
丸2日くらいかかるかも。
イズミ 楽しそうです。
では、そろそろ最後に読者の皆さんに何か
伝えておきたいことありますか?
ユノキ えーっと・・・。
そうだなぁ。
そういわれるとなかなかなぁ。
えーっと・・・。
もうおかしくなっちゃう
くらいにやりましょう。
イズミ あ、いいです、それ。
植木さんもいってましたから。
かいた恥は無駄にならないって。
高倉健さんみたいですけど。
ユノキ ああ、いいねぇ。
まだあの原稿ぜんぶ目を
とおしてないんだけど。
とにかくやりましょう。
それだけです。
今年はとにかくやります!
よろしくお願い致します。

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