ほぼ日読者のための
独断と偏見と営業も兼ねた
ビジネス書ガイド!

本日は、普段と全然違う
一見カタ〜イ、でも中身はオイシイ(ことを祈ります)
「経済ネタ」にお付き合いいただき、
どうもありがとうございました。

これにて校了!
そそくさと荷物をまとめ
実家から持ってきた土産の「うなぎパイ」を
一日編集部下のメリー木村氏に押しつけ、
ほぼ日編集部から退散しようとしましたところ、
「ヤナセさん、まだお仕事ありますよ」

不吉な笑みを浮かべるメリー。
「ヤナセさん自身のコンテンツ、ないじゃないですか」
え、聞いてませんよ。そんな話。
「いいえ、ご自身のコンテンツもつくること、
 って最初に言ってあります」
――ひとの原稿に文句をつけるのは得意なんだけど、
自分で原稿書くのは死ぬほど苦手なんですが。
「何を言ってもダメです、いまから書いてください」
1月3日もあと30分で終わり。外はしんしんと冷えていく。
そんな外気よりさらに冷たく厳然と言い放つメリー。

でも――何書けばいいんだろう。
普段、本つくってるだけだし。
……書くこと、ないですよ。

「だったら自分がつくった本のこと、
 書けばいいじゃないですか」
あっさり回答のメリー。
……そっか。その手があったか。
わかりました。
そうします。めええええ。

というわけで、最後の最後はブックガイド。
しかも不肖ヤナセめと
半径5メートル以内の同僚たちのつくった本ばかりを、
恥ずかしながら並べさせていただきます。
えっと、基本的に全部「ビジネス書」です。

え〜、ビジネス書なんか、つまんない!
とのつっこみもほぼ日読者の皆さまからありましょう。
ご安心ください。
このヤナセ、自慢するわけではございませんが
大学時代、ビジネス書と称するものは
経済学部だったにもかかわらず
1冊とも読んでおりませんでした。
え〜、ビジネス書なんか(以下略)と
おっしゃる方々のお気持ち、痛いほどわかります。

でも、その一方で、ここまで
「イトイ経済新聞」をお読んだ方は、
経済の話って、けっこう面白いじゃん、
と思っていただいているのではないでしょうか。
否、そう思っていらっしゃるはずです!

で、せっかくですから、本日ご登場いただいた
三人のオーソリティの方々のお話をより深く知るための
さらに専門的につっこむための
「一助」となるような本を並べました。
ご興味があれば(あえて言えばなくても)、ぜひご一読を。
すべて、日経BP社から刊行している単行本です。


★まずは、永野健二さんの
 「経済新聞ってどう作っているの?」関連から。



ここでは、永野さんが
強調されていたキーワード
「マネジメント」「マーケティング」「ブランド」の
3つに関連した本と、せっかくですから
「新聞」そのものについての本を紹介します。


(1) マネジメントの本質を知る!


『小倉昌男 経営学』(小倉昌男)

――クロネコヤマトの宅急便を発明した
元ヤマト運輸会長、小倉昌男さんの自筆による経営書です。
じつは、この本一冊で
マネジメントとマーケティングとブランドの
要諦を知ることができるといっても過言ではありません。
それになんといっても面白い!
ゼロから宅急便サービスを構築する過程は
小説以上にスリリング。
ちなみに小倉さんは現在、会社経営から離れ、
障害者の自立を支援する福祉財団を主宰されています。



『取締役の条件』(日本取締役協会編)

みなさん、取締役と執行役員って、
じつは「全然違うもの」って知ってましたか?
え、早い話が「重役」でしょ、どっちも。
それが違うんですよ。
執行役員とは、実際に会社の経営を執行するひとたち。
取締役というのは、株主の意向を受け、その経営ぶりを
「取り締まる」=監視するひとたちのことなんですね。
こうした取締役会が経営陣の経営ぶりをチェックすることを
「コーポレートガバナンス」(企業統治)といいます。
じつは、日本の企業社会では
長らく取締役と執行役員が兼任されてきた、
というへんてこな状態が当たり前でした。
でも、株主マーケットが発達し、
外国企業との競争も激しくなってるいま、
経営の「執行」と「統治」を分離し、
経営者が常にちゃんと経営を行っているか、
チェックする機能を高めていかないとダメだ、
といわれています。
本書は現役の経営者のかたたちが語った
「生の」コーポレートガバナンスの教科書。
当事者ならではのリアルな視点で
論理とケーススタディが同時に展開されていきます。



(2) ブランドビジネスを知る!


『ブランド帝国LVMHを創った男』
(ベルナール・アルノー)


ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、
セリーヌ、フェンディ、ヘネシー、
タグ・ホイヤー、ディーティーフリーショッパーズ。
以上のブランドに共通しているのは、さてなんでしょう?
答えは、みんなLVMH(モエ へネシー・ルイ ヴィトン)
というひとつの会社の傘下にあるってこと。
本書はわずか十数年で
未曾有のブランドコングロマリットをつくった
ベルナール・アルノーというフランス人起業家の自伝です。
商品ばかりで経営がなかなか見えてこないブランドの
「ビジネス」の実態を知るのにうってつけの本です。



(3) マーケティングを知る!


『百貨店が復活する日』(松岡真宏)


『問屋と商社が復活する日』(松岡真宏)

永野さんの編集されている日経MJは
その性質上流通業界を取り上げる機会が多い。
ここでは、そんな流通業界における最新動向を
ユニークなマーケティングの視点でとらえている
流通アナリスト松岡真宏さんの2作を紹介します。
百貨店に問屋に商社。
ここ十年、いずれも
「もう役目は終わった」「時代遅れの」
商売と言われてきました。
けれども、じつは
「たくさんの種類の商品を少しずつ並べた都心の大型店舗」
百貨店こそ消費の成熟した日本には向いている業態だし、
流通の中間搾取をしていると指摘された問屋や商社こそ、
商品の種類が拡大し、物流が複雑になったいま、
もっとも効率のよい商品流通を実現するものである――。
松岡さんはこう断言します。
無謀ともいえる仮説とあっと驚く意外な証明――。
マーケティングを考えるうえでのヒントになると同時に、
ビジネス書の面白さを堪能させてくれる二冊だと思ってます。



(4) 新聞の歴史を知る!


『新聞ジャーナリズム』(ピート・ハミル)


『新聞王ウイリアム・ランドルフ・ハーストの生涯』
(デイヴィッド・ナソー)


新聞ってどうやってできたのか?
そもそも新聞ってなに?
という疑問に答えてくれるのがこの2冊。
前者はニューヨーク在住の有名ジャーナリスト、
ピート・ハミルによる体験論的新聞論。
アメリカにおける新聞ジャーナリズムの位置付けと
歴史的変化が手にとるようにわかるうえ、
なにより「新聞とジャーナリズム」の関係性を
明示してくれるのがありがたい。
さらに訳者武田徹氏による
詳細かつ膨大な脚注を読むことで、
アメリカの新聞事情のディテールを知ることができます。
後者は、12月30日の留守番番長の田中宏和さんにも
推薦いただいた、アメリカの新聞王の評伝書。
ハーストはオーソン・ウェルズ作品の
「市民ケーン」のモデルとして有名ですが、
その彼がいかにして新聞業界を牛耳っていったかが
圧倒的な筆力で記されています。
分厚い本だけど、面白いですよお。
読むのにつかれたら、片手で持って上げ下げすると
エクササイズにもなります。



★さて、お次は谷島さんに山形さんの
 インタビュー記事に対応する書籍。



お二人ともサイトに飛んでいただければ
おわかりになりますが、
すでに御著書御訳書を紹介しております。
ですからまず読むべきは、
それら書籍、ということになりますが、
それではあまりにさびしいので、
牽強付会を覚悟で、
関連本(になるかな?)、紹介していきます。


(5) 理系化時代に理論武装しよう!


『プログラムはなぜ動くのか』(矢沢久雄)


『ネットワークはなぜつながるのか』(戸根勤)


『WINDOWSはなぜ動くのか』(天野司)

日本のサラリーマン社会は気付かない間に
「理系化」がすごーく進んでるのでは?
との仮説をヤナセが抱いた直接のきっかけは、
じつは、同じ書籍編集部門の
理系チームの同僚たちが編集した
一連の「なぜ?」シリーズが
爆発的に売れたことでした。
『プログラム〜』にいたっては発売前から発売後にかけて
何週もアマゾンのランキングトップを占め、
その後の2冊もネット書店はおろか、大半の
一般書店の理工系書のベスト5の座をキープしてます。
いずれも2400円。けっして安い本ではございません。
にもかかわらず、ずーっと売れ続けているのはなぜだろう。
ベーシックな知識を体系化してテキストとして
これら3冊の好調ぶりは、中身がよかったから!
というのは大前提ですが、もうひとつは
こうしたIT系の基礎素養を学ばねば、
という情報に対する渇望を持ったひとたちが
想像以上にいっぱいいるからではないか?
とにらんだわけです。
きっちり証明できたわけではないですが。
ともあれ、ITの基礎、プログラム、
OS(オペレーションシステム)、
ネットワークについてしっかり学ぶにはうってつけの3冊。
かなり高度な内容まで網羅されていますが、
これまたぜったいオススメです。



(5) 法化時代を知る!


『特許のルールが変わるとき』(高岡亮一)


『IT法大全』(西村総合法律事務所)

『コモンズ』でレッシグが記したように、
アメリカにおいて著作権や特許にまつわる規制や法律は
非常に高度にかつ複雑化しています。
そんなアメリカにおける特許をめぐる裁判についての
きわめてビビッドなノンフィクションが前書です。
取り上げられた事件は
アメリカのビジネス界ではきわめて有名な話。
著者は国際的に活躍している弁理士さんで、
「知的財産権とはなんだろうか」という命題に答えつつ、
複雑な特許制度の仕組みと実務を
わかりやすく解説しています。
「特許とはそもそも?」という疑問に答えてくれる一冊。
『コモンズ』におけるレッシグの議論なども
本書を併読していると
よりリアルに理解できるかもしれません。
もう一冊は、日本でもようやく脚光をあびはじめた
IT関係の法律にからむ諸問題を解説した
法律の実務家向け「IT法」の解説書です。
コンテンツの著作権や保護問題、国際訴訟について、
電子商取引の際のイロハなど、
ITと法律がからんだときに生じる
さまざまな問題を現役弁護士たちが解説しています。
いわゆる専門書なので
一般のひとが読むにはいささかハードな内容ですが、
それこそレッシグが説いた
ITと規制と創造性の問題などを
実務的な側面からひもとくには、
こうした知識がおそらく不可欠になるのでは、と思います。
よおし、だったら読んでやろうじゃないの!
とおっしゃる方はぜひ!



‥‥とまあ、相当強引に
自分の周りの書籍を紹介しちゃいました。

今回のたった一日の企画をきっかけに、
これまで
経済とか経営とかITだとかを敬遠していた方が
「たまにはそっちのほうの本でも読んでみっか」
といった具合に、
知的好奇心を働かせてくれるようになったら、
これはほんとにうれしいです。
では、このあたりで、ほんとに退場いたします。
おつきあいいただき、ありがとうございました。

(ぺこり)

柳瀬さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「柳瀬さんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ろう。

2003-01-04-SAT

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