格闘技好きだし、TKはいつも気になる存在だし、
「トータル・ワークアウト」で待ち伏せして、
突撃インタビューを敢行したのだ。
緊張したけど、すげーうれしかった。
ちなみにそんとき、柔道の吉田選手もいたんだけど、
「髪切りにいくから」って断られちゃったりして。

326 いやあ、今日はよろしくお願いします。
憧れの格闘家を目の前にしたら、
今日は対談じゃなくて、
インタビューでいいやって気になってきました。
聞きたいことだけ聞いて、
お腹いっぱいになって帰りたい(笑)。
  TK ああ、はじめまして。こちらこそよろしく。
〜Round1〜    
326 今日は聞きたいことを
携帯にメモってきたんです。
メールチェックしてるわけじゃないですから、
誤解しないでくださいね。
TK (笑顔で)大丈夫ですよ。

*1
『UFC TAPOUT2』
Xbox、プレステ2などに
対応するゲームソフト。
27名の実在のUFC選手が
リアルファイトを繰りひろげる。
*2
『UFC』
アルティメット・ファイト・
チャンピオンシップの略。
目つぶし・急所攻撃以外は
何でもありの
全米で人気の高い
過激な格闘イベント。
326 TKさんは僕が持ってる
『UFC TAPOUT』(*1)
っていうゲームで、日本人では唯一
『Vol.1』から登場してますよね。
自分がゲームのキャラになるって、
どんな気持ちなんですか?
TK '98年に渡米して3年住んでたんですけど、
UFC(*2)のなかで認められるっていうのは
最高に嬉しいですね。

ゲームソフトに出てから、
急に知名度も上がって、
一見してそれとわかるアメリカのオタクにも
声をかけられるようになりました(笑)
326 アメリカにもオタクっているんですかぁ、
想像できないっすー。
TK いるんですよ、これが(笑)。
最初、シアトルに住んでたときは
近づいてくるヤツって、みなごっついヤツらで、
ストリートファイター崩れみたいに、
目つきの悪いのが多かったんですけど、
ゲームが出てからは、
「ヘーイ! TK」とかいって、
声かけてくるヤツらの
目が輝いてるんですよ(笑)
  326 うわ、アメリカのオタクは、
目がキラッキラしてるんだ(笑)
  TK よく見ると、ズボンの片裾が
素でずり上がってたりして、
なんだよ、日本のオタクといっしょかよって、
ショックでしたね(笑)

オレはこういう人に関わることは
一生ないと思ってたから。
手さげ袋のなかに
「北斗の拳」のコミックスとか入ってるんで、
ほんと日本のオタクと一緒でした。

それまでアメリカで身構えてた緊張感が
崩れたっていうか、
無防備に笑顔で答えてる自分が、
ちょっと許せないみたいなところも
ありました(笑)
  326 さすがのTKさんも、
オタクには勝てなかったと。
〜Round2〜   
326 格闘家の立ち位置って
ずいぶん変わりましたよね。
ある意味、メジャーリーグの選手みたいな
人気があって。
憧れの対象になってるという
実感があるんですよ。
  TK そうですね。
ゲームになったあたりから
感じ始めてましたね。
底辺が広がったというか。
格闘って、体が大きかったり
本当に強い一部の人しかできないんだっていう
先入観があったでしょ?
そういうのがなくなってきて、
オレにもできる、みたいな感覚
浸透してます。

ジムに来る普通の練習生が
ポーンと強くなっちゃうと、
底辺を引っ張って、
ぐぐーっと層が厚くなるんですよ。
そのへんの変化がめざましい。
  326 僕は、昔からTKさんには
すっごい
インテリジェンスを感じてるんです。
で、それは僕だけじゃなくて、
若い人たちがいろんな意味で、
本気で格闘家を
尊敬しはじめてる気がするんです。
  TK それはね、
格闘家たちが、本当に一生懸命
やり出したから
だと思うんですよね。
上に立ちたいと思えば、
一生懸命やるしかないんですよ。
そうすると、
二次的なものがあとからついてくる。
好循環なんですよね、いまの格闘界は。

その環境の変化に対して、格闘家は
頭を使わなければならなくなってきた。
頭がイイから強いっていうのと、
頭を使ってるうちに強くなるっていう、
ふたつの強さがあるんですよ。

社会的に認められるようになったのは、
後者の部分が大きいと思いますね。
一生懸命やってると、
自然に頭よくなってくるんですよ。
〜Round3〜    

326 ぶっちゃけ、格闘ってスポーツなんですかね?
TK はい、練習に限ってはスポーツだと思いますね。
試合はもう、ただ本能で動いてるだけですから、
スポーツとは違うかもしれないです(笑)。

だから、練習で本能を
くすぐるようなことをしないと、
試合で通用しないんですよ。
試合って、事が起こってから頭で考えて
動いているんじゃなくて、動いたあとで、
「ああ、そういうことだったのか」と
自分に納得することが多いんですよ。

シアトルにいたときは、
意識してから動くんじゃなくて、
動いたことを意識する
フィードバックの時間が
短くなればなるほど
強くなれると考えていた
んです。
まず本能で先に動く、
ということなんですけどね。
326 すっげー。
意識して動きの時間を早くするっていう
普通の考え方と正反対なんだー。
なんだか体温上がってきたー。
シャツ脱いでもいいですか。
〜Round4〜    
326 TKさんのアメリカでの練習って、
日本じゃ得られないものだったんですか?
TK おかしい話ですけど、アメリカには
むちゃくちゃ強いヤツが
ゴロゴロいるんですよ。
でも、タックルはすごいけど
寝技が全然ダメとか、
アームロックは一級だけど、
他の関節は取れないとか、
そんなのばっかりで(笑)。

だから僕は、そういうヤツらの
へこんだ部分は見ないで、
おいしいところだけ吸収できたらいいと
思ってたんで。
得がたい経験だったかと聞かれれば、
日本で味わえない、
いい経験をしたと思います。
  326 じゃあ、TKさんみたいに
総合的にハイクラスの選手なんて
少なかったんじゃないですか。
  TK 正直、一人もいなかったですね(笑)。
それでも彼らは、
自分の方が強いって思ってますから。
実際にスパーリングとかやってみて、
かなわないと思ったら
180度態度が変わって
「教えてくれ」ってなるんですよ。
変なプライドに閉じこもらないのが、
アメリカ流のいいところでしたね。
  326 アメリカで学んだ一番大きいことは
なんでした?
  TK いっぱいあるんですけど、
自分が今やってる試合の形や練習って、
最初からこうだったわけじゃなくて、
すごく枝分かれしてるんですけど、
なにをするにしても一本柱がないと
成立しない
って学んだことですかね。
〜Round5〜    
326 じゃあ、TKさんの柱っていうと?
TK あきらかに柔道ですね。
本当は柔道でメシを食いたかったんですけど、
怪我で柔道をあきらめた時期があったんです。

でも、結局、柔道から離れることは
できないと開き直って。
それから必死になって
トレーニングをやり始めたら、
靱帯が切れてグラグラだった膝が
徐々に動き始めたんです。

当時、会社に勤めてて、
「プロの格闘家になるので会社を辞めます」
っていったとき、
どうやってなるのか聞かれたけど、
「絶対なりますから」としか答えられなかった。
でも、やっぱりプロになれたしね(笑)。

漠然とした状態からでも
頑張って何かをやれば、
つかめないものはないと、
そのときから信じてるんです。
それが柔道っていう自分の柱ですね。
〜Round6〜    
326 う〜ん、なんだか感動しっぱなしです。
職員室で尊敬する先生に
人生を教わってるような気分で。

僕は、格闘界に注目が集まってる一方で、
観客が飽きやすい状況も
出てきてると思うんですよ。

もちろん格闘家に強さは必要なんだけど、
それと同じぐらい自己プロデュースする力が
格闘家に求められているような
気もするんですけど。
TKさんはそういうこと意識してますか?
  TK 自分は取って付けたみたいな
看板は嫌いなんですよ。
そういうものって
内側からわいてくるものだと思うんで。
わいてきたものを
ちょっと押し上げるのはいいけど、
ありもしない仮面を被ったって、
結局、薄っぺらくなるだけだと思うんですよね。
  326 ひとつの試合に対して、団体同士の確執だとか、
選手同士の因縁だとか、
無理矢理ストーリーをつけたがる
傾向がありますよね。
マニアにしかわからない話題かもしれないけど。

一格闘家としては、ホントはそういうの
耳障りなんじゃないかなって。
目指すものって、
本当は真の強さだと思うんですけど、
どうなんでしょう。
  TK ウン、いいとこついてきますね。
  326 え、そうすか? 嬉しいな。
  TK 格闘家が目指すものって、
ひとつしかないんですよ。
それは、ずーっと変わらないんです。
  326 え、なんすか、教えてください。
  TK どうやったら強くなるか、
そのために何をやるか、

格闘家が考えることは、これしかないんです。
もう、体が全部答えを持っているんですよね。
それ以外のことを尋ねても、
体から答えは返ってこないですから。
〜Round7〜    
326 うわー、そういうもんですか。
じゃあ、そういう強さを突き詰めていくと、
理屈じゃなく戦いたい相手って出てきますよね。
*3
'02年5月にUFCで対戦した
リコ・ロドリゲス。
2Rレフェリーストップで
高阪選手は敗れた。
TK 実は、いっぱいいるんですよ(笑)。
そのために、いま、ウエイトを上げてるんです。
去年、自分が100kgで試合に臨んだとき、
対戦相手(*3)の体重が
113kgぐらいあったんですけど、
そのとき、なにもできなかったんで。

で、上のヤツと戦うためには肉体改造しないと
オレは一生勝てないだろうという結論になって。
体重があって動ける選手っていうのが
当たり前になっているんですよ、
特にいまのヘビー級は。
だから、動ける体重まで
上げたもん勝ちなんですよ。
  326 じゃ、ウエイトトレーニングで
体重を増やしてるんですか。
無駄なモノもついてくるんじゃないですか、
スピードが落ちてきたりとか
  TK いや、スピードは落ちないです。
スパーリングも織りまぜて、
動きを確認しながらやるんです。
それでも無駄なモノがつく。
それは何かっていうと、
試合に邪魔になる筋肉なんです。
  326 ええ〜! そんなのあるんですかー?

*4
肩固めは、
首と肩を同時に腕で極める技、
三角締め
相手の肩と首に足を絡ませて、
頸動脈を締める関節技。
ともに、
フィニッシュホールドとして
多く使われる。
TK あるんです。
例えば首から肩にかけての筋肉とかがつくと、
相手に肩固め(*4)とか
極められやすくなるんですよ。
以前なら、
相手が肩固めをとりに来るように誘って、
技を返すのが得意だったんですけど、
いまは誘うとそのまま極まっちゃう(笑)
326 なるほどね〜。肩固めって
筋肉があるから極まっちゃうんだ。
TK そう、普通の人にやっても、
あれはまず極まらないですよ。
あと三角締(*4)めも。
筋肉がつけばつくほど、
極められやすくなる技があって
得るモノがあれば、
必ず失うモノもあるんですよ。
そのへんのさじ加減が難しいんです。
  326 そうそう、いまTKさんが
一番戦いたい相手って誰です?
  TK 自分を絶望の淵に蹴落とした、リコですかね。
あの時の自分と
同じ思いをさせてやりたいですね。
〜Round8〜    
326 TKさんは自分のリングに
こだわっているように思えるんですけど、
体重を増やしたりっていうのは、
UFCに照準を合わせてるからなんですか。
*5
オクタゴンとはUFC特有の
金網で囲まれた
8角形のリングのこと。
TK そう、UFCは自分にとって特別なんですよ。
試合をやって勝とうが負けようが、
リングを降りるときに、
何かをオクタゴン(*5)の中に
置き忘れているような気がする
んです。

たまにそれがわかったりするんですよ、
試合中とかに。
「あ、これをリングに置いてきてたのか」
なんて。
  326 なんなんですか、それ気になる。
  TK なんていうかなー、あそこのリングって、
闘牛と一緒なんですよ。
客の雰囲気からして全然違う。
「行けー、殺せー」の世界ですから、
日本じゃ同じものは、まずできないし。

対戦相手からも殺意を感じるし、
周りのお客さんからも
ビンビン伝わってくるんですよ、
殺意が(笑)

オクタゴンに入ると、
歓声が地鳴りみたいに聞こえて、
セコンドの声とかいっさい聞こえなくなるし、
そんななかで、
興奮している自分を冷静に見るというか、
幽体離脱じゃないけど、
客観的な状態にならないと、絶対に勝てない。
  326 じゃないと飲まれちゃうんだぁ、雰囲気に。
  TK そういうトランス状態のなかで戦っているから、
オクタゴンから出ると
「いまの試合はなんだったんだ?」
っていうことになるのかもしれない。
  326 そういう試合を冷静に観察できるような
達人の域で戦うことを、
TKさんは求めてるのかもしれないですよね。
それがオクタゴンの下に眠ってるのかな。
  TK きっとそうなんでしょうね。
なんか自分の話しばっかりしちゃって、
すいません。
326さんにも話を聞かなきゃって
思ってたんですけど。
  326 いやあ〜、僕はぜんぜん幸せ(恍惚)。

最後に、TKさんにとって格闘とは。
  TK 格闘とはですか。うーん。
自分にとって格闘とは、
「人生そのもの」ですかね。
そして、強さが「生き甲斐」ですね。
  326 「か・く・と・う」
文字はちょっと違うけど、僕にとって
「か・く・こ・と」は「人生そのもの」です。
共通点がひとつあって、僕うれしい。

いやー、TKさんは思ってたとおりの人でした。
僕だけ満足しちゃって申し訳ないですけど、
本当にありがとうございましたー。
  TK こちらこそ。
また会いましょう(笑)。
〜延長Round〜    
TK ミツルさん、けっこうスキみたいですね、
格闘が。
326 いや、けっこうっていうかかなりスキですね。
試合もよく見に行くし、ビデオも集めてるし。
でも、UFCのビデオは少ないですよね、
あまり僕は持ってないんです。
  TK ミツルさん、UFCはぜひ、生のオクタゴンを
見に来てくださいよ。
  326 行っきてー、けど、アメリカとーいー(笑)
  TK 本気で練習しようと思ったことは
あるんですか?
  326 それがあるんですよ。
本心をいえば、
リアルに強い人になりたいんですけど、
リアルに強さを発揮できる場所もないし(笑)
でも、くったくたになって
家に帰るっていうのにも憧れて、
近所に井原ジムっていう
キックボクシングのジムがあるんですけど、
マジに通おうと思ったほどなんです。

でも、僕は絵を描く仕事なんで、
格闘技というか
打撃系は止めてくれって、
事務所に本気で頼まれちゃって。
  TK ここ、「ほぼ日」のビルの2階に、
自分ジム開いてるんで、
よかったら遊びに来ませんか?
  326 ええ、ホントっすか?
  TK ちょっとやれば、そこそこ強くなりますよ。
  326 そこそこ強くなったらどうしよう?(笑)
  TK 立ち技系はセンスですけど、
寝技系は努力なんですよ。
打撃ってなにかが起こる前に仕掛ける技でしょ、
でも、寝技は相手の動きに反応する技なんです。
  326 そっかー、寝技は基本的にリアクションなんだ。
TK だから、打撃系はセンスがなかったら、
ある一定のレベルまでは強くなるけど、
絶対にそれ以上は強くなれないんです。

いま僕がセコンドについてる、
吉田秀彦なんかは、
柔道のオリンピック金メダリストですけど、
センスの固まりで、
1教えたら10覚えちゃいます。
僕が7〜8年かかって覚えたことが、
すぐにできちゃうんですよ。
目の前でサラッとやられちゃうと、
さすがにちょっと落ち込みますけどね(笑)

もしその気になったら、いつでも自分が
ミツルさんのトレーナーになりますから、
声かけて下さいね。
うちのジムは、経験者、未経験者を問わず、
会社役員でもフリーターでも、
練習する人はみんなフラットなんで。
326 うわ、ものっすごくその気になってきた。
じゃあTKさん、約束ですよー、
もうオレ、今日から10キロ走るかもー!
「ほぼミツ」の感想や326編集長への激励は、
メールの表題に「326編集長へ」と書いて、
postman@1101.comへ!