永田 |
‥‥第32回を観終わりました。 |
西本 |
‥‥お疲れさまでした。 |
糸井 |
いやぁ‥‥。 |
永田 |
(目に残った涙を完全にふく) |
糸井 |
(手に持ってたハンカチをポケットにしまう) |
西本 |
(泣けない体質なので、それを黙ってみている) |
さんにん |
いやぁ‥‥‥‥。 |
永田 |
もう、どうしましょうね、今回。 |
糸井 |
こりゃもう、無理ですね。やめる? |
永田 |
それ、オレのセリフですよ。 |
西本 |
しっかし、濃かったですねえ。
オリンピックの男子サッカーの
10倍くらい濃かったですよ。
向こうは90分ですけど、
こっちは45分ですからね! |
永田 |
どうでもいい情報ですが、
にしもっちゃんは、
オリンピックの日本サッカー2連敗で、
思いのほか、へこんでるんです。 |
糸井 |
そんなに期待してないような
ふりしてたくせにな。 |
西本 |
はあ。石川を使ってほしいなあ‥‥。 |
永田 |
さ、覚悟を決めて話しましょう! |
糸井 |
ぼくは日曜日の放送を一度観てるんですけど、
みなさんは観たんですか? |
永田 |
観ました。2回観たのに、
2回とも泣いちゃったなあ。 |
西本 |
ぼくは帰省先の九州で観ました。 |
糸井 |
九州で久坂玄瑞には会ったんですか。 |
西本 |
残念ながら久坂玄瑞には会えなかったのですが
長州藩の下関に行ってきましたよ。 |
永田 |
あ、それうらやましい。 |
西本 |
そこで、長州の砲台跡を見てきたんですが、
いや、あれは無理ですよ。
あの大砲でイギリス船を打ち払おうとしたのは、
無謀だと思いましたよ。 |
糸井 |
しょぼいんですか? |
西本 |
そこにあるギターケースに
毛が生えたくらいのもんです。 |
永田 |
ちっちゃ! |
西本 |
「おいおい、久坂、これは無理だよ」と
関門海峡を臨みながらひとりつぶやきました。 |
ふたり |
うそつけ! |
西本 |
見上げると、入道雲の彼方に、
久坂玄瑞の彫りの深い顔が浮かんで‥‥。 |
永田 |
(無視して)糸井さんはどうでしたか、今回。 |
糸井 |
うーーん、ぼくはね、最近よく
こういうふうな考え方をしてしまうんですけどね。 |
ふたり |
ふむふむ。 |
糸井 |
伊東甲子太郎の役が、自分にまわってきたら
どうするだろうかと思いましたね。 |
永田 |
ああ、組織を内部から変えたいというふうに
考えた場合、自分がどういう行動を‥‥。 |
糸井 |
じゃなくて。 |
永田 |
は? |
糸井 |
伊東甲子太郎の役が、
自分にまわってきたらどうしようかな、と。 |
永田 |
ひ、ひょっとして、大河ドラマの役として、
自分にオファーが来たら‥‥。 |
糸井 |
うん。どうしようかなあと。 |
西本 |
わはははははは。 |
永田 |
おもしろい話になってきたぞ。 |
糸井 |
おもしろいだろ? でも真剣なんだ。 |
永田 |
それは『新選組!』というドラマの
伊東役に対して糸井重里さんに
オファーが来たということですか。 |
糸井 |
もちろん。ものすごく光栄じゃない?
しかもある意味ビックな役じゃない?
でもね、‥‥あの役はいやだ! |
西本 |
わははははははは! |
永田 |
バカバカしい(笑)。 |
糸井 |
桂小五郎の役とかもいやだなあと
思ってたりしてたんだけど、
今週の、変装して隠れてる役回りとかを見ると、
「あ、これならやってもいいかな」って
思うんだよ。でもねえ、伊東の役はねえ、
オレ、‥‥引き受けないかもしれない。 |
永田 |
「引き受けないかも」って(笑)。 |
西本 |
大河ドラマのオファーだとわかってるけど
糸井重里は、伊東役だけは受けない! |
糸井 |
うん。だからね、オレ、丁重に‥‥
「自分の考えていることと、あの役は、
あまりにもかけ離れているんですよねえ」
っていう感じで。 |
永田 |
断り方まで考えてるんだ(笑)! |
糸井 |
このごろ、「この役がきたらどうしよう?」って
ついつい考えちゃうわけよ。
「この演技できるだろうか?」みたいな。
つまりあれだよ、サッカー小僧が
レアルマドリードの試合を観て、
「あそこでジダンのスルーを受けて、
おれはワントラップで前を向けるだろうか?」
みたいなことなんだよ。 |
西本 |
わかるわあ、それ。 |
永田 |
わかるけれども、伝わるかな? このニュアンス。 |
糸井 |
できっこないんだよ。
できっこないんだけどさ、
「ああ、あのドリブルは!」
みたいなことを思うわけじゃない。 |
永田 |
深く思い入れる果てに、ですね。 |
西本 |
じゃあ、山南の役が来たらどうします? |
糸井 |
山南! 山南か‥‥山南なあ‥‥。
セリフがあれだけ少ないのに、
あの演技をしなきゃならないんだよなあ‥‥。
あれはすごいよなあ‥‥。 |
永田 |
めちゃくちゃ真剣ですね。 |
西本 |
この真剣さが、ある意味
最上の「ほめことば」だということを、
読者のみなさんにはわかってほしいですね。 |
糸井 |
山南さんは‥‥できない。 |
永田 |
オレじゃ無理だと。 |
糸井 |
うん。オレじゃ無理。 |
西本 |
でも、先方は、
「そこをなんとか」って言うわけですよ。
中華料理屋さんなんかで
三谷さんとプロデューサーの吉川さんと
初めて会ったりするわけですよ。
こう、円卓を回したりしながら。 |
糸井 |
食べ終わるまでは
差し障りのない話に終始しているんだけど
最後の杏仁豆腐が来たあたりで
「‥‥で、『新選組!』の山南役なんですが」
という話になって。 |
西本 |
「どうかひとつお願いできませんか」と。 |
糸井 |
「うーん、予想してたのより
セリフが少ないんですよね。
あれは、そうとう、むつかしいですよ。
考えたんですけどね‥‥
これは‥‥‥堺くんあたりが
いいんじゃないですかね」と。 |
ふたり |
あはははははは。 |
糸井 |
と、いうふうに考えさせるほど、
山南が、演じる堺くんがすばらしいということ。 |
西本 |
伝わるかなあ、これ。 |
永田 |
もっと伝わりやすい話し方をしましょうよ。 |
糸井 |
今日は、山南ですねえ。 |
西本 |
山南ですねえ。 |
永田 |
山南ですねえ。 |
糸井 |
ちょっと明るめの話からいきましょうか。
山南が竜馬に会いにいったシーン。 |
永田 |
あそこ、よかったですねえ。 |
糸井 |
うん。あそこさ、庭からふたりを映してる
カットがあったじゃない? 鳥の声がして。
そのとき、鳥が木の枝に乗っかってる重みを、
枝を揺らすことによって表現してたんですよ。
観ました? |
西本 |
へえ! 気づかなかった。 |
糸井 |
ふたりが話している部屋の外では
チュンチュンと鳴き声がして、
鳥の重みで枝が揺れてるんだよ。
そこにね、なんていうか、
「この道を行けば何かが変わったんだろうな」
という生命力みたいなものを感じたんですよ。 |
永田 |
ふたりが「この道を行けば」っていうのは
強く感じました。
ぼくは、ふたりが話しているときに、
ひょっとしたら三谷さんは
山南の未来を用意してるんじゃないかと
一瞬、思ったんですよ。
というか、そうだといいのに、
っていうのと近いんですけど。 |
西本 |
あの場面、山南さんは、
坂本竜馬に進退の相談で行ったんですかね? |
糸井 |
そこまで具体的じゃないでしょう。
「この男なら答えがわかるんじゃないか」
と思ったんでしょ。 |
西本 |
ああ、なるほど、そうか。
ぼくは単純に、いわゆる転職相談というか、
「このまえのいっしょにやろうという話、
きちんとうかがっていいですか?」
っていうのだと思ったんですよ。
だとすると、それはネガティブ転職だから、
やめたほうがいいというか、
山南らしくないというか、
逆にそれだけ追い込まれてるんだろうなあと。 |
糸井 |
追い込まれているのはほんとうですけど、
「竜馬についていきたい」とは
あの人は言わないでしょうね。 |
永田 |
そうですね。あの、山南が、
「帰ってくるのか?」って左之助に訊かれて、
「しばらく江戸で考えて、そのあとに‥‥」
みたいなことを言ったじゃないですか。
山南は、当然、わかってますよね。
帰ってこれないってこと。
でも、あれは左之助に
ウソを言ったわけじゃないと思うんです。
「そうなったらいい」っていうのも含めて
ほんとうのことを言ったんだろうなと。 |
糸井 |
「そうなったらいい」について
いろいろ考えるうちに、
竜馬に会おうと思ったんでしょうね。
あの人は、「そうなったらいい」に
向かっていく人ですから。
でも、惜しいことに、あのときは、
竜馬がどん底だったんですよ。
せっかく行ったのに閉店だったんですよ。 |
西本 |
「お客さん、今日は看板なんだよ」と。 |
永田 |
「こないだ来てくれれば、
いいのが入ってたんだけどねえ!」と。 |
糸井 |
「冷やし中華はじめたんだよ!」と。 |
ふたり |
それは違うでしょう。 |
糸井 |
2週間ぶりの鼎談なのに手厳しいなあ。 |
西本 |
そのあたりは男子部の生命線ですから。 |
永田 |
あれ、竜馬がいい状態のときに会ってたら、
脱走しなかったんですかねえ。
こういうこと言ってもしょうがないけど。 |
西本 |
会社的な視点でいうと、
その可能性はあったでしょうね。
ま、竜馬が近藤に頭を下げて
「すまんがこういうことじゃきに!」 |
永田 |
で、土方が「甘いんだよ!」って
言うかもしれないけど、
いちおう全員の面子も保たれて‥‥
ああ、もう、やめよう。 |
西本 |
明里を連れ出すところはどうでしたか。 |
糸井 |
あそこは「富士山」という
大きなことばを持ってきているのが
うまいですよね。 |
永田 |
いろんな人が攘夷だなんだと
せわしなく動いているなかで。 |
糸井 |
そうそう。歴史や時代と無縁な
明里が「富士山」という大きなことばを言う。
いいセリフだったよね。 |
永田 |
あと、ぼくは、そのことばが出る
まえのやり取りがすごくいいなと思って。
「何かやりたいことはないか」と山南が訊いて、
すぐに「富士山」と出てくるんじゃなくて、
まず、「わからない」と言う。それで
「なら、今度来るときまでに
決めてくれればいい」って山南が言って、
ちょっと間が空くでしょ。
その、「今度」を感じさせたあとで、
「富士山」と。 |
糸井 |
ああ、なるほどね。 |
西本 |
明るく話せるのは、
そのふたつの場面だけですかねえ。 |
永田 |
ですねえ。ええと、じゃあ、
伊東甲子太郎いきましょうか。 |
糸井 |
あの役が来たら、断ります! |
西本 |
まあ、いやなやつでしたねえ。 |
永田 |
いやでしたねえ。
2回観て、2回、いやなやつでした。
わかりやすくあそこまで悪いやつというのは
このドラマで珍しいですよね。
いままで観てきたかぎり。 |
糸井 |
あの、メガネのおかっぱ(武田観柳斎)が
かわいく見えましたからね。 |
永田 |
メガネのおかっぱ(笑)。 |
西本 |
いいあだ名つけましたね。 |
糸井 |
メガネノオカッパ。 |
永田 |
学校の先生につけるあだ名みたい(笑)。 |
糸井 |
でも、あの男の「いやさ」が重みとなって、
逆に土方をぐーっとよくしてますからね。 |
西本 |
ああ、それは思いました!
ぼくはまた山本くんに惚れ直しましたから。 |
糸井 |
あの、「古いつき合いなんでね」
って言うあたりとか? |
西本 |
そうですそうです。 |
永田 |
沖田に「山南さんを頼りにしてるんだ?」
って言われて「悪いかよ?」って
言うあたりとか。 |
西本 |
そうですそうです。
あのへんの素直に言えないあたりが、
オトナ語でいうところの「逆にアリ」なんです。 |
糸井 |
あと、土方といえば、冒頭のシーンですよ。
タイトルロゴが出るまえのところ。 |
西本 |
ああ、いきなりびっくりしましたね。 |
永田 |
あそこだけで
一話ぶんくらいの濃さがありますよ。
だって、あれ、ようするに
近藤が土方を殴ってるわけでしょう? |
糸井 |
そうとうな出来事ですよ。
あれをドラマの頭にもってきてるのが、
構成のうまさなんですよ。
だって、あれ、ドラマの中盤にあったら
えらいショックですからね。
始まって、いきなり
殴りつけられたところから始まってるから
収拾がつくんです。 |
永田 |
しかもあそこ、
「そんなことで隊士がついてくると思うのか!」
って言って、近藤が去っていく。
そこであのシーンが終わってもいいのに、
そこからもうひと山、来るんですよね。
あのへんの揺り返しというか、
「ふつうのドラマならここで終わるよな」
っていうところからまた続くのが、
『新選組!』にはしょっちゅうあるんですよね。
だから目が離せない。 |
西本 |
あそこから「逆だろ!」で、
土方の逆襲が始まりますからね。
「法度でしばるしかねえんだ」って。 |
糸井 |
で、とどめが、近藤が
「俺が脱走しても腹を切るのか?」ってやつね。 |
永田 |
あそこの、近づいてくる土方の
上目遣いの迫力、ものすごかったですよね。 |
西本 |
そこで言ったことばが‥‥。 |
糸井 |
「当たり前だろ?」 |
永田 |
♪チャッチャッチャチャッチャ〜♪
(オープニングテーマ) |
さんにん |
すごいよなあ。 |
糸井 |
山本くんの土方は
どんどんよくなりますよね。
やってることや、新選組の内部事情は
どんどんわるくなるんですけど。
永田くんは今回、どこがよかったですか。 |
永田 |
ぼくは今回、山南より、土方より、
沖田なんです。沖田とひでのやり取り。
「最近つれないから
ほかに好きな人でもできたのかと思って」
って、もう、どこが時代劇なのかっていうくらい
ベッタベタなセリフとか出てくるんだけど、
もう、ぼろぼろ泣けちゃって。
もちろん、ほかもいいんですけど、
あそこがトリガーになって、
あれ以降がぜんぶ泣けるんですよ。 |
西本 |
それ、「男の子な感じ」で泣けるんでしょ。 |
永田 |
う〜ん、なんででしょうねえ。
そうなのかなあ。 |
西本 |
ぼくはあのシーン観ながら
「ここ永田さん好きだろうなぁ」と思って。
谷川俊太郎さんの『さようなら』の
「ぼくもういかなくちゃなんない」のくだりで
泣いたっていう永田さんを思い出したんです。 |
永田 |
あっ、それはそうかもしれない。
あの、沖田が「急ぐ」っていう
ことばを使うでしょ?
あれが切ないんですよ。
「まだまだやるべきことが山ほどあるんだ」
って言うけど、あれ、ほんとは、
「やりたいこと」だと思うんです。
近藤を助けるのも、新選組で働くのも、
やるべきじゃなくて、「やりたい」んですよ。
それで、「急がなきゃ」って言ってる沖田が
なにをやるかというと、本を読んだり、
今後のことを考えたりするんじゃなくて、
木刀持って稽古しているわけじゃないですか。 |
糸井 |
それは泣けるよなあ。
それで、その稽古に、山南が最後の挨拶を。
言うべきことはほかにあるのに、
「剣の話」をするわけだよね。
‥‥いいよなあ。 |
ふたり |
いいですねえ。 |
糸井 |
沖田の役も断るしかないな‥‥。
「藤原くんあたりが
いいんじゃないですかね!」
と明るく提案するね。 |
永田 |
まだ言ってるんですか。 |
西本 |
あの、近藤が沖田に
「おまえが山南を探しに行け」って
命じる場面はどうですか。 |
永田 |
まずは、土方と近藤の絆の強さを感じました。
ほんとうに目だけで通じ合ってた。
ドラマだからっていうんじゃなくて、
ほんとうにわかりあってた感じがした。 |
糸井 |
また、「わかってない役」が
メガネノオカッパだから、
余計に差が目立つんだよね。 |
西本 |
「いやいや、オカッパ、ちゃうねん、
ここは斎藤じゃなくて沖田やねん!」
という感じですよね。
あれは、なんで沖田なんですかね。
斎藤だったらすぐに斬っちゃうから
ダメなんですかね。 |
永田 |
沖田だったら山南も戻ってくるかも、
ということなのかな。 |
糸井 |
いや、介錯の問題でしょ。切腹するときに
「介錯は頼む」というじゃないですか。
それはなまじの誰かじゃなくて
いちばん、心を許した人に
首を落としてくれということでしょ。
斎藤とは後の知り合いだからね。 |
西本 |
そうか、祝言からのつき合いですよね。 |
永田 |
介錯かあ‥‥きついなあ。 |
糸井 |
いよいよ、まったく希望なく
人を殺していくねえ。 |
西本 |
ホントに連合赤軍の末期だったり
中国の文化大革命だったりっていう
様相ですよね。伊東の入り方にしても
ああいう組織って後から
「悪くする人」が入ってくるじゃないですか。
古典を引用して解釈しているあたりなんか
すごく似てますよね。 |
永田 |
逆にいうと、よくドラマとして
成立しているなと思いますよね。
重いし、希望もないんだけど、
ぐいぐい引きつけられるし。 |
糸井 |
あの、ずいぶん読者のメールには
感心させられたけど、
「山南さんの羽織の色を見てると
気持ちが悪くてしかたがない」
っていうのがあったでしょ。
あれはつくづくすばらしいね。
交じり会わない運命を、
山南の赤紫色の羽織と、
土方、新選組の青が象徴しているという。
今回はとくにそれを感じたね。
山南がたたずむシーンが
多かったからかもしれないけど。 |
永田 |
‥‥‥‥あっ! |
西本 |
なんですか。 |
永田 |
予告編、観たよね?
山南の死に装束、薄い青色じゃなかった? |
ふたり |
あーーーーーっ。 |
永田 |
たしか、ほかの人の死に装束は、
いままで真っ白だったような‥‥。 |
糸井 |
もう、泣けてくるね。 |
西本 |
‥‥来週かあ。 |
さんにん |
‥‥来週かあ。 |