糸井 |
八嶋さんは、自分の頭のなかでは、
「自分は小劇場界の人」
っていう意識なんですか。
自分で自分の名刺をつくるときは、
やっぱり「小劇場界」って書いてあるんですか。 |
八嶋 |
そうですね、ええ。 |
糸井 |
「へぇ〜」とかは書いてないんですか。 |
八嶋 |
いや、そのへんも言っちゃいますよ。
「へぇ〜」でもなんでも、
自分がいまやってるものは、ぜんぶなんでも。 |
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糸井 |
でも、出身地はやっぱり小劇場。 |
八嶋 |
はい。よく自己紹介するときは
「カムカムミニキーナの八嶋です」
って言います。
カムカムミニキーナって
劇団名なんですけど、うちの。 |
糸井 |
うんうん。
たしか八嶋さんの小劇場デビューって
90年代ですよね? |
八嶋 |
1990年旗揚げです。 |
糸井 |
あ、ちょうど1990年ですか。
ということは、ある意味、新人ですよね。 |
八嶋 |
いや、ド新人ですよ、そんなの。
ほんとに古田(新太)さんとか
生瀬(勝久)さんとかに比べたら。 |
糸井 |
ああ、あのへんの人は古いですよね。 |
八嶋 |
ええ、渡辺いっけいさんとか‥‥。
そういう人たちを見て、
旗揚げしようとしたわけですから。
80年代の終わりに、
バンドブームと小劇場ブームみたいなのがあって。 |
糸井 |
ああ、そういう時代ですか。 |
八嶋 |
そういう時代ですよ。
鴻上(尚史)さんとかがワーッと盛り上がって、
それで、それこそ新選組じゃないけど、なんか、
「劇団に入るテレビに出れる?」とか、
ちょっとだけ思ったりして。 |
糸井 |
うん。つながってますね(笑)。 |
八嶋 |
それまで、人前で芝居やりたいっていうときに、
文学座の養成所に入るかとか、
そのくらいしか選択肢がなかったのが、
「あれ? 俺たち、
集まって『イエーイ!』って言ったら
人前でやっていいんだ?」
って思えるような空気があったんですよ。 |
糸井 |
それは貧乏でもできたんですか? |
八嶋 |
ああ、どうですかねえ。ぼくちょうど、
ギリでバブルくらいの時代の学生なんですよ。
最後の売り手市場の大学生だったんですよ。
だからけっこう、
ノンキといえばノンキだったですね。
バイトの時給もけっこういいし、みたいな。 |
糸井 |
じゃあ、腹減さらずに劇団はできたんだ。 |
八嶋 |
はい。住んでるところも
学生寮だったから安かったですし。
けっこう苦労知らずだったかもしれません。 |
糸井 |
そんなに覚悟があって、ってことじゃなかった。 |
八嶋 |
そうですね。けっこうノンキにお芝居を。
だからちょっとだけ
形から入った部分もありますよ。
だから、
大学卒業して劇団続けてっていうときは、
ちょっとは苦労人みたいに
ならないといけないかなと思って、
朝バイトして、夜稽古して、
夜中またバイトして、みたいな。 |
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糸井 |
絵的に苦労してみたり。 |
八嶋 |
はい。「苦労してる感じ」で。
でもやっぱり風呂なしアパートは嫌だとか。
そういう甘ったれたところがあるんですけどね。 |
糸井 |
いまの人ってみんな、
そういう時期があるんだね。
無理矢理に、貧乏フォーマットっていうのを
メソッドとしてやろうとしてる気がしますね。 |
八嶋 |
ああ、ちょっとありますね。 |
糸井 |
「人工ハングリー」っていうのが
いまは必要なんだね。 |
八嶋 |
ジンコウハングリー? |
糸井 |
人工的にハングリーな環境を作る。 |
八嶋 |
ああ! |
糸井 |
そこに時代が向かってますよね。 |
八嶋 |
そうですね。
だから人工ハングリーっていうか、
ハングリーな気分を味わわないとダメだと
どっかで思ってるんですかねえ。
ぼくらの世代は。 |
糸井 |
でもぼくもたぶん、
自分にもそうしてる部分もあるしね。
ジムでトレーニングしたり、節食したりするのも、
いわば人工ハングリーじゃないですか。
だって放っときゃハングリーじゃないもん。
ぬくぬくしてカロリーは過剰になるし。 |
八嶋 |
うん。すぐ太りますよ。 |
糸井 |
このあいだ、宮藤官九郎さんに続けて会って、
宮藤さんに対してぼくが言ったことで、
自分でもおかしかったのが、
「あなたのその、夢の小ささがいいね」
っていうことで。 |
八嶋 |
あははははははは。ああ、はいはい。 |
糸井 |
いま、おもしろい人たちって、
みんな夢が小さいんですよ(笑)。
それが、すごく、いいんです。 |
八嶋 |
はあ(笑)。 |
糸井 |
たとえば、いましてた『新選組!』の話でもね、
大きな野心の話じゃないじゃないですか。 |
八嶋 |
まあまあ、そうですね。 |
糸井 |
こっちでカットされたセリフを
こっちで入れてやれ、とかね(笑)。
映ってないところなんだけど、
もしかして映ったとき用に
自分で芝居を用意しとくだとか。 |
八嶋 |
ふふふふふふふ。 |
糸井 |
故郷のお母さんに、
「今回は主役並だぜ!」って言ってみるとかね。 |
八嶋 |
ああああ、それ、言ったなあ。
言った。それ。実際。 |
一同 |
(笑) |
糸井 |
一方でベンチャーの社長みたいな人がね、
「とりあえず世界一になる」
とかって言うのを聞くと
夢がでかいじゃないですか。
けど、わからないじゃないですか。 |
八嶋 |
うん。 |
糸井 |
その一方で、すごい夢の小さいやつが、
毎日をすっごいおもしろそうに
生きてるっていう感じが、
いいなあって思うんですよ。 |
八嶋 |
ははははは。ああ、そうか。
うーん、そういう世代なのかなあ。 |
糸井 |
いや、それは世代なんじゃなくて。 |
八嶋 |
違うんですかね。 |
糸井 |
というのは、オレの夢も
そうとう小さいからわかるんだけど(笑)。 |
八嶋 |
ああ(笑)。 |
糸井 |
タモリさんとかもそうじゃないですか。 |
八嶋 |
そうか、そうかも。そうですね。
大きな夢、言わないですよねえ。
あれはぼく、タモリさんくらいになると、
いろんなものをすでに得ているから、
もう、大きなものはいらないのかなって
思ってたんですけど‥‥。 |
糸井 |
違うんですよ。
得てなくても、タモリさんはああなんです。 |
八嶋 |
あの、『トリビア』のあとの飲み会で、
糸井さんとタモさんが
ずっと話してたじゃないですか。
「すごくおいしい米があるんだ」
っていう糸井さんと、
「どんな米でも
おいしくできる精米器を持ってる」
っていうタモリさんが、
「じゃあ、そのふたつを合体させよう」って。 |
糸井 |
はははははは、くっだらないよね(笑)。 |
八嶋 |
「どんだけうまい米が
炊けるんだろう」って(笑)。 |
糸井 |
タモリさんも本気だったし、
ぼくもきっと本気でしゃべってたんですよね。 |
八嶋 |
ぜんっぜん本気モードでしたよ、ふたりとも。 |
糸井 |
タモリさんもぼくも、
夢が小さいっていう切り口で見ると、
つくづく小さいです。
そのね、乱暴な言いかたをすると、
「夢が大きい」ってことは、
ウソなんじゃないかと思うんですよ。
だって、見えない世界のことを
語ってるわけですからね。
世界のどこかまで伝播していく自分の力を
想像して楽しむなんて、
いわば覇権主義じゃないですか。 |
八嶋 |
うんうん。 |
糸井 |
それよりは、自分のまわりの、
近所にいる人たちが
ニッコニコしてましたとか、
そういうほうがいいじゃないですか。
そういう、ある意味では、
いちばん欲の深いところが、
「小さい野心」っていうことの
正体なんじゃないかなあ。
で、その可能性がまだまだあるってことで
愉快なんですよね。 |
八嶋 |
うんうん。 |