ジョージ |
むかし、消防士さんと付き合ってたときに、
消防士さんって、夜勤があるでしょう?
で、たまたま僕の誕生日が、
その人の夜勤明けの日だったの。
夜勤明けというか、なんか、
中途半端に明ける日で、
僕んちに来るのが、それこそ、
夜の9時とか10時になっちゃうの。
そしたら、雪が降り始めたんだよ。
んで、あー、雪降って来ちゃったーって。
けっこう積もってきたのよ。
来れないかなあ、なんて思ってたら
ピンポーンってドアのベルが鳴って、
あ、来たんだー、ってドアを開けたのね。
そしたら、こうやって、
手の中に、雪の山作って、
そこにロウソクを1本立てて、
♪Happy Birthday to You
って、歌ってくれたの!
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つねさん |
すっごぉーい……
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ノリスケ |
すごい! 僕、その話、好き!
泣いた? そのとき。
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ジョージ |
そんときにはね、この人と一生付き合ってくんだ、
って思ったんだけど、
……その3週間後に別れた。
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ノリスケ |
(爆笑)。
でもね、僕はすごく、いま、
感動しちゃったんだけどな。
センスいい人だね。
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つねさん |
センスいいね。
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ジョージ |
うん、その人はね……
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つねさん |
デブ?
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ジョージ |
デブって……まあ、デブだったんだけどね。
その人は、僕のところに来るたびに、
なんか持ってきてくれたの。
持ってきてくれるものっていうのは、
なんてことないもんだったんだよ。
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ノリスケ |
つまり、お金ではないようなものでしょ?
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ジョージ |
道ばたに咲いてた、ヒメジオンを、
ただ摘んで、はいッ、プレゼント、って。
僕が「そういうの入れとく花瓶がない」
って言ったら、「だと思った!」って言って、
ポケットから瓶の牛乳を出したの。
それでその牛乳をぐーーーーっと飲んで、
ハイ、これが花瓶、って言って出してくれたの。
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つねさん |
うおーーーーー。
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ノリスケ |
ステキ!! いやん!
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ジョージ |
良かったんだけどもねー、ちょっとねー……
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つねさん |
じゃまだったの?
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ジョージ |
ちがう、ユーミンおたくだったの。
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ノリスケ |
郵便おたく?
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ジョージ |
ユーミン!!
松任谷由美的世界のなかに、
ずーーーーっと生きてたんだよね。
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ノリスケ |
彼のプレゼントにも、
ユーミンの歌詞がお手本だったの?
僕はユーミンわからないけども。
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ジョージ |
それは僕もわかんないんだけど、
毎日毎日、たぶんいろいろ考えるんだろうね。
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ノリスケ |
ユーミン的な、何かを。
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ジョージ |
そう。そして、それを、久しぶりに会った
その瞬間にぶつけてくるこの情熱。
これは、なかなか、胸を打たれたの。
その部分で、あんたオッケーっ!!
って思ってたんだけどね。
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ノリスケ |
オッケー、オッケー。
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つねさん |
なんで、別れたの?
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ジョージ |
たまにね、ババ臭くなるんだよ。
女になっちゃうの。
これがねー、ちょっと辛くてね。
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ノリスケ |
微妙な、なにかがあったんですねー。
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ジョージ |
そ。微妙なね。
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ノリスケ |
その彼って、プレゼント勘みたいなものは、
いいねぇ。
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ジョージ |
うん。いいよねっ。いいんだよ。
彼はたぶん、ものすごく慣れてるんだと思う。
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つねさん |
手慣れてるんだと思うよ。
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ジョージ |
プレゼントし慣れてる。
さりげない、プレゼント。
そすると、そういうさりげないプレゼントが、
いっぱいいっぱい積み重なってくると、
僕の中でそれを溶かさなきゃ
いけないわけじゃん?
そうするとね、起死回生の
一発を撃っちゃうんだよね。
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ノリスケ |
こっちから?
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ジョージ |
飲茶食べに香港へ行こう、
とかって言っちゃうの。
金にモノいわせちゃうの。
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ノリスケ |
そこがなー。
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ジョージ |
そうなのよねー……。
そこでね、そんなお金のムダ使いしちゃいけない、
とかって言われるんだよねー。
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ノリスケ |
考え方が違ったんだね。
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ジョージ |
そのときはね、僕もダメだったのね。
でも、そのときは、すーごいいっぱい、
手紙のやりとりしたよ。
1週間に1回、1通ずつ手紙書いてたもん。
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つねさん |
あー、すごいね。
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ジョージ |
手紙って、最高のプレゼントだよ。
最近出してないけどね。
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ノリスケ |
今、Eメールでしょう?
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ジョージ |
だって、つきあい始めのころって、
海外出張のときはね、必ず成田空港で出して、
向こうでも出してたもん。
手紙って、いいよね。
こっぱずかしいことが書けるんだ、これが。
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つねさん |
たしかにね。
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ノリスケ |
特別感があるしね。
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つねさん |
メールは、それは、あるけど、ないよね。
手で書いたっていう感触がないから。
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ジョージ |
電話でものごとを伝えるような
プレゼントもあるだろうし、
手紙でしか伝わらないような
プレゼントもあるんだろうと思う。
その消防士さんが僕にくれた
プレゼントっていうのは、
なんか、手紙っぽいプレゼントだったよね。
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ノリスケ |
フンフン。
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ジョージ |
ぜったい電話っぽくない。
で、電話っぽいのの究極は、商品券だよね。
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ノリスケ |
究極はね。お金ではないけれども、
限りなくお金に近いもの、ね。
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ジョージ |
ティファニーのペンダントヘッドとか、
そういうやつだよね。
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ノリスケ |
ようするに、換金性の高いものだよね。
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ジョージ |
換金性が高いというか、
ものそのものに誰でもわかるような
価値があって、見せた瞬間に終わるもの。
プレゼントってさー、
貰った人が、くれた人のことに、
思いを馳せるためにあるわけじゃん?な?
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ノリスケ |
そうだ、そうだよ。
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ジョージ |
ただ、思いを馳せるだけだったら、
かたちにならない、なんでもいんだけど、
そのかたちをもらったということは、
誰かにそれを伝えるためにも
あるわけでしょう?
そうすると、誰かに伝えるときに、
もの見せて、これ貰った、って言えば
終わるようなプレゼントと、
もの見せるだけじゃなくって、
こうこうこうしたシチュエーションで、
こうこうこういうときに貰ったのよ、って、
そのことだけで、10分くらい話ができること。
2つあるよね。
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ノリスケ |
もの自体で終わっちゃうプレゼントって、
やっぱり多いんじゃなーい? 世の中には。
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ジョージ |
それしか喜ばない子もいたりするしね。
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ノリスケ |
あげる方も、そんなに別に
思いがあるわけではないのかもしんない。
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ジョージ |
そういうもののプレゼントを繰り返していくと、
貢いだことになるんじゃない?
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つねさん |
貢ぎ物なわけねー。
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ジョージ |
じゃあ、うちのお父さんが買った
マンションていうのは、貢いだんだろうか、
プレゼントなんだろうか?
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ノリスケ |
何それ? 誰に?
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ジョージ |
韓国の愛人。
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ノリスケ |
フハハハハハハ。
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つねさん |
あ、僕、でも、なんか、
ちょっと違うかも知れないけど、
すごく嬉しいプレゼントって、
部屋の鍵とかってあるよね。相手の。
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ノリスケ |
ええっ? 別れた彼の、ってこと?
なんてビッチなの!
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ジョージ |
重いねー。
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つねさん |
なんか、ほら、すくなくともそのときは、
自分だけなわけじゃない?
いろんな人に渡すもんじゃないから、
ああいうのって。
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ノリスケ |
でも、それで、かち合ったりすると、
マンガ的には面白いんじゃない?
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つねさん |
それは、それは、また別。
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ジョージ |
でも、ふつう別れたら、
返すでしょ、鍵は。
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つねさん |
俺、返してない鍵って、
何個もあるのー。
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ジョージ |
サイテー……
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ノリスケ |
悪いオンナね。
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ジョージ |
ほっんと、サイテー……
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つねさん |
返そうと思ったんだよ、いちおう。
返そうと思って、場所設定して、
時間設定して、会いましょ、って言ったら、
そいつ来なかったんだよ。
忙しいとかいわれて。
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ノリスケ |
で、どうしちゃったの? その鍵。
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つねさん |
あ、未だにキーホルダーについてる。
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ジョージ |
サイテーっ!!!
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ノリスケ |
何で今でもつけてるのよ!?
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つねさん |
戦利品みたいな?
よくわかんなーい(笑)。
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ジョージ |
聞いた? 戦利品ですって、戦利品。
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ノリスケ |
心の底から悪いオンナね。
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ジョージ |
戦利品よぉ!?
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つねさん |
首狩族みたいに……
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ジョージ |
鍵狩族。いやん、すごいかもー。
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ジョージ |
けっこう僕、消防士さんとは、
ドラマティックな状況がいっぱいあったよ。
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ノリスケ |
学ばせていただいた、というか……
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ジョージ |
やっぱりねー、あるていど付き合ってるとー、
別れる別れないとかっての、あるじゃーん。
で、うちで話をしてて、夜中にね、
大喧嘩して、そんで、その人んち遠いから、
もう別れる、ってことになったんだけど、
今晩だけは泊めて、って。
で、別々に寝たの。
でも、一晩寝ちゃうと、
いろいろ反省するわけじゃん。
反省はするんだけどさー、
別れるって言った手前、なかなかちょっと、
ごめんなさい、って言いづらくって、
僕が年下だから、僕がごめんなさい言うのが
いちばんいいんだけどね。
眠れなくってまんじりともしないで
朝早くむこうが起きて、出ていくわけだよ。
6時ぐらいに。
まだ、薄明るくしか、なってないの。
「じゃあ、もう鍵いらないからね」って、
合い鍵をひとつ、ポーンと、
おいて帰ったんだよ。ボクは、彼が去った後、
あーん、だめだー、だめだめだめだめ……って。
そんで、そんときの僕の家が、三階。
ベランダがあって。その人はバス停に行くまで、
そのベランダから見える道を通るしかないんだよ。
ごめんなさい、って言おう、って、
ベランダから「ごめんなさーい!」って言ったら、
彼、無言のまま、両手をさしだしたの。
それは、合い鍵を、もう一回投げて、
っていうことだな、って。
それで、ポーンと投げたの。
彼はそれを受け取ると、右手でギュっと握って、
胸のところにあてて、ニコってほほえんで
「ありがとう」って言って帰ったの。
素敵でしょう?
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ノリスケ |
(溜息)。
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ジョージ |
そういうのに、酔ってしまう2人っていう……
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ノリスケ |
いや、それは、でも、素敵よぉ。
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つねさん |
酔えるもん、シチュエーションに。
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ノリスケ |
だって、はなし聞いてるだけでも、
ちょっと、いいよねー。
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ジョージ |
なかなかね、素敵だったよー。
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ノリスケ |
たとえば、そんな脚本書いたらさー、
こんなこと、あるわけないだろう、
って怒られそうな、シチュエーションよね。
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つねさん |
フジテレビの月9でやりそうな
シチュエーションだよねー。
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ノリスケ |
たしかに。
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ジョージ |
も、すっごい盛り上がったよ。
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つねさん |
そりゃ、盛り上がるよー。
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ジョージ |
バカッ、って言われてたんだもん。
二丁目的に。みんなに。
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ノリスケ |
そういうエピソードは、
すぐ話しちゃうのね。
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つねさん |
つつぬけ!
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