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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

お料理だいすき。その8
二人の家庭の新しい味。

つねさん メシ食いに行って、
これ美味しかったーって言ったら、作るほう?
ノリスケ それはね、そうでもないよ。
つねさん あーそう?
ノリスケ 家で作るものはね、ふつうのものばっかり。
家で作れないもん食べに行くだと思うから。
部分的に、あ、この工夫いいなとかいうのは、
真似することあるけど。
できないから食べに行く、
ていう前提があるから、やんないかな。
つねさん あ〜。
ジョージ でも、部分的にもらうのって、いいことだよね。
ノリスケ そう。これって直火であぶるといいんだ、
みたいなね、そういうことね。
ジョージ あとね、野菜ってこういうふうに切ると、
綺麗に見えるんだ、とか。
ノリスケ そう。
つねさん そうだね、盛りつけとかね。
ジョージ たとえば、ミョウガだって、
縦に切るのと横に切るのでは味が違うんだー、
とかね。そういうのは、勉強になるよね。
ノリスケ うん、そういうことは勉強になるけど、
そのもの自体を再現っていうよりは、
もう1回あのお店に行きたいから、
お仕事頑張ろうみたいな気持ちのほうが
強いかな?
ジョージ でも、それは、あれだよ、
自分で食うものを自分で払う人の特権だよ。
よく、グルメ系の番組、
テレビ番組とか観てると、
おばさんたちが何か旨いとこ食いに行って、
まあ、美味しい、
これ、私作ってみようかしらー、
って言うけど、あれは絶対作らないよね。
つねさん 作らない、ね。れない、じゃなくってね。
ジョージ 特にさ、いいよ、よしんば作ったとしよう、ね。
そしたら、食わせてもらった亭主とかさ、
おまえ、気の利いたもん作るじゃないか、
どうしたんだ?
えー、あたし、こうこうこういうわけで
ご近所のお友達と、お夕ご飯食べに行ったの、
どこそこのお店ー、4千5百円だったの、
って言ったら、夫婦喧嘩が始まるんだよ。
そしたら、絶対作れない。
つねさん そっかー、そうだよね。
ジョージ うん。
つねさん 確かにそうだね。
ジョージ ね。そういう人、いっぱい知ってる。
ノリスケ レパートリー増やそうっていうより、
素材、いい塩を探そうとか、
美味しいお水は何だろう? とか、
そういうほうに行ってるな、僕は。
つねさん でも、それはさ、
あらかじめレパートリーがある人なんだよ。
ジョージ いや、なんか、どんどんどんどん
おんなじもんばっかり作るようになるよね。
ノリスケ うん。僕、レパートリー、
ないんじゃないのかな?
毎日食べるものって、かわりばえしないよ。
ジョージ 今年の夏の、
我が家のゴーヤチャンプルみたいなね。
つねさん あ〜、今年は、ずいぶんゴーヤ食べたね。
ジョージ で、あれだけいっぱい作って食べて、
この前、僕たちはそうとう上達したよね、
って思ったのに、今日、ここに来て、
ちょっと沖縄系のバーに来てるんですけど、
やっぱり違うのよね。
こっちのほうが美味しいです〜。
つねさん ハハハハハ。
ジョージ それとね、ちょうど、あの、おととい僕、
沖縄に行ってたんだけど、
喫茶店にまでゴーヤチャンプルがあるんだよ。
つねさん まるで、四国の……
ジョージ そう、四国の喫茶店にうどんがあるような感じ。
でもね、四国の喫茶店には
メニューにうどんが載ってるけど、
沖縄の喫茶店のメニューにはなかったんだよね。
で、沖縄といえばゴーヤチャンプルだよねー、
とかって言ってたら、喫茶店のおばさんが、
「ゴーヤチャンプル定食、作りましょうか?」
って言って。あ、じゃあ、お願いします、
って言ったら……旨い。……旨い。
およよよよよよ。旨い!!!
ノリスケ 地肩が違うってやつ?
ジョージ そのとき、あらためて、
ああ、家庭料理っていうのは旨いんだ、
って思ったね。
でね、この前、青森行ったとき、
こっちはまだ暑さが残ってたけど、
キノコが出始めてるんだよね。
東北で北のほうだから。
取ったばっかり、出たばっかりのキノコを、
味噌汁にして食えばいいよって
地元の人が届けてくれて。
そしたらね、それ取ってくれた人が、
うちでは、キノコの汁には
大根おろしを入れるんですよ。
温かい味噌汁なんだけど、
味噌汁の完成直前に大根おろしを入れて
一煮立ちさせるんですよって。
ノリスケ へー?
ジョージ そうするとね、さっぱりするし甘味が出るし、
若いキノコっていうのは、
菌で毒を持ってる場合があって、
毒消しにもなるから
大根おろしを入れるんですよって。
ノリスケ ほー。
ジョージ で、貰ったキノコをお店に渡して、お店の人に、
すいません、これで、お味噌汁作って下さい、
って言ったら、作ってきた味噌汁にはね、
大根おろしが入ってたの。
その会話は知らないはずの人なのに。
ノリスケ ほー。
つねさん あー。
ジョージ 美味しかったよー。
で、こういうのはやっぱり、家庭料理だよね。
ノリさんちの家庭料理って何?
ノリスケ とろろ汁とかかなー?
つねさん あー。
ジョージ つねさんとこは?
つねさん うちはね、白菜とクジラの煮物。
最近はチャンポン。
ジョージ なるほどね。
つねさん ちゃんとね、鳥ガラでスープから作って。
ノリスケ お魚の内臓系の料理もあったよ。
ジョージ あ〜。
ノリスケ あれ、捨てちゃうようなもんなんだろうね、
たぶん、地元でしか食べないようなもんでしょ。
ジョージ ウチは天ぷら。天ぷらって言っても、
さつまあげみたいな、あれを
天ぷらって言うんだけど。
ノリスケ はいはいはい、あれね。
ジョージ あとさ、味噌が違うね、お味噌が。
ノリスケ お味噌、ぜんぜん違う。
つねさん そうだね。
ジョージ 私が作ったお味噌なの、っていうのは、
ものすごい嘘ぽくてで嫌だけど、
私のお母さんから分けてもらったから、
お味噌汁作ってあげるー、とかって、
男的には、すっごい嬉しいね。
ノリスケ 嬉しいね。
ジョージ ね。それが甘かろうがしょっぱかろうが、
ああ、そうなんだ、って。
それで、魔が差してさ、
「お前と結婚したら毎朝これが食えるんだー」
とかって言っちゃうんだよね。
つねさん ところが(笑)。
ジョージ そう。ぜったい作ってくれなかったり
するんだと思うよ。
ノリスケ あのさ、かたくなにさ、
ウチではこうなのっ、つってさ、
かたくなな料理されると、
ちょっといやだね(笑)。
二人の暮らしが始まったら、
二人の味覚を育てるべきだから、
いままで自分がつくってきた料理の味は
彼と暮らし始めたときに、
変える覚悟でいたほうがいい。
変えるっていうか、いままでの蓄積を基本にして
アレンジしてくっていうか。
つねさん ベースはそれでね。
で、ちょっともう少し薄い味が好きなんだよ、
とかさ。なんか。
ジョージ だから、今言ったようなことは、
ひとりの男に、一生に一回しか使えない、
飛び道具だよ。
つねさん あー、そっかー。
ジョージ 僕の顔なじみの子でね、
けっこう仲が良かったの。
それで、旅行とか行こうよ、っつったら、
いやー、旅行は行けない、って言うんだよね。
なんで? ペットかなんか飼ってるの?
って言ったら、いやー、ペットより面倒なの
飼ってるんだよ、って。
なに? ったら、
ぬか床育ててるから、って(笑)。
つねさん は〜、すてき。
ジョージ 夏の旅行は行けないんだよ、って。
毎日かき混ぜないといけないから、
って言われた。も、そん時にはね、も、
感心を通り越して笑ったね。
つねさん ああ、そうだね。
ノリスケ うん。自分にぬか漬けさせたら
上手いと思うんだけど、
それを考えると嫌だね。
梅干しまでは、許せるかも。
期間限定だから。
つねさん そう。
ノリスケ ペット飼わない理由と
ちょっと似てるかも知んない、たしかに(笑)。
つねさん でもペットって、旅行のとき預けられるもん。
ぬか床、預けられないもん。
ノリスケ ぬか床あずけるとこないもんね。
つねさん 人の手が入ったら、また変わってくるから、
味が。
ジョージ そうだね。
でね、茄子とかつけてね、その……(笑)
つねさん なに? なんで笑ってるの。
ジョージ 「寂しい時には、茄子を丸ごと使って
 慰めるの」っていうんですもの(笑)。
ノリスケ ぐははは。やだー。いきなり、おげれつ。
(やだやだ。つづきます)

2001-10-03-WED

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