糸井 |
売るための営業努力はもちろん大事ですよね。
自分の首を締めるような発言になりますが、
編集者を職業としている人が、
市場が何を求めていて、
自分は何がやりたいかについて、
ちゃんと考えてきたか、についても、
案外、怪しいんじゃないかっていう
現実もありますよね?
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仁藤 |
う! 痛い。
編集って、「本を編む」っていうけど、
編んでこんがらがせてる時もありますから。
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糸井 |
例えば朝日出版社の編集者の人なら、
ふつうの人が読んでも充分におもしろい
インテリの学者を発見することって、
すごく上手じゃないですか。
だけど、見つけた先生の
専門的な知識に振り回されてしまったら、
誰にこれを読ませるの?という感覚が
欠落してしまうような気がします。
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赤井 |
誰に何を出版するのか、
を曖昧にしたまま、
「いい本」とか言って、
出してしまうわけです。
編集者は、何十年も
本好きな人だけを相手にしてきていて、
同じような種類の人たちに、
難しいものを難しいまま説明することに
慣れていて、甘えていたんですね。
「つまり、これは、どういうことなの?」
と一般の人が思う
その核心には踏みこめなかった。
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糸井 |
そこをついて、たまに
読み手に伝える努力を怠らなかった本が出て
きちんと伝わって、売れる本になるわけですよね。
「売れるからいちがいにいいとは限らない」
という見方もあるでしょうけれども、
少なくとも、買うだけの魅力を感じさせたとか、
より多くの人に内容が伝わったかもしれない、
というような点では、ぼくはやはり、
売れている本を評価したいと思っているんです。
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赤井 |
1冊の本を読み通してみても、
心に残るのが4行くらいの時も、ありますよね。
編集者は、その4行に向けて、
きちんと補助線をひいてあげる
産婆のような役割を、するべきでしょう。
いままでは、補助線もひかずに
ただ受け取った原稿をまとめる編集が
大半なわけだから。
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糸井
赤井
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逆に言えば、
それだけサボってきた業界なのに、
今の時点でも、本というものが、
読んだ人にとっては特別に大事なものに
なっている場合がありますよね。
宗教的な力さえ、持っているわけで。
だったら、伝える努力、
販路をきちんと開く努力、
おもしろいものを生み出す努力を
もっとしてみたら、単純に言って
おもしろがってくれる人が増えるし、
本の中身もより伝わっていきますよね。
それをほぼ日ブックスができたとしたら、
何よりもまず、本を読んでくれる
お客さんが、よろこぶじゃないですか。
それは、うれしいことですよねえ。
まあ、
インテリ的なプライドにこだわらないで、
「こういうのが、欲しかったんだ」
というものを作るという
他の分野では当たり前の営業努力を
やってみるだけのことなんですけれども、
それだけでも、価値はありますよねー。
出版界には、本の好きな人に向けて、
より細い路地を紹介するような
フェティシズムの方向も残るのでしょうが、
大部分として誰に何を手渡すかを考えれば、
著者の持っている情報、伝えたい情報を、
どれだけいきいきとした状態で伝えられるか、
を、きちんと考えていきたいですよね。
「本なんてほとんど読まないよ」
という人にも読んでもらえる、
新しいエンターテインメントというか、
新しい教養というか、そういうものを出せたら、
従来的な出版社にいる編集者はみんな、
「そのほぼ日ブックスで私も本を出したい」
と思うでしょう。
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仁藤 |
いま、出版界に関わらず、
流通で動きのいいところは、すべてその
「お客さんがよろこぶところ」から
スタートしていますもんね。
ユニクロの社長さんも、
考えていることの根幹は、
お客さんに、よろこびを提供できるかどうか、
という点にあると思いますよ、きっと。
いまは、お客さんの目が肥えてきてますから、
「何が自分をしあわせにしてくれるか」
っていうのに、みんな、敏感ですよ。
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糸井 |
うん。
だからやっぱり、手はあると言うか。
そういう努力をやったうえで、あとはやはり
商品力の勝負になってきますよね。
どれだけ魅力のあるものを作れるか、
大当たりするものを発信できるか、を、
このシリーズでは、
逃げずに考えていきたいですねぇ……。
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赤井 |
いますぐにでも、これが届けたいって
自信を持って言えるような企画は、
たくさん考えられると思います。
いままでだったら、企画会議の手続きを通すために
つまらなくしてしまったような企画も、
とにかく「出して、市場に問う」というふうに
なっていくと思うんで。
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糸井 |
じゃんじゃん失敗もしそうですねぇ(笑)。
でも、もともと失敗に数えられない失敗を、
出版社は恒常的にやってきたわけだし。
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赤井
仁藤 |
おんなじです、そういう意味では(笑)。
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