まるで、NASAのようなメディアになりたい?

 第16回 相手の味が出ればいい、というか。

(※八木亜希子さんと糸井重里の
  「ほぼ日ブックス創刊記念対談」を、
  前回にひきつづき、お届けいたします)




糸井 ぼくは、八木さんの
「はい」とか「ええ」とかの
受け手、聞き手としての豊かさって、
ほんとうにすごいと思うんです。

たぶん、会話って、
話す側のほうが、あらかじめ
「よーし、今日はこれを言ってやれ」
と思っているものを、ただ単に
言っているだけのものだけになると、
おもしろくもなんともないと思うんです。

やっぱり、モチつきじゃないですけど、
キネを持つ人がいて、その一方で、
「ハッ」とか言って、モチを
うまいことひっくり返す人がいないと、
会話として、つまんないんじゃないですか?

「あ、そうやってモチひっくりかえしたか?
 じゃあ、こっちをたたいてみるぜ」みたいな。
八木 (笑)・・・わたし、「ハッ」のほうですか?
糸井 そう。
あれがじょうずじゃないと、
リズムとかノリとかが、
なかなか、出てこないんだよねぇ。
八木 うんうん。
糸井 そんな訓練って、
ふつうのアナウンサーは
してないんじゃないか、と思うんですけど。
八木 ・・・でも、
アナウンサーになって最初の研修の時に、
まず「声は人なり」と、
目の前に大きく書かれるんですよ。

そして、
「アナウンサーの仕事は、
 話す仕事より聞く仕事です」
というのも、いちばん最初に言われます。

実行できていたかどうかはべつにしても、
そういう意識は、アナウンサーになる中で
生まれるとは思うんですけどね。
糸井 なるほど。
ただ、そのための「具体的な訓練」は、
やらないわけですよね?
八木 そうですねぇ・・・。
だいたい「姿勢」の問題ですかね?
糸井 はー。なるほど。
「精神」ですかぁ。
八木 「精神」の問題じゃないでしょうか。
だから「声は人なり」なんでしょうね。
糸井 うーむ、なるほど。
と言うことは、番組の中だけでなく、
日常生活で八木さんのまわりにいる人は、
よくしゃべっちゃったりするんですか?
八木 いや、どうでしょう?
わたしも、ふだんはよくしゃべってますけど。
糸井 両方からモチをひっくり返しあってる?
八木 そういうときもあるし・・・。
ただ、これは
先輩から言われていたことなんですが、
日常から、友だちなんかと話をしてる時でも、
「自分がいかにおもしろく話せるか」
「相手の話をいかにおもしろく聞けるか」
ということを、けっこう意識しなさい、と。
糸井 なるほどねー。
ためになるわ。

じゃあ、八木さんも、
「そうこころがけてる」
っていうことですよね?
八木 というか、やっぱり、
つまんない話は聞きたくないので、
いかに話がおもしろくなるか、
ついつい茶々を入れたりしますね。

あと、自分ではすごく
おもしろかったはずの夢の話なんかをしても
相手がつまんなそうだったら、
早めに切りあげてみるとか。
糸井 あ、夢の話って、そうですよね。
いつも、自分が思っているよりは、
他人にとってはおもしろくないですから。
八木 そういうことは、日常から、
けっこうしてるかな、とは思います。
糸井 ということは、
自分が話した言葉の
着弾地点みたいなものの様子が
ある程度、見えるわけですか?
八木 ある程度は。

友だちと話してても、
相手が退屈そうだったりすると、
つい話題を変えたり、早めに切り上げたり。

・・・いま、こうやって話をしていても
客観的に見ている自分が常にいます。
「あ、この話はつまんなそうかな?」とか、
すごく感じちゃったりします。
糸井 いまは?
八木 イマイチ?(笑)
糸井 ぼくもそう思ってました(笑)。
いやぁ、すみません。

ただ、イマイチでなくなるっていうのは、
実は受け手の力が
そうとう大きいっていうことですよね?

つまらない人を
おもしろく喋らせちゃうことが
八木さんぐらいにできるとしたら
いろいろな人から、いっぱい
おもしろいことを掘り出せるじゃないですか。

そういうのが、すごいと思うの。
たとえば、無口な職人さんに取材、
なんてこと、よくありますでしょ?
八木 ええ。
糸井 そういう時って、
やっぱり心の持ちかたの問題ですか?
八木 えーっと・・・。
その無口な人に、
「言葉としていっぱい喋ってもらいたい」
と思って行ったら、それは
とても退屈なことになってしまうかもしれない。

だから、そうじゃないような見方をします。
つまり、そのインタビューの様子を
客席で見てる自分がいたとしますよね?

そうしたら、質問者であるわたしが
とても一生懸命しゃべってるのに、
相手がすごく無口で、
「まあね」と言っただけだったりする・・・。

そういう状態は、たぶん、
見ている側としては、おもしろいなあと
わたしは判断したりしていますね。

もし自分が観客だったら、
ということを考えて、相手の人の
味が出ればいいというか・・・。
糸井 わかるわ。なるほどね。
八木 私が機関銃のように聞いて、
質問について100聞いてるのに、
1しか応えないその空気が
おもしろかったりしますから。
糸井 客観的に、引いてみているんだ。
おもしろいわ。

(つづきます)
  

2001-11-23-FRI


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