糸井 |
ぼくは、八木さんの
「はい」とか「ええ」とかの
受け手、聞き手としての豊かさって、
ほんとうにすごいと思うんです。
たぶん、会話って、
話す側のほうが、あらかじめ
「よーし、今日はこれを言ってやれ」
と思っているものを、ただ単に
言っているだけのものだけになると、
おもしろくもなんともないと思うんです。
やっぱり、モチつきじゃないですけど、
キネを持つ人がいて、その一方で、
「ハッ」とか言って、モチを
うまいことひっくり返す人がいないと、
会話として、つまんないんじゃないですか?
「あ、そうやってモチひっくりかえしたか?
じゃあ、こっちをたたいてみるぜ」みたいな。 |
八木 |
(笑)・・・わたし、「ハッ」のほうですか? |
糸井 |
そう。
あれがじょうずじゃないと、
リズムとかノリとかが、
なかなか、出てこないんだよねぇ。 |
八木 |
うんうん。 |
糸井 |
そんな訓練って、
ふつうのアナウンサーは
してないんじゃないか、と思うんですけど。 |
八木 |
・・・でも、
アナウンサーになって最初の研修の時に、
まず「声は人なり」と、
目の前に大きく書かれるんですよ。
そして、
「アナウンサーの仕事は、
話す仕事より聞く仕事です」
というのも、いちばん最初に言われます。
実行できていたかどうかはべつにしても、
そういう意識は、アナウンサーになる中で
生まれるとは思うんですけどね。 |
糸井 |
なるほど。
ただ、そのための「具体的な訓練」は、
やらないわけですよね? |
八木 |
そうですねぇ・・・。
だいたい「姿勢」の問題ですかね? |
糸井 |
はー。なるほど。
「精神」ですかぁ。 |
八木 |
「精神」の問題じゃないでしょうか。
だから「声は人なり」なんでしょうね。 |
糸井 |
うーむ、なるほど。
と言うことは、番組の中だけでなく、
日常生活で八木さんのまわりにいる人は、
よくしゃべっちゃったりするんですか? |
八木 |
いや、どうでしょう?
わたしも、ふだんはよくしゃべってますけど。 |
糸井 |
両方からモチをひっくり返しあってる? |
八木 |
そういうときもあるし・・・。
ただ、これは
先輩から言われていたことなんですが、
日常から、友だちなんかと話をしてる時でも、
「自分がいかにおもしろく話せるか」
「相手の話をいかにおもしろく聞けるか」
ということを、けっこう意識しなさい、と。 |
糸井 |
なるほどねー。
ためになるわ。
じゃあ、八木さんも、
「そうこころがけてる」
っていうことですよね? |
八木 |
というか、やっぱり、
つまんない話は聞きたくないので、
いかに話がおもしろくなるか、
ついつい茶々を入れたりしますね。
あと、自分ではすごく
おもしろかったはずの夢の話なんかをしても
相手がつまんなそうだったら、
早めに切りあげてみるとか。 |
糸井 |
あ、夢の話って、そうですよね。
いつも、自分が思っているよりは、
他人にとってはおもしろくないですから。 |
八木 |
そういうことは、日常から、
けっこうしてるかな、とは思います。 |
糸井 |
ということは、
自分が話した言葉の
着弾地点みたいなものの様子が
ある程度、見えるわけですか? |
八木 |
ある程度は。
友だちと話してても、
相手が退屈そうだったりすると、
つい話題を変えたり、早めに切り上げたり。
・・・いま、こうやって話をしていても
客観的に見ている自分が常にいます。
「あ、この話はつまんなそうかな?」とか、
すごく感じちゃったりします。 |
糸井 |
いまは? |
八木 |
イマイチ?(笑) |
糸井 |
ぼくもそう思ってました(笑)。
いやぁ、すみません。
ただ、イマイチでなくなるっていうのは、
実は受け手の力が
そうとう大きいっていうことですよね?
つまらない人を
おもしろく喋らせちゃうことが
八木さんぐらいにできるとしたら
いろいろな人から、いっぱい
おもしろいことを掘り出せるじゃないですか。
そういうのが、すごいと思うの。
たとえば、無口な職人さんに取材、
なんてこと、よくありますでしょ? |
八木 |
ええ。 |
糸井 |
そういう時って、
やっぱり心の持ちかたの問題ですか? |
八木 |
えーっと・・・。
その無口な人に、
「言葉としていっぱい喋ってもらいたい」
と思って行ったら、それは
とても退屈なことになってしまうかもしれない。
だから、そうじゃないような見方をします。
つまり、そのインタビューの様子を
客席で見てる自分がいたとしますよね?
そうしたら、質問者であるわたしが
とても一生懸命しゃべってるのに、
相手がすごく無口で、
「まあね」と言っただけだったりする・・・。
そういう状態は、たぶん、
見ている側としては、おもしろいなあと
わたしは判断したりしていますね。
もし自分が観客だったら、
ということを考えて、相手の人の
味が出ればいいというか・・・。 |
糸井 |
わかるわ。なるほどね。 |
八木 |
私が機関銃のように聞いて、
質問について100聞いてるのに、
1しか応えないその空気が
おもしろかったりしますから。 |
糸井 |
客観的に、引いてみているんだ。
おもしろいわ。 |