まるで、NASAのようなメディアになりたい?

 第17回 フェアであることのほうが、大事。

(※八木亜希子さんと糸井重里の対談を、
  前々回から、お届けしている最中です)




八木 いちばん最初に、
「明石家サンタ」の話が出ましたけど、
あの番組、
もう12年もやっているんですよ。
だから、わたしは毎年、
クリスマスイブは、不幸な過ごしかたを(笑)。
糸井 (笑)
八木 あの番組の第1回目をやった時は、
まだ入社2年目ぐらいでした。

何にも、わけがわからない状態で、
さんまさんの隣で電話を取っていまして、
自分としては、それはもう一生懸命でした。
いま、その時のことを、
思い出したんですけど。

電話をかけてきた不幸な人が
話をしている最中に、さんまさんが
「あかん!」って電話を切っちゃったんです。
わたしは「かわいそうじゃないですか」とか
その時に言ったんですけども、
あとでスタッフに呼ばれたんです・・・。

「『かわいそう』とか言ってたけど、
 お前は、自分をいい子に見せたいのか?」
というような内容のことを、そこで言われて。
「あの電話は、現場にいた誰もが
 そんなに不幸な話じゃないと思ってたよ。
 なのに、お前だけが、
 電話を切ったというひとつだけに反応して、
 『かわいそう』とうわべで言っていただろ?」
そういう注意でした。
糸井 それは、新人アナウンサーなら
やりがちなことでしょうねぇ・・・。
でも、それって大事な注意ですよ。
八木 「自分をどう見てもらいたいかを
 意識しすぎていて、
 公平かどうかとか、
 そういうことを考えていないでしょ?
 そんなに自分を、いい子に見せたいの?」 
そうやって、スタッフに怒られて、
そのクリスマス・イブには、
もう、泣いて帰ったんですよ。

・・・その日は、
わたしこそがいちばん不幸な子で(笑)。
糸井 (笑)ははは。
でも、逆に言うと、
八木さんでさえ、最初から、うまく聞くことを
できていたわけじゃないということでしょうね。
八木 ええ。そうですよ。
「明石屋サンタ」の2回目の時には、
「『これは不幸じゃない』と思ったら、
 自分で電話を切っていいんだよ」
とスタッフから言われましたし・・・。

自分をいい子に見せることよりも、
公平かどうかというほうが大事なんだ、と、
そこで知ることができましたね。

相手が電話を一生懸命かけてくれるから
ついつい、情をかけたくなるけれども、
みんなにそうして接していたら、
番組全体として、フェアじゃなくなるんだ、
と考えるようになりました。

そうなってしまったら、
見ているお客さんにも
フェアじゃなくなるわけでして、
「見ていておもしろいかどうかを、
 考えなきゃいけないんだなあ」
ということを、
改めて、考えるようになりましたね。
そういう意味では、あの
「明石屋サンタ」で言われたことって、
わたしの中では、ひとつの
指針になっているんですよ。
糸井 おもしろいなあ。

八木さんに、もうひとつ
うかがいたいことがあるんです。
八木さん、最近、
インタビュアーをおやりになって、
それをあとで本にするという仕事を、
つづけてなさっていますよね?
ぼくがいま「ほぼ日ブックス」とかでも
やっていることなのですが・・・。

それをやっている時、
活字にしてしまうことのむつかしさを
感じたりしませんか?
・・・つまり、
しゃべりを文字にしてしまうと、
様子や情景を、出しにくいじゃないですか。
八木 ええ。
糸井 「無口な人が、
 ほんとうは答えたくてしょうがないのに、
 ニヤッとして黙っていた」
なんていうのは、
活字にならないですよね?
八木 確かに、話を文字にすることって、
やはり、映像とはぜんぜん別物ですよね。

映像ではこういう風にしゃべていても、
文字にする時には違う言葉を選んだほうが
その場の雰囲気がよりよく伝わる、
ということが、けっこうあると思います。
文字には文字の味がありますから。

聞き書きでテープを起こしてもらったものを
そのまま文字にしてしまうままになると、
「確かに自分はこう言ったんだけど、
 文字で見ると、ちょっとキツすぎる」
とか、逆に、
「文字だと、ちょっと甘い言葉になりすぎる」
っていうことが、けっこうありますよ。
糸井 そういう時は、
ほんとに言ったかどうかは別として、
そのときの雰囲気で、八木さんが
文章に手を入れるということですよね?
八木 そうです。
糸井 ああ、それ、
俺とまったくおんなじ方法ですよ。
だって、テープ起こしのまんまでは、
なかなかおもしろくは読めないですから。
八木 ええ。
糸井 しゃべり言葉って、とっても不思議で、
その場では納得できてるのに、
文字にすると飛躍しているように見えたり、
そういうようなことが、いっぱいありますよね。
八木 ええ。
以前、自分がしゃべったものが
そのまま書き起こされたものを見て、
ほんとうに、ガクゼンとしました・・・。

「これが、アナウンサーという仕事を
 やっている人間のしゃべりなのだろうか?」
って・・・あ、こうやって、
いま話しているものも、あとで、
そう見えるのでしょうけど(笑)。

書き言葉と、映像で話す言葉とは、
「別物」だと思っています。

いまこうしてしゃべっている時なら、例えば、
「わたしがちょっと
 たどたどしくしゃべっていること」だとか、
「トーン」とか「間あい」だとか、
そういうひとつひとつのものの
重なった時のニュアンスというものが、
すべて、伝わっていくと思うんです。

ただ、活字でそれを伝えるには、
ムードを伝えるために、
「・・・」を加えたり、
より想像してもらえるように
書き直さなければいけないですよね。
糸井 ・・・あ!
今日は3人の
しゃべっていただくゲストを
お呼びしているので、
もうすでに、時間が来てしまいました。

お話、おもしろかったです。
「的確な答えと質問が
 ずらずら並んでいたところで、
 それだけでは、対面の人には通じないんだ」
みたいなことを、八木さんはずうっと
考えていらしたんだろうなあ、と、
よく伝わってきましたから。
八木 あ、そうなんですか?
自分でも、いまわかりました(笑)。
糸井 (笑)ありがとうございました。

(八木さんとの対談は、今日でおわります。
 次回からは、吉本隆明さんの対談にうつります)
  

2001-11-23-FRI


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