八木 |
いちばん最初に、
「明石家サンタ」の話が出ましたけど、
あの番組、
もう12年もやっているんですよ。
だから、わたしは毎年、
クリスマスイブは、不幸な過ごしかたを(笑)。 |
糸井 |
(笑) |
八木 |
あの番組の第1回目をやった時は、
まだ入社2年目ぐらいでした。
何にも、わけがわからない状態で、
さんまさんの隣で電話を取っていまして、
自分としては、それはもう一生懸命でした。
いま、その時のことを、
思い出したんですけど。
電話をかけてきた不幸な人が
話をしている最中に、さんまさんが
「あかん!」って電話を切っちゃったんです。
わたしは「かわいそうじゃないですか」とか
その時に言ったんですけども、
あとでスタッフに呼ばれたんです・・・。
「『かわいそう』とか言ってたけど、
お前は、自分をいい子に見せたいのか?」
というような内容のことを、そこで言われて。
「あの電話は、現場にいた誰もが
そんなに不幸な話じゃないと思ってたよ。
なのに、お前だけが、
電話を切ったというひとつだけに反応して、
『かわいそう』とうわべで言っていただろ?」
そういう注意でした。 |
糸井 |
それは、新人アナウンサーなら
やりがちなことでしょうねぇ・・・。
でも、それって大事な注意ですよ。 |
八木 |
「自分をどう見てもらいたいかを
意識しすぎていて、
公平かどうかとか、
そういうことを考えていないでしょ?
そんなに自分を、いい子に見せたいの?」
そうやって、スタッフに怒られて、
そのクリスマス・イブには、
もう、泣いて帰ったんですよ。
・・・その日は、
わたしこそがいちばん不幸な子で(笑)。 |
糸井 |
(笑)ははは。
でも、逆に言うと、
八木さんでさえ、最初から、うまく聞くことを
できていたわけじゃないということでしょうね。 |
八木 |
ええ。そうですよ。
「明石屋サンタ」の2回目の時には、
「『これは不幸じゃない』と思ったら、
自分で電話を切っていいんだよ」
とスタッフから言われましたし・・・。
自分をいい子に見せることよりも、
公平かどうかというほうが大事なんだ、と、
そこで知ることができましたね。
相手が電話を一生懸命かけてくれるから
ついつい、情をかけたくなるけれども、
みんなにそうして接していたら、
番組全体として、フェアじゃなくなるんだ、
と考えるようになりました。
そうなってしまったら、
見ているお客さんにも
フェアじゃなくなるわけでして、
「見ていておもしろいかどうかを、
考えなきゃいけないんだなあ」
ということを、
改めて、考えるようになりましたね。
そういう意味では、あの
「明石屋サンタ」で言われたことって、
わたしの中では、ひとつの
指針になっているんですよ。 |
糸井 |
おもしろいなあ。
八木さんに、もうひとつ
うかがいたいことがあるんです。
八木さん、最近、
インタビュアーをおやりになって、
それをあとで本にするという仕事を、
つづけてなさっていますよね?
ぼくがいま「ほぼ日ブックス」とかでも
やっていることなのですが・・・。
それをやっている時、
活字にしてしまうことのむつかしさを
感じたりしませんか?
・・・つまり、
しゃべりを文字にしてしまうと、
様子や情景を、出しにくいじゃないですか。 |
八木 |
ええ。 |
糸井 |
「無口な人が、
ほんとうは答えたくてしょうがないのに、
ニヤッとして黙っていた」
なんていうのは、
活字にならないですよね? |
八木 |
確かに、話を文字にすることって、
やはり、映像とはぜんぜん別物ですよね。
映像ではこういう風にしゃべていても、
文字にする時には違う言葉を選んだほうが
その場の雰囲気がよりよく伝わる、
ということが、けっこうあると思います。
文字には文字の味がありますから。
聞き書きでテープを起こしてもらったものを
そのまま文字にしてしまうままになると、
「確かに自分はこう言ったんだけど、
文字で見ると、ちょっとキツすぎる」
とか、逆に、
「文字だと、ちょっと甘い言葉になりすぎる」
っていうことが、けっこうありますよ。 |
糸井 |
そういう時は、
ほんとに言ったかどうかは別として、
そのときの雰囲気で、八木さんが
文章に手を入れるということですよね? |
八木 |
そうです。 |
糸井 |
ああ、それ、
俺とまったくおんなじ方法ですよ。
だって、テープ起こしのまんまでは、
なかなかおもしろくは読めないですから。 |
八木 |
ええ。 |
糸井 |
しゃべり言葉って、とっても不思議で、
その場では納得できてるのに、
文字にすると飛躍しているように見えたり、
そういうようなことが、いっぱいありますよね。 |
八木 |
ええ。
以前、自分がしゃべったものが
そのまま書き起こされたものを見て、
ほんとうに、ガクゼンとしました・・・。
「これが、アナウンサーという仕事を
やっている人間のしゃべりなのだろうか?」
って・・・あ、こうやって、
いま話しているものも、あとで、
そう見えるのでしょうけど(笑)。
書き言葉と、映像で話す言葉とは、
「別物」だと思っています。
いまこうしてしゃべっている時なら、例えば、
「わたしがちょっと
たどたどしくしゃべっていること」だとか、
「トーン」とか「間あい」だとか、
そういうひとつひとつのものの
重なった時のニュアンスというものが、
すべて、伝わっていくと思うんです。
ただ、活字でそれを伝えるには、
ムードを伝えるために、
「・・・」を加えたり、
より想像してもらえるように
書き直さなければいけないですよね。 |
糸井 |
・・・あ!
今日は3人の
しゃべっていただくゲストを
お呼びしているので、
もうすでに、時間が来てしまいました。
お話、おもしろかったです。
「的確な答えと質問が
ずらずら並んでいたところで、
それだけでは、対面の人には通じないんだ」
みたいなことを、八木さんはずうっと
考えていらしたんだろうなあ、と、
よく伝わってきましたから。 |
八木 |
あ、そうなんですか?
自分でも、いまわかりました(笑)。 |
糸井 |
(笑)ありがとうございました。 |