吉本 |
人がどう思うかは別にして、
自分で唯一、言葉への考えかたで
ちょっと進歩したなあと思えるのは、
解剖学者の三木成夫さんの本を
読んだ以降なんですね。
あれを読んだ時には、
「おっ、これだ」って思いました。 |
糸井 |
「内臓感覚」について
書いてある本ですね? |
吉本 |
そうなんです。
三木さんの言いかただと、
内臓というのは、大脳の次に
第2の言語を発する場所だと言うんです。
内臓の動きでもって、
概念に到達する言葉になりうる、というか、
「内臓言語」と言いましょうか。
内臓のはたらきを、言葉のうえでも
重視するという考えかたには、
読んでいて「そうだ」と思ったんです。
人間の生理だとか身体だとか、
そういうことと
言語論も、つなげることができるな、
と考えはじめたんです。そのあとから。 |
糸井 |
今日、ちょうど、
八木亜希子さんがいらしていて、
吉本さんがここにいらっしゃるちょっと前に、
「声は人なり」とおっしゃっていて・・・。
ちょっと、通じていますね。 |
吉本 |
へぇー。 |
糸井 |
「声は人なり」ということこそ、
内臓言語っていうことですよね? |
吉本 |
そうですね。
ぼくは、三木さんの本を
4〜5年前に人に言われてはじめて読んで、
それで「あ、これだよ」っていう感じでした。
・・・もっと前に読んでたら、
ちょっとやれたんだけどなぁ・・・。 |
糸井 |
(笑)未練が! |
吉本 |
ええ。 |
糸井 |
でも、そしたら、
あちらにイっちゃってたかもしれない(笑)。 |
吉本 |
(笑)いやあ、
イってるぐらいでちょうどいいんですよ。
どうせ、もとから、おかしいんだから(笑)。 |
糸井 |
(笑)わはははは。 |
吉本 |
この考えがあれば、
俺もやれたな、もっとやれたな、
とは思うんだけど、時すでに遅しで。 |
糸井 |
人生、そういうものなんですよねぇ(笑)。 |
吉本 |
(笑)そうそう。
「もうぼくら、遅ぇんだよ」
っていうことですよ。 |
糸井 |
(笑)すごいキッパリと。
わはははは。
会場、ものすごく受けてますねぇ。
・・・ほぼ日ブックス創刊にあたって、
「クチで書き、耳で読む」
という言葉を、ぼくは敢えて使っているんです。
本というカタチを取っていますから、
もちろん、活字というお皿の上に
のせるものではあるのですけれども、
「耳から伝わってきた時の感じ、
というのはどう再現できるか?」とか、
「耳から聞いたように読むからこそ、
伝わるものも、あるのではないだろうか?」
とか、そういうことを
考えて、使っている言葉なんですけど。
たとえば、いま
吉本さんのおっしゃってることは、
実はけっこうむつかしいことを
話されているはずですけども、
ところどころ、笑いが起こるわけですよね? |
吉本 |
ええ。 |
糸井 |
「思想界の巨人だ」と身がまえて来た人たちが、
はじめて実際の吉本さんを見ると、
おもしれえ、と思うわけです。
それはきっと、
声だとか、センテンスの切りかたとか、
スパッと言い放つ感じだとか、
あとは急にくだける江戸弁だとか・・・。
そういう、耳からの情報に
反応しているように思うんです。
そういう、話すような
ものごとの受け渡しこそが、
これからのコミュニケーションでは、
非常に重要になるんじゃないかと思うんです。 |
吉本 |
ああ、そりゃ、そうでしょう。
・・・そうなんですか。 |
糸井 |
(笑) |
吉本 |
いやあ、ぼくがなんで、
そういうふうにくだけた言葉に
なっちゃったりするかと言いますと、
これ・・・テレくさいんです。 |
糸井 |
いいわぁ(笑)。 |
吉本 |
どうにも、テレくさいんですよ。
まじめな話をまじめに語ることだとか、
まじめに研究するとかいうような場面って、
どっかで、テレくさってなぁ・・・って。
だから「こういうのイヤだな」と思って、
くだけちゃうんですよね? |
糸井 |
そっちのまじめな人じゃないよ、
って気分があるんですか。 |
吉本 |
ええ、そうなんですよ。
だからついつい、
そういう言葉を使っちゃうわけですよ。 |
糸井 |
「それはねぇじゃねぇか」みたいに(笑)。 |
吉本 |
そうそう。
ほんとうは、
まじめにちゃんと勉強して、
研究しないといけないんでしょうけど、
まじめになろうとすると、すぐに
テレくさくなっちゃって・・・。
ワーッていって、
自分で壊してみたくなっちゃうっていうか。 |
糸井 |
(笑) |
吉本 |
それだからまぁ、
学者にもなれねえかなぁ、とか、
いまだに学者にもなれねえんだな、とか、
って言うことは、
一生なれねぇんだな、とか。 |
糸井 |
あははは(笑)。 |
吉本 |
そんな風に思ったり
しゃべったりしてしまうのは、
すべて、テレみたいなものが
あるからなんですけどね。 |