KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

【22週】

外出の機会が減ったので、眼鏡を作りに行った。
すると店員さんに、
「妊娠中は視力が低下することがあるので、
 それにあわせて作るとあとで無駄になっちゃいます。
 赤ちゃんが生まれてからまたおいでください」
と、言われた。ひゃー、知らんかったよ。
いやはや妊娠中は、いろんなことが起こるもんだ。

さて今日は、スペイン在住・日本人妊婦の疑問。
日本の常識が、こっちでは非常識なのだー!

腹帯&ガードル、禁止!?

安定期に入ると、親戚やとにかくいろんなひとから
「そろそろ腹帯しなきゃならない時期だけど、
 そっちではどうしてるの?」
と、訊かれるようになった。
妊娠5カ月の戌の日にお腹にさらしを巻く
安産祈願の習慣が、日本にはあるのです。

犬みたいに安産を、というのは別としても
ギックリ腰もちの私は、腰痛対策なら大歓迎!
まぁさらしは戌の日の儀式だけとしても
ガードルは日常生活に欠かせないそうなので、
さっそく、こちらのベビー&ママショップへ。

おお、これか。
しかし手にとって見ると、産後用シェイプ下着。
あれれ?
マタニティのブラジャーやタイツはあっても
ガードルやショーツやなんかは、ない。
スペインでは唯一のデパートに行って
マタニティ売り場や下着売り場を見たけれど、
やっぱりそういうのはないという。

定期健診の際、モニカ先生に訊いてみた。
「あの、日本では腹帯とかガードルとか
 したほうがいいっていうんですが……」
キョトンとしている。
単語としては通じているはずなのだが、
概念として頭の中に立ち上がってこない様子。
たとえば先日、ツレアイが上品なスペイン婦人に
「あの、日本食についてお伺いしますが。
 『女体盛り』に合うお酒は、なんでしょうか」
と訊かれたときの気分に、近いのかもしれない。

一拍おいて質問を理解したモニカ先生、
「赤ちゃんはね、これからお腹の中で
 どんどん大きくならなきゃならないのよ。
 それを締めつけるなんて、絶対ダメ!」
と、完全否定。
「あの、でも、締めつけないタイプも……」
「わからないけど、しない方がいいんじゃない?
 赤ちゃんが成長したいように成長できるように、
 なにもしないのがいちばんだと、私は思うけど」

ということで、スペインでは(モニカ先生曰く)
腹帯&ガードルは絶対禁止。
そして実際に街であまり売ってないということは
(註:医療用のはあるらしいです)、
「妊婦の腹になにかを巻く」という概念がない、
ということらしい。

国立助産婦協会発行のパンフレットにも、
「妊婦は身体を締めつけないゆったりとした服装を。
 下着は綿か天然繊維のよく伸びる素材で、
 とくに血液の循環を妨げないように注意」
とあった。

なお、同じ項の但し書きは
「静脈瘤がある場合」について書いてあった。
ということは、スペインの妊婦にとっては
血液循環系の問題がいちばん大きいのかもしれない。
とすると、たしかに腹を締めつけるのなんて
論外かもしれないなぁ。

しかし、そうすると、さー。
日本人としては、気になるところが
もうひとつあるのじゃが。

妊婦に「冷え」は大敵!?

腹帯&ガードル以上に、よく聞くアドバイスが、
「妊婦はお腹を冷やさないようにね!」というもの。
腹帯の存在を知らなかったツレアイも、
「お腹、冷やさんようになー」としょっちゅう言う。
ところがこれまた、考えたら、
スペインでは耳にしたことがないのだった。

再び例のパンフレットを見るが、
お腹を冷やすなという記述はゼロ。
それどころか、
「子宮に痛みや張りを感じる妊婦や
 妊娠8ヶ月以降と産褥期の女性には、
 毎日の入浴あるいはシャワーを勧めます。
 ただし、水温は37~38度を超えないように」
などと、書いてある。
37~38度って、すごく、ぬるい!冷えるよ!

街を見ても、妊婦は平気で腹出しスタイル。
「妊娠線予防にはオリーブオイルが良いよ」
と教えてくれた友人に訊いてみると、
「冷え?そんなの聞いたことないなぁ。
 それよりここじゃ、暑すぎる方が問題だよ」
とのこと。
たしかに8月の現在、気温は40度近くまで上がる。
んーでも、冬は氷点下になるぞ。

ということでいろいろ調べたら、
日本人がこだわる「冷え」というのは
東洋医学的な発想だということがわかった。
梨とか秋ナスとかを食うな、というのも、
そういうことらしい。
ということは、中国や韓国などでも
妊婦は冷えに注意!というのかもね。


で、私は結局どうしているかというと。

下着はふだんの(ローライズTバック)をそのまま。
(こちらではTバック用の生理用品もあるほど、一般的)
そこに、自宅では薄手の腹巻を着用。
(どうも仙骨を冷やすと体調が悪くなる気がするので)
そして、カメラ片手の取材に出るときは、
昨年安産した義姉から譲り受けたガードルを着用。
最後にどうしようもなく腰が痛くなってきたら、
日本で購入した骨盤だけ固定するベルトを着用。

以上、西洋に住む東洋人らしい、
スペイン&日本の折衷スタイルに落ち着いてます。
いいのかわるいのかは、よくわからないけれど。

そして、こんなこと(↓)でも
日本とスペインはぜんぜん違ーう!のでした。

妊婦はシートベルト免除!?

この夏、スペインでもシートベルトが義務化され、
ついに罰金&減点対象になった。
でも、たしか日本では、
妊婦はシートベルト着用義務が免除されてたはず。
ということでこちらで訊ねてみると、
「とんでもない!
 死ぬ危険を考えたら、妊婦こそちゃんと
 シートベルトをしなくちゃ」
とのこと。
(正確には、出産直前の妊婦で医師の証明があれば
着用義務が免除されるそう)

うーむ。
こればっかりは日本風を通すわけにもいかないので、
ベルトがお腹を圧迫しない場所
すなわち斜めのベルトを胸の間に、
下のベルトをお腹ではなく腰骨のところに渡して、
シートベルトをしています。


いやー、国が違うと、いろいろあるもんです。
もちろん、どこでだって
赤ちゃんは元気に生まれてきてるんだけどね!

カナ

※内田樹研究室内
 「今夜も夜霧がエスパーニャ」もよろしく。





『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



ほぼ日ブックスでも
お楽しみいただけます。

もれなく絵はがきが届きますよ。

カナさんへの、激励や感想などは、
メールの表題に「カナさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2006-08-27-SUN

BACK
戻る