「ほぼ日」なりのリナックス研究。
リーナス・トーバルズの
インタビューもできそう。

第6回 わたし自身の倫理を問いたい。


前回に予告したように、今回からは、
ぺッカ・ヒマネンさんへのインタビューに入ります。

「楽しみのため、そして
 人の役に立つためにはたらくことが、
 結局はいちばんおもしろいかもしれない、
 とでも言うような次の時代を担う倫理観が、
 台頭してきているかもしれない。
 その例が、リナックスの開発である」

そんな視点に立つヒマネンさんは、
これからの社会の倫理を考えている哲学者です。

そんなかたの考えかたを見つつ、
「ほぼ日なりのリナックス研究」の
『仕事の動機篇』をはじめましょう。

ヒマネンさんは、
言葉をなるべく正確に言おうとして、
時々どもりつつ、目を天井に向けながら話す。
そこがちょっと誠実で、かっこよかった!

だからほんとうは
一字一句丁寧に訳してお届けしようと
画策していたんですけども、
それをやっていたら、
旬のまま伝えきれない!!

しかし、なるべく旬のまま伝えたい。

だから、少なくとも
その場で会話している「ほぼ日」木村は、
このように受け取っていたという、
割と「ざっくばらんな訳」のままお送りします。
・・・でも、たぶんまちがってないと思うけど。

ヒマネンさんの著書には、
次のようなことも、書いてあります。

「スピードが限界を超えると、
 倫理はもう存在できなくなると言ってもいい。
 そこで残る目標は、
 『いまを生き延びること』だけになるからだ。
 自分だけが生き残るために意識を集中していては、
 とても、他人を気遣うことなんてできない。
 考えるヒマがなければ、倫理性は育たないんだ。

 すごい速度で開発がすすむいまは、
 せいぜい『2〜3年後ぐらい』までしか、
 予測ができないでいる、という状態がある。
 ダニー・ヒリスは、1993年に次のように書いている。
 『わたしが子どもだった頃、人々は
  2000年になったら世界はどうなっているだろう、
  と言っていた。
  30年後のいまも、相変わらず人々は
  2000年になったら世界はどうなっているだろう、
  と話している。
  わたしが生まれてこのかた、
  未来は1年ずつ、縮んでいるのだ』」

倫理を持つことが、
現在のスピードの時代には
むつかしくなるかもしれない。
そんなような文章です。

だったら、何でこの人は、
いま、倫理を調べたいのでしょうか。

そこで、最初に聞いたのは、
「そもそも哲学の中で
 なんで倫理をやりたいんですか。
 ヒマネンさんがテーマとして
 倫理に惹かれた理由はどういうものですか」
みたいな質問でした。

今日は、その質問に対する
ヒマネンさんの言葉を、紹介しましょう。

「わたし自身、
 実はふたつの畑を持っています。
 ひとつは哲学で、もうひとつは
 プログラミングのバックグラウンドなのよ。
 12歳から18歳くらいまでは、
 それこそ朝から晩まで
 プログラミングをやっていて、
 もう、自分自身がほとんど、
 コンピュータハッカーだっていいますか。

 徐々に哲学に興味を持ちはじめて、
 哲学を専攻にするようになったのですが、
 『ハッカーの倫理』として
 わたしが書いている内容ってゆうのは、
 『まさにこの本を書くという
  仕事の過程で、
  わたし自身を支えた倫理』

 とも、言えると思うんです。

 つまり、楽しみながら書きましたし、
 そこには情熱を感じていましたし、
 自己実現のためのものでもあったし、
 人とアイデアをわかちあいたいと願う
 気持ちのあらわれ
でも、あったんです。

 この本の執筆全体を通して、
 わたし自身のそのような倫理を、
 常に感じていました。

 この本に書かれているような倫理の
 生き方を、わたし自身がしてきていますし、
 リーナスをはじめとしたクリエイターの人たちも
 数多くの人が、そのような生き方をしている。
 そう思って、書いていました。
 だからこの本というのは、ある意味で、
 わたしが今まで信じてきている
 人生に対する哲学というものを表現した

 と言っても、過言ではないと思うんです。
 わたし自身の倫理も、問いたかった。

 わたしが考えたい種類の倫理というのは、
 何が人の言動のモチベーションになるのか、
 ということをきちんと意識している倫理なんです。
 本の中で繰り返し読者に問いかけているのは、
 何を動力にして、何をモチベーションにして
 人間というものが動くのか、ということでした。

 そこで人の行動の源になる倫理が
 ふたつあるとしたら、わたしはそれを
 『お金もうけをするのがいい』というものと、
 『興味の持てることを人と一緒にやりたい』
 というもののふたつがあると、思うんです。

 産業の時代の倫理は、
 お金もうけをするのが、すごい、
 いうことでもありまして、
 以前は、ヒーローというのは、
 もうける倫理をしっかり持っている人、
 だったでしょ?
 
 いまは、それ以外のもの、
 お金の面ではなく、人に何を
 与えることができるかということを
 追求している人が、ハッカー的な
 現代の英雄になっていると感じるんです。
 そのへんを、本文でも比較しました
ね」



(つづく)

2001-07-23-MON

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