「ほぼ日」なりのリナックス研究。
リーナス・トーバルズの
インタビューもできそう。

第8回 時間の義務は、もうないんだ。


(※今日も、一問一答的に展開します。
  第5回でも書いたように、ヒマネンさんに
  最も聞いてみたかった内容を聞いているところです)


----プロテスタント的な倫理ではない
  新しい倫理がうまれつつあるという
  ヒマネンさんの考えについて伺いたく思います。

  つまり、
  「大勢の人が、
   『時間で縛られてお金をもらう』
   というだけの理由では
   もはや仕事をやりたくないと感じていて、
   自己実現を含めた仕事をしたいと
   思いはじめているのではないか」
  という考えについて、です。

  確かに、そうなってきているなあ、
  とは思えますが、ヒマネンさんは、
  このように倫理が変わってきている理由を、
  いったい、何だ
と思いますか。

  どうして、
  プロテスタント的な倫理ではないものを
  みんなが選択しはじめているのでしょうか。


ヒマネン
「ああ、それは、とってもいい質問だよ。
 ・・・ぼくは、倫理が変わってきている理由は、
 情報の経済の性質と大きく関わると思っています。
 
 たとえば、仕事で自己実現したいということを
 最も大事にして生活する倫理に、
 とても似たような姿勢というのは、
 昔の科学者だとか芸術家に見られたと思います。
 最近はじめて生まれたわけじゃないよね。

 でも、そういう姿勢をとっていた
 昔の科学者や芸術家たちというのは、
 あくまで『社会のごくごく一部だった』でしょ。
 そういう意味で、昔の芸術家たちの倫理は、
 ぼくの言っている『ハッカーの倫理』とは
 違っていると思います。

 ハッカーの倫理がなぜ重要かというと、
 それを多くの人が大切にしているからなんです。
 昔の『よし』とされていた時代のニーズが、 
 インターネット時代になると、
 もう合わなくなってきている・・・。
 そういった背景を受けての
 倫理の変化なんじゃないかと思うんです。

 昔は『仕事』と言えば、もうそりゃあ
 ルーティーンワークだ、みたいな考えがあって、
 仕事というのは、時間を費やしたぶんだけ
 何かを直接的に得られる
という実情がありました。

 つまりそこでは仕事は義務ですし、
 義務でやっていたからこそ、
 通常の9時5時というような
 労働時間が決まってきていたし、
 『職場に行って仕事をする』
 なんていうことまで慣習になってたわけよ。

 でも、それが最近のように、
 情報経済といったものが発展してきますと、
 優先するものが、どんどん変わってくるんです。

 つまり、
 情報経済の中で成長の源になるのは、
 クリエイティビティだけなわけです。
 だから、時間をどれだけ費やしたから
 何かが得られるという時代では、
 なくなってきている
んです。
 
 ビジネスであれほかの分野であれ、
 いまの経済構造の中では、
 クリエイティビティをもとに
 何かが生まれていくわけです。

 クリエイティブなものしか
 売れない時代になってきました。

 ですから、
 いちばんほんとうに大事なのは、
 クリエイティブな『人間』
なんです。

 だからもう、さあ、
 義務で仕事をするだとか、
 与えられたことのみやるだとか、
 外から強いられている
 時間的な規制を守るだとか、
 そういったことだけやっていても、
 もう、だめで。 
 
 そういう義務を、
 仮にどれだけきちんとこなしていても、
 中途半端な創造性しか生まれないと思います。

 つまり、
 そうした中途半端なクリエイティビティでは、
 このグローバルな情報時代の経済においては、
 通用しません。
 
 通用するのは、トップクラスの
 クリエイティビティだけ
だと思います。
 これからはおそらく、
 企業内にほんとうのトップクラスの創造性が
 あってこそ、企業が生存できるというか、
 もうそれは、企業の生死に関わることだ

 ぼくは思っているんです。
 
 『労働倫理として
  情熱を感じて仕事をできるかどうか』
 『自己実現への欲求も含めて、
  クリエイティブに仕事をできるか』
 ということが、いまは問わてきていると思います。
 
 外から時間の使いかたを規制されるのではなく、
 クリエイティブなことをできるような、
 何かを作り出すためのリズムを、
 自分がいちばんやりやすいかたちで
 個人的なスタイルでやるという方向に、
 だから、いまは向かってきているんですね。
 それが、仕事にも仕事ではない面でも
 人を変えてきているとぼくは感じました。
 
 『才能のある芸術家肌の人のための倫理』
 がハッカーの倫理ではないんです。
 経済の性質が実際に変化しているということが、
 倫理の変化のいちばん大きな理由だと思いますから。
 
 マニュエル・カステル(本の共著者)が
 いみじくも指摘いるんですけれども、
 彼はいま、新しい職業の3分の2が情報関係だ、
 と言っているんです。
 
 いま、情報を作り出す人というのは、
 何も少人数の限られた枠じゃなくて、
 ずいぶん多くの人のことを
 さしているんです
よね、だから。
 
 そういう理由で、
 倫理が変化してきているとぼくは思います」


(つづきます)

2001-07-25-WED

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