── |
『MOTHER』に関しては、14年経って
ようやく冷静に語られはじめてますけど、
太田さんは、昔、ご自分で出られたテレビとか、
あるいはコントのビデオとか、
どういう感覚でとらえていらっしゃいますか? |
太田 |
自分の出てたやつですか?
あー、どうだろうなあ。
ふだんはほとんど無視しているというか、
振り返らないようにしてますね。
昔のものっていうのは。 |
── |
ファンの方に訊かれたりして、
ちょっと振り返らざるをえないときも
あると思うんですけど、そういうときは? |
太田 |
ああ、そうですね……。
それはね、なんか、あんまり、
まともに考えようとしていないというか。
「こういうことなんです」っていう解釈を、
あんまり自分のなかでしようとしてないっていう。
そんなに深い理由もないんですけど。
ま、訊かれりゃ、適当に、
言うことは言うと思うんですけど、
それはほんとに「後づけ」で(笑)。
なんか、うん、
真剣に考えたことはないんですよね。 |
── |
まだ客観視できないという感じなんですかね? |
太田 |
そうですね。だから、たぶん、僕の場合は、
昔やってたことっていうのが、
まだ完成されてないんじゃないですかね。
いまはその過程というか、
いまやってることの途中経過でしかなくて。
なんか1コ到達点があれば、
そこから振り返ることは
できるのかも知れませんけど。
昔やってることも、いまやってることも、
大差ないんですよね。 |
糸井 |
でも、何年かまえは
ぼくもそんなふうに思ってたよ。
だから、時間じゃないかとも思う。 |
太田 |
あ、そうですか。 |
糸井 |
最初の『MOTHER』が出てから
14年も経っちゃったんで、
もう嫁に行った子どもみたいな感覚なんですよ。
だからこそ言えるっていう感じかな。
あと、『MOTHER』に関して思うのは、
ぼくがつくるものにしてはめずらしく、
消えないものだったんですよ。
まあ、お笑いとかもそうだと思うけど、
ぼくがつくっている「コピー」というものは
基本的に「消えもの」なんですよ。 |
太田 |
はい。 |
糸井 |
だから、昔つくったコピーについて、
いろいろ訊かれたりしても、
「そんときに価値があったんだよ」
って言いたい気分なんですよね。 |
太田 |
ああ、そうかそうか。 |
糸井 |
昔のコピーについていま語ったとしても、
まあ、解説にしかなんないな、と。
けど、『MOTHER』については
めずらしく消えものじゃなかったんで、
「じつはこうだ」とかっていうことが
言えるんですよね。なにしろあのゲームって
ぜんぶ理由があることばっかりなんで。
だから、太田さんが、お笑いじゃなくて、
たとえば映画なんか撮ってたら、
昔のものについて言えるんじゃないのかな。 |
太田 |
ああ、そうかもしれませんね。 |
糸井 |
そういうことと、
時間が過ぎるっていうことと、
両方あるんじゃないかな。
太田さんとは、ずっとまえに一度、
仕事でお会いしていて、
そのときもさっきみたいに
「ぼくは『MOTHER』が好きで」
っていう話をしてもらった記憶があるんだけど、
たぶん、そのときぼくは
後づけの適当なことしか言えなかったと思う。
「あ、うれしいですね」っていう感じで。 |
── |
ちなみにそれはいつごろですか? |
糸井 |
もう7〜8年前かなあ。 |
太田 |
そうですね。 |
── |
そのころって太田さんがはじめて
『MOTHER』をプレイされてから
ずいぶん経っていたわけですけど、
やっぱり、ずっと大切なゲームとして
太田さんのなかに残っていたわけですか。 |
太田 |
そうですね。その後もいくつか、
ゲームをやってみたんですけど、
なんていうか、
ほかのゲームをプレイしながら、
そのつど『MOTHER』のおもしろさを
確かめちゃうみたいなところがあって。
ぼくにとってはやっぱり
『MOTHER』が王道なんですよね。
それは、決して、やった順番だけじゃないっていう
気がするんですよね。 |
── |
ああ、なるほど。 |
太田 |
もちろん、はじめてプレイしたっていう
新鮮さもあるんだろうけど、
それを抜きにして考えても、
やっぱり『MOTHER』なんですよね。
なんていうか、すごくメジャーな
感じがするんですよ。ぼくにとって。
当時、ゲームって、いまほど
メジャーじゃなかったんですけど、
そんななかにあって、
一般の人が楽しめる雰囲気があったんです。
すごく売れていた『ドラクエ』よりも、
ぼくは『MOTHER』に
メジャーな雰囲気を感じたんですよね。 |
糸井 |
ああ、その「メジャーな感じ」は
ずっと意識してたんです。
ただ、当時はその「メジャーな感じ」が
ちょっといやがられた面もあるんだよね。 |
── |
いやがられた? |
糸井 |
うん。つまり、自然食の店で、売場に
パッケージがすごくメジャーなものがあると、
心がこもってないように見えるんですよ。 |
太田 |
はいはい(笑)。 |
糸井 |
「吉田さんのつくった納豆」とか
筆文字で書いてあると、本物臭いわけですよね。
だけど、きちんとしたデザインで
キレイにパッケージすると、
「これは違う」っていうふうにとられちゃう。
まあ、納豆でそれをやるのは
単純に間違っているんだけど、
ゲームではきちんとやりたかったんだよね。
「ゲームだから冒険っぽい雰囲気で」
っていうのはウソだと思ってたんですよ。 |
── |
それを目にしたゲームファンが
違和感を持つかもしれないけれども。 |
糸井 |
うん。だから、太田さんがコントやるとき、
あるいはしゃべるときでもそうなんだけど、
お客さんにはわからないことを
こっそり入れたがるじゃないですか。 |
太田 |
あははははは。 |
糸井 |
あれに近いんですよ。
セオリーとしては
違和感をもたれることはわかってる。
けど、自分のなかにあるものだから。
たけしさんも初期のころに
ずいぶんやってましたよね。
テレビ用に微調整してから出すっていうのが
ウソくさく感じるからなんですよね。 |
太田 |
そうですねえ。 |
糸井 |
あの、反対が出るんですよ、
必ず、そういうことをやると。
だって、変だからね。だから、
小さいケンカをしょっちゅう売ってるんです。
『MOTHER』のパッケージなんて
まさにそうですよ。
でもそれはぼくのなかにあるものだからね。
チョコレートのパッケージと
おんなじように包みたかったんです。
でも、だからこそ、
太田夫妻のところに届いたわけですよ。 |
太田 |
そうですね。
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