── |
鈴木さんと田中さんのあいだのやり取りは
どういう感じだったんですか? |
田中 |
まず慶一さんからデモテープをもらうんですよ。
で、またそれがほんといいんです(笑)。
ほんとに、いい。
ビーチ・ボーイズの
ブライアン・ウイルソン‥‥
ビートルズのジョン・レノンの
デモテープを聞いているような、
ほんとシンプルな演奏に、
慶一さんの歌が‥‥。
で、メロディを
楽器に置き換えるのが、惜しい。 |
鈴木 |
もちろん、田中さんも曲をつくるんだよ。
で、それもいいんだよ。
互いに「いいぞ、いいぞ」と(笑)。 |
糸井 |
楽しそうだったよ〜、このふたり。 |
── |
その作業はどこで行われてたんですか? |
鈴木 |
俺の家。まだキレイでスペースがあったころ。
ひとり住まいでね。 |
糸井 |
いまは「魔窟」と呼ばれて誰も入れない(笑)。
田中さん、慶一くんの家に、
そうとう頻繁に行ってたよね。 |
田中 |
そうそうそうそう。
週に3日ずつ行って。 |
糸井 |
ラブホテルに泊まってたりもしたんだよね(笑)。 |
鈴木 |
そうそう、初めて家に来たときかな。
泊まる場所を探してて、
ウチから近いところっていうんで、
「シャトーなんとか」っていうラブホテルに
ひとりで泊まらされる、というね(笑)。 |
田中 |
「ホテル・シャトー・××××!!」
(*ほぼ日より:名前は伏せさせていただきます)
しかも 連泊!!!
奥にスイッチがいっぱい並んでる
小さな 窓がフロントで(笑)。 |
一同 |
(笑) |
── |
そこから慶一さんの家に通っていたと。
そこでの作業風景はどんな感じでしたか。 |
鈴木 |
最初のころまでさかのぼると、まずあれだ、
「技術的にファミコンのドラムの音は
どこまでイジれるのか?」
っていうことを、ひろかっちゃんに教わったの。
要するに、バスドラムの音が
どれだけ低くできんのか?
どれだけ重くなれんのか? とか、
そういう、打楽器系の音質を調べた。
あと、音色はどんなのがあるのかって、
ぜんぶ聴かせてもらって。 |
── |
へええ〜。 |
鈴木 |
で、ゲームの絵ができてるから、
それを見ながら、まず鍵盤やギターで作曲する。
「できたよん」って田中さんに渡すと、
彼がそれをデータ化して、
さらに変形させていくわけだ。
で、そのあいだに、別の曲をつくり出す。 |
糸井 |
おもしろい(笑)。 |
鈴木 |
たとえばギターの音だったらね、
やっぱりギターらしく、ベンド
(※音程を音符で割り切らずに、
そのあいだを連続して変える技術)
させたりしていきたいわけだよ。
トゥイーンとかギョイーンとかね。 |
糸井 |
ギターのチョーキング
(※弦を指板側の指で押し上げて
音程を変える技術)
もやったもんね。 |
鈴木 |
やったやった、あれには驚いたなあ。
いったいどうやったの、すげーって(笑)。 |
糸井 |
あの時代に、ファミコンで
ギターのチョーキングをやってるのを知って、
「こいつら、どうかしてる」と思ったよ(笑)。 |
田中 |
(笑) |
鈴木 |
エコーができたときも感動したね。
田中さんに「エコー効果ほしいな」って言うと、
つくるんだな、これが(笑)。
それは、鳴った瞬間に、ちょっとずらして、
もう1コ音を鳴らすっていうワザなんだけど。 |
── |
疑似エコーだ(笑)。 |
鈴木 |
疑似エコー(笑)。
というか、ディレイ
(※弾いた音をエフェクターなどの装置を使って
もう一度やや遅れて鳴らすこと)
なんだけどね、ほんとは。
遅れて鳴った音の音量を、やや小さくするんだ。 |
糸井 |
「どうかしてる」よね(笑)。 |
── |
同時に鳴らせる音が3音しかないのに(笑)。 |
鈴木 |
ずらせば、何音でも鳴るからね。
同時に鳴らせるのは、
3音と、たしか、もう1コ使えたんだよね? |
田中 |
3音プラス、ノイズの成分
(※ビー、ガーといった音)ですね。 |
鈴木 |
ノイズ成分ではパーカッション系が
つくれたんだよね、たしか。 |
糸井 |
そんなふうに音楽をつくってるからさ、
メモリ(※絵や音を処理するところ)
をかなり使っちゃうんだよ。
きっと、グラフィック担当者は
ドキドキしてたと思うよ。
当時はメモリの奪い合いだったから。
(※ファミコンのメモリは容量が大きくなかっため、
一度にたくさんの絵や音を処理できなかった) |
鈴木 |
だから、あのころ「お金」って呼んでたよね、
メモリの使用容量を。 |
糸井 |
そうそう。「いくら?」とかって。 |
田中 |
あー、そうっすねぇー(笑)。 |
鈴木 |
容量が小さいから、音楽に取ると絵に響く。
だから、こっちの持ち金が決まってるわけだ。
つまり、予算があらかじめ決められている。
決められてるんだけど、ところどころ、
「ここに、やっぱし違う音が欲しい!」
っていう場面が出てきたりするんだよ。
そうなると、絵の人たちに
お願いしなくちゃならない。 |
糸井 |
ふたりは絶対言わないだろうから、
俺が注釈しておくけど、
『MOTHER』をつくり始めるとき、
音楽には、特別扱いともいえる量の
「お金」を渡してたんだよ。 |
── |
ふつうのゲームよりも、
音楽に割り当てられたメモリの量が
『MOTHER』ではずっと多かったと。
特別予算が組まれてたわけですね。 |
鈴木 |
そう。ゲームとしては特別だよね。 |
糸井 |
ほかのゲームの開発者が見たら、あれ、怒るよね。
でも、それは、ぼくらの方針だったんで。
で、なおかつ偉いのは、絵を描く側のヤツも、
「それはわかる」っていうことで、
必要なところでは音楽に譲ったんだよ、最終的に。 |
田中 |
あ、あと手紙事件がありましたね。 |
鈴木 |
ああ、あったねえ。
1作目の『MOTHER』のときだ。
どうしても違う音楽を鳴らしたくて、
絵の人たちにお願いしないといけなかったわけ。
そこで俺はどうしたかというと、
手紙を書いたんだ。手書きで(笑)
さすがに「お金を下さい」とは書かないけど──。 |
糸井 |
「メモリを下さい」と(笑)。 |
鈴木 |
「メモリを下さい、お願いします、
これ以上、ぶんどりませんから」って(笑)。
それを、ひろかっちゃんが直接持ってって、
「お金」をもらうことができたんだよ。 |
糸井 |
メールなんかないからね。 |
鈴木 |
手紙を書いたわけだよ(笑)。
もちろん、やりたい放題やってたわけじゃなくて
どうやったらメモリを食わずにつくれるかを
ひろかっちゃんが
つねに研究しながらつくってたんだけどね。 |
── |
なるほど。糸井さんは、基本的に、
音楽チームにお任せだったんですか? |
糸井 |
だって、そこはブラック・ボックスですよ。
ひとりの頭の中に近いようなことを
ふたりでやってたわけですから。 |
鈴木 |
できると、聴いてもらってた。
で、新しい絵ができると、その絵を見ながら、
「じゃあ、こうかなぁ?」とか。
でも、ひろかっちゃんは、
この曲は別の場所のほうが似合ってるかなあ、
とかまで考えてたと思う。 |
糸井 |
その都度、キーワードは投げてたね。
「ここはテックス・メックス
(※メキシコと南西アメリカの融合音楽)で」とか。 |
田中 |
うん。画面ごとに提案がありましたね。 |
鈴木 |
「ライブ・ハウスの音」とかね。 |
糸井 |
「だったら、ここはもう
露骨にロックン・ロールを入れたらどうだ」
とか、そういう話をしていたよね。
離れて仕事してるチームだったんだけど、
意外にどっかから共有ができてましたよね。
思えば、メールのない時代にね、
離れたところでゲームつくってたんだねえ。
いまじゃ、あんな方法でつくるのって、
ちょっと難しいね。 |
鈴木 |
危険は危険だよね。 |
糸井 |
いま思うと、信じらんない。 |
鈴木 |
でも、そのぶん、想像力を働かせるわけで。
「ああ、こういうこと考えてるんじゃないの?」
って思いながら、一生懸命つくるわけだよ。
糸井さんと密に会うわけじゃないけど、
ときどきは会って。
つくるのは密室作業だったけど、
ひろかっちゃんと、ふたりで、
「糸井さん、なんて言うかな?」って気にしながら。 |
糸井 |
でも、音楽づくりが進行してからは、
オレは全部ゴーゴーゴーだったですよね。
もうね、来るもの来るもの、笑うのよ、オレ。
「どぉしてこういうことするの?」って。 |
── |
驚きながら喜んであきれるっていう(笑)。 |
糸井 |
そうそう。ぜんぜん問題なかったですね。
「これは違う!」っていうのは、
1コぐらいあったのかなぁ? |
鈴木 |
1コぐらいはあったかな(笑)。 |
糸井 |
……あ! あった!
あれですよ、いっちばん悩んだのは、
『エイト・メロディーズ』です。 |
鈴木 |
うん。 |
田中 |
ああ、そうそう、
ほんと決まったのは
開発の最後の方でしたね。 |