糸井 |
いっちばん悩んだのは、
『エイト・メロディーズ』です。 |
鈴木 |
うん。 |
田中 |
ああ、そうそうそう。 |
糸井 |
音楽づくりが順調に進むなかで、
唯一「違う!」ってストップをかけたような気がする。
なぜかというと、ぼくのなかに最初から、
わりと明確なコンセプトがあったんです。
……賛美歌なんですよ。意味として。
要するに、教会で聞えてくる音楽にしたかった。
それを聞いた人が
救われたような気持ちになるような、
そんな音楽にしたかったんです。
これは、けっこう難しかった。 |
鈴木 |
うん。あれは確かに、難しかった。
ひろかっちゃんと私で、
両方で違うアプローチしてみたりね。 |
糸井 |
あの曲だけは、ダメ出しを何回もやってると思う。
「なんかさ、もうちょっとさ」って。
ほかの曲でそんなふうに思ったこと1回もないし、
「ありがたいな、これオレの想像を超えてるよ」
って、ずーっと思ってたんだけど、
『エイト・メロディーズ』だけは、
「君たちはわかっとらん!」って思ったもん(笑)。 |
鈴木 |
何度も作り直した記憶があるよ。
でも、賛美歌ってのは、いいヒントになった。 |
── |
糸井さんのなかにあった具体的なイメージを
もう少し詳しく教えてください。 |
糸井 |
もちろん、賛美歌といっても、
形として賛美歌のような曲にしたいってわけじゃなくて。
宗教がないと成り立たないような世界観って、
長年、人間の歴史ってのはつくってきたわけですよ。
こざかしい人間の理屈を、超えたような何かってのを、
ずうううっと、人間は必要としてきたんでさ。
宗教のない民族なんて、ひとつもないわけですよ。
そういうなかで、「教会」ってのが、
仕組みとしてよくできてると思うんですよ。 |
── |
仕組み? |
糸井 |
うん。たとえば、
「教会」のいちばんいい仕組みっていうのは、
なんにも知らないでフラッと訪ねてきたヤツが、
一気に救われちゃうようなところなんです。
で、教会で鳴っている賛美歌という音楽って、
そういう仕組みの一部として機能してるんです。
お寺の木魚の音だけじゃ、かなりむつかしい。 |
鈴木 |
うん、うん。箱全体で鳴らして、
エコーで説得するんだよ、西洋は。 |
糸井 |
そうそう。
寂しい人だとか、悲しい人だとか、
打ちのめされてる人だとか、
いろいろいるわけじゃないですか。
それが、短い音節でパッと聴けて、
一気に「救われた」って思える音楽ってのは、
すごいと思うんですよ。
だからぼくは『エイト・メロディーズ』を
そういう役割の音楽にしたかったんです。 |
── |
それで、「賛美歌」。 |
糸井 |
うん。人を救う音楽には、ゴスペルのように、
迷う人の背中を強く押してくものもあるけれど、
オーソドックスな賛美歌の持ってる──。 |
鈴木 |
引いてる感じ。
そこに、ただ在るというね。 |
糸井 |
そう!
『エイト・メロディーズ』はそうしたかった。
でも、そういう意図をもって、
「お願いします」っていうのは、伝えかたとして
ものすごく、難しかったですねえ。 |
鈴木 |
そりゃそうだ。そう言ってくれれば
よかったのにって、
その時は理解しにくかったろうな、
50代じゃないし(笑)。 |
糸井 |
そうだよねえ(笑)。
最初のうち、慶一くんたちがつくってくれた
『エイト・メロディーズ』のデモって、
どこかのところで
曲として成り立ちすぎてたんです。
「これを聴いて、助かった」みたいな音は、
ポピュラー・ミュージックの中に
ルーツを探っていっても見つけにくいんです。
だから、もっと成り立たないものに
したかったんですよね。
でも、それってメッチャクチャ難しい注文だから、
もう、「頼むわー」って言うしかなくて。 |
鈴木 |
しかも、難しかった要因がもう1コある。
『エイト・メロディーズ』は
8つに分かれなきゃいけないんだよ。 |
糸井 |
ハハハハッ! |
鈴木 |
やっぱり『エイト・メロディーズ』なんだから
8小節にして1小節ずつ違うメロディーにしようと。
それは最初に決めたんだ。
ところがその構造だと
ポップ・ミュージックって
なかなか成り立たないんだよ。
現代音楽の領域だ。
フィリップ・グラスとか、
マイケル・ナイマンのね。
(※ともに現代音楽の作曲家。
クラシックから映画音楽まで幅広く活躍) |
── |
音楽のセオリーとしては。 |
鈴木 |
うん。1小節ごとに違うメロディーがあって、
しかも、同じメロディーを使い回せない。
同じメロディーが出てくると、
ゲームのなかで集めるときに
わかんなくなっちゃうからね。
だから、それぞれに違うメロディーが
8コつながってひとつの曲にならなきゃいけない。
それはとても難しいんだけど、
それをあえてつくったのが、
よかったのかもしれないね。 |
糸井 |
うん。実際にできたし、
「できる!」って信じてダメ出ししてたから。
音楽に関するジャッジで、
ぼくがめずらしく厳しい顔してキリッとしたのは、
あそこだけですね。
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