── |
『MOTHER2』の音楽をつくるときも
基本的には前作と同じやりかたで? |
糸井 |
うん。いっそう拍車がかかる感じですよね。
もう、相手ができる人だってことを
信じ切ってやれるから、
注文の出し方もふざけてできるんだよね。
だから、例えばホテルの音楽なんかさ、
『オリーブの首飾り』を入れ込んでくれとか。
サマーズは避暑地だから、「バカラック入れてくれ」とか。
意味わかんないけど、ぼくの勝手な想像を、
ひょいひょい入れてもらってた。 |
鈴木 |
それを受けて、私とひろかっちゃんは
二人で、今度は、糸井さんのオフィスで、机並べて、
どんどんどんどんつくっていった。
もう、音楽工房というか、ファクトリーだったね。
作曲家やプログラミングする人も二人ほど、
加わったし。
金津くんとかね、音色提供してもらったり。 |
田中 |
最初の頃は、僕と慶一さんの他に
金津さんとか上野くんとかに、
いろいろ手伝ってもらいましたね。
で、最終的には慶一さんとすりあわせして
糸井さんへプレゼンするみたいな流れで。 |
糸井 |
そんな感じだったね。
『MOTHER2』はね、
ふたりができたものを持ってくるとき、
表情が、ぜんぜん違うのよ。
ちょっと得意そうに持ってくるんだよ(笑)。 |
鈴木 |
『MOTHER2』のときは、
つくるシステムや環境も進化したからね。 |
田中 |
そうですね。
パソコンのOSもMS−DOSからUNIXへ。
音楽の機材もいろいろ増えました。 |
── |
『MOTHER2』は
ハードがスーパーファミコンになりましたし。 |
鈴木 |
音色が増えたんだ。 |
田中 |
でも8音(笑)。 |
鈴木 |
でもさ、3音から8音って、大きなことだよ。
しかもステレオ。 |
糸井 |
おっきいよねえ。 |
鈴木 |
それと、私がおくればせながら
シーケンサーを使えるようになって、
作ったデータを、特殊な読み取りかたで
PCに取り込めるようになった。
それも大きかったんじゃないかな。 |
糸井 |
あ、データのやり取りで、アレを使うんだよね。
いまでは懐かしい──。
なんだっけ?あの、ちゃっちい皿……。 |
鈴木 |
フロッピー、フロッピー(笑)。 |
糸井 |
フロッピー(笑)!
ドクター中松の自慢のタネ。 |
鈴木 |
ドクター中松さんって、フロッピーの、
どこかのパーツの部分に
関わっただけじゃないのかなあ。
未確認情報だけどね。
で、そのころ使ってたのは、
Performerってソフトなんだけど、
ひろかっちゃんは、
そのソフトからスーファミの音に
変換するツールをつくっちゃったんだ。
「つくりましたよ!」って、
すごくうれしそうに言ってたのをおぼえてるよ。
やったー、と思ったね、
時期でいうと、半分終わったくらいかな。
でも、おかげで、家で作って
フロッピー持ってくるわって言えるようになった。
ファクトリーに通い詰めなくてよくなった。
超ミニ・シリコン・ヴァレーな感じ、
酔うね、環境に。 |
糸井 |
この人、そういうの好きだから(笑)。 |
田中 |
(笑) |
鈴木 |
それですごく作業が楽になったんだよ。
要するに、それまでは
口伝えか譜面化しないと伝わらなかったものが、
データでやり取りできるようになったわけだから。
確実だし。
ただ、まだフロッピーを手渡し時代。 |
糸井 |
ひろかっちゃんが、そういう、
作業環境の改善にかけた時間っていうのは、
けっこう大きいよね。 |
田中 |
うん、なんか、
ゲームが最初イメージしていたものより
どんどん広がっていったんで、それにともなって
曲も量産していかないと駄目だったし……
時間短縮や作業効率をあげるため、
いろいろツールが増えて行きましたね。 |
鈴木 |
うん。そのへんの手間暇はすごいと思うよ。
みんなが寝てるか、飲んでる間に。 |
田中 |
でも、最後はけっきょく手作業なんですよね。
変換作業なんかは楽になったけど、
最終的には手作業(笑)。 |
── |
スーパーファミコンになって
スペックがあがったってことは、
田中さんの手作業も倍増したんじゃないですか? |
田中 |
なんか、1年半くらいずっと、
モニターの前に座ってたような印象がある(笑)。
だって、全体をチェックするために、
準備してる曲きくだけで
朝10時から始めて、
終わるのが午後3時なんですよね。
デモ聴くだけで(笑)!
ちょっと休憩してご飯を食べて。
チェックするだけで5、6時間かかるの、
マジで(笑)。 |
糸井 |
すごいねえ(笑)。 |
鈴木 |
とにかく、『MOTHER2』のときは
機械のように大量に作曲したんだよね。
もう、どんどん。
「どこに使うかわかんないけど、
とりあえず作ろう!」って感じで。
ハイだったなあ。 |
田中 |
朝から晩まで、
来る日も来る日も『MOTHER』。
最後は実機で遊んで、
音楽をチェックしないといけないし。 |
鈴木 |
とくに、『MOTHER2』のときは、
開発チームと同じ場所にいたからさ。
前作のときは自宅にこもってたわけじゃない?
それがみんなと同じ場所、
同じフロアーにいるとになると、
意欲が湧くというか、燃えるんですよ。
だって現場にいるわけだから。
マッサージ椅子で、よく寝てたけど、私は。 |
── |
みんなの熱気を感じて、声を聞いて、
どんどんつくるんですね。 |
鈴木 |
そうそうそう。
で、全体を整えていくのが、
ひろかっちゃんなの。
彼は私と違って、ゲーム全体を見てるから。
彼の頭の中では、つくるものが
マッピングされてるわけ。プロデューサー。
そんななかで、私は闇雲につくるわけ(笑)。
闇雲音楽家。これは新鮮だったね。
普段は自分がプロデューサーの時代で、
この時はひろかっちゃんにお任せだから。 |
糸井 |
『MOTHER2』は、
できることが増えて、そのぶんだけ、
苦労も増えたっていう感じなんだよね。 |
鈴木 |
そう。できることが増えたから、こっちも、
「あ、それができるなら、これもできるよね?」
ってひろかっちゃんに頼んだりするわけ。
「ステレオでこういうふうに」とかさ。
そのぶん、苦労も増えていくわけだ。 |
田中 |
そうですね。でも、おもしろさでいえば、
断然おもしろくなりましたよ。 |
糸井 |
ああ、そういうふうに言ってくれると
なんだかうれしいね。
『MOTHER2』って、
制作にかなり時間がかかりましたよね?
いまだからこそ訊けるけど、
それって、音楽には負担にならなかった? |
田中 |
ならなかったです。 |
── |
おお、断言(笑)。 |
糸井 |
ほんとに、大丈夫だったですか? |
田中 |
ほんと、ぜんぜん、大丈夫でしたよ。 |
糸井 |
……田中さんは、ほかのことまで
心配してくれてたからね。
「このままじゃできへん!」とか。
なんかことばではそう言わなかったけど、
もっと男になれ!みたいな喝を入れてたよ。 |
鈴木 |
そうそうそうそう(笑)。
裏エグゼクティヴ。
彼は、全体を俯瞰してたし、
読みもあっただろうしね。 |
糸井 |
ありがたいことです。
でも、当時の危うさを思い出すと、
いまでも怖い(笑)。
いちばん苦しい時期には、うなされたりしてたもん。
ちんちんも、半分になっていたような気がする。 |
一同 |
(笑)
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