『MOTHER』の音楽は鬼だった。
鈴木慶一×田中宏和×糸井重里、いまさら語る。

第11回
「おとながつくったゲームのなかの子ども」


── いろんな意味で、『MOTHER』は
おとながつくったゲームだったんですね。
糸井 だって、ものすごく重要なのはさ、
『MOTHER』というゲームにおいて
主人公はバカにされながら旅してくわけだよ。
それは、子どもには作れないですよね。
鈴木 うん。
糸井 どんな小っちゃい子どもでも、
「褒められながら生きていく」っていうのが、
ほかのゲームの約束じゃないですか。
だけど、『MOTHER』って、
「おまえ、チビだから」みたいなことを
ずっと言われるわけですよ。
喘息で倒れてみたり、
ホームシックになってみたり。
で、届いたメールを読むと、
そういうところって、子どもだった遊び手が
ちゃんと反応してますよね。
── 「これ以上屈辱的なセリフを読んだことがない」
って言ってる人のメールがありましたよ(笑)。
一同 (笑)



当時もそう思ったし、今改めてやってもそうなのですが、
とにかく街の人との会話が屈辱的なんですよ。
町長に「キミにはムリ」とか言われるし、
とぼけた顔だとか、はなたらしとか、
挙げ句の果てに「うすのろ豚」呼ばわり。
初めて会った人にそこまで言われる筋合いはないよ、
と幼心に悔しかった覚えがあります(笑)。

中でも、確か2だったと思いますが、
「帽子をかぶってるけど、野球が好きなの?」
と聞いてくる人に、「はい」と答えると
確か「野球ばかりやってないで…」説教されます。
いきなり説教じゃ悔しいので、「いいえ」と答えてみると…

「ヘタクソそうだもんな。」

私の覚えている限り、
これ以上に「やられたっ!!」と思ったことも、
これ以上に屈辱的なセリフもありません。
大魔王のセリフなんかよりずっと悔しく、
今でもこの言葉だけは胸に刻まれています。

そのくらい、セリフに対する
「はい」「いいえ」の選択が練られたゲームである、
とも言えますが(笑)。
(しまみゅーら)



糸井 子どもを見てると、わかるんですよ。
子どもがひとりでいると、
いろいろ、いじめられてるんです。
それは自分もそうだったしね。
だって、エレベーターのボタンを
押せるようになったっていうだけで
子どもはうれしいんだよ。
「10階のボタンが押せるようになった」
っていうのは、
親に言いたいぐらいうれしいことなんだよ。
子どもって、そのくらい不自由に生きてるんだよ。
その気持ちをそこに入れたいな、
っていうのがあったから。
── なるほど……。
田中 ちょっと話は飛びますけど、
フォーサイドのモノトリービルにいる
エレベーター嬢の、お尻がいまだに気になって。
なぜか……。
糸井 え? どんなんだっけ?
田中 エレベーターに乗ると、
エレベーターのお姉さんに
「うしろにくっついて
 ヒップをちらちら見ないでね」
って言われるんですけど。
なんかエレベーターに乗るたびに
そればっか、気になって気になって。
自分でも、いつもそんなこと
思いたくないんだけど(笑)。
糸井 あはははははは。
ああいうセリフ、うまいよなぁ(笑)。
田中 いやー、もう、パブロフの犬状態で。
モノトリービルの前、通っただけで(笑)。
糸井 通っただけで、ムラムラするんだよね。
田中 情けないけど、そういうことですね。
糸井 ああいうのうまいな、オレ(笑)!
── 『MOTHER』って、全般的に、
お姉さんが男の子を、
「子どもじゃない、ちょっと大人なもの」
として扱うんですよね。
「ボク?」っていうんじゃなくて、
「キミは」っていう感じで。
糸井 うん。男の子だからね。
で、そのくらい少年って、
十分に変なことを考えてるんだよ。
で、それを見抜いてるお姉さんが
『MOTHER』にはいっぱいいるんで、
子どもとしては、
「見抜かれてるのかっ?!」ってことに(笑)。
鈴木 じつはエロさもあるということですかね(笑)。
糸井 あるあるある。
言われて思い出したわ。
よくおぼえてたねえ、ひろかっちゃん。
田中 なにげに強力でした(笑)。
── 言われてみればあのセリフ、
『MOTHER』っぽいし、
じつに糸井重里っぽい(笑)。
糸井 あのお姉さんのあたりは、
オレ、すいすいつくれるんです。
だって、ふつうに生きてて、
目の前にお姉さんのケツがあったら、
見ますよね?
鈴木 うん、うん。
糸井 でもそれは、忘れちゃうんだよ。
鈴木 そうだね。
お尻のすごさに感服していた時期は確かにあった。
バルドーの乗る自転車のサドルになりたいってね。
── 少なくとも、いま出ているゲームには、
絶対に入ってないですねえ、
エレベーターのお姉さんのお尻(笑)。
糸井 やっぱりね、
狭いエロを考えてる人にはわかんないのよ。
大きなこころでエロをね、とらえるのよ。
ま、自慢することでもないか(笑)。
お姉さんのケツを見るような場面で、
なんかほかのこと考えて歩いてちゃいけないんだよ。
しっかり、自分をしてさ、生きていたら、見るものだ。
オレはね……見てるんだよ!
── 目の前のお姉さんのお尻を(笑)。
鈴木 ふふふふふ。
これ、(糸井さんが)40代になってからだよね?
糸井 うん。1988年で40歳だからね。
40代でつくってたんですよ、これ(笑)。
濃いなー、やっぱなー。
いまのゲームつくってる子たちは若者だから
ぜったいこんなふうにつくらないよね。
鈴木 おとなだねえ(笑)。
糸井 あのへんって、もうさ、極端にいうと、
おとなが子どもをからかってるのと同じだよね。
「フライングマンを、キミはどう使うのかな?」
みたいなものじゃない?
田中 ブンブーンを死なせたくないっていう
メールもありましたね。
糸井 あったねー!
── あのメールは泣けましたねえ。
糸井 あのへんが、だから、
あの時代のオレなんですよ。
── 「ワルいイトイさん」が残ってる。
糸井 そうそう。
「ものすごく重要なことだな」って思った瞬間に
プレイヤーに向かってポーンと投げ出して、
エグイことを経験してもらう。
父親であり、パンクであり、なんですよね。
というよりは、「おじさん役」かな。
ジャック・タチ(監督)の『ぼくの伯父さん』。
鈴木 叔父さんって、すごく世の中で
重要な役回りなんだね。



(※ややネタバレを含みますので、ご注意ください)
プレイ中一番に心に残り忘れられないのは、
格ゲ−とアクションゲ−マ−の彼氏に、
マザー2を貸した時です。
「RPGなんてレベル上げがめんどくさくてやらん」と、
私より何倍もゲーム暦が長いのに、
いままで一度もRPGをやったことが無い彼氏。
「絶対面白いって、本当だって。まじだって」と、
必死に言って無理矢理
貸すゲームカセットの中にしのばせました。
その夜、真夜中携帯が鳴りました。
ねぼけまなこで携帯をとると、いつもより低い彼氏の声。
どうしたの?と、言うより早く彼氏は言いました。
「かぶとむしがどうしても死ぬんだ」
なんと彼氏は帰ってから早速マザー2をやり、
携帯をかけるまでずっと
ブンブーンが死なない方法を探していたのです。
ブンブーンは最初の最初、
主人公に未来をたくし、夜明けとともに
死んでしまうかぶとむしです。
なんどもなんども最初からやり直し、
彼が死なないよう主人公の台詞の選択を
変えたりしてやっていたみたいです。
「ああ、あれは無理だよ。死んじゃうよ」
と、非情な台詞を言うと
「そ、そんな。」と、
今まで聞いたことがないような声で、
彼氏は言い、すぐ携帯は切られました。
眠りながら自分はあそこまで、
ブンブーンを助けようと思わなかったな。
と、思いました。
主人公が長い間、旅をしていると、
自分の心の中でブンブーンのお墓を発見します。
それを思い出して、
彼氏が一生懸命助けようとしてたのを
思い出すと今でも馬鹿みたいですが涙が出ます。
それから、何度か初歩的なミスをおかしながら、
無事クリアーした彼氏。
「あれは、面白かった」
と、今でも言います。
昨日の大発表をメールで報告したら、
何も書かれてないメールが届きました。
焦ってたみたいです。
本当にありがとうございます。
(ふじぼん)

(続きます!)

2003-06-12-THU

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