vol.126
- Damejin 4 -
“脱力系”というよりもはや“解脱力”‥‥な
---- 『ダメジン』をよろしくお願いしますの4
テアトル新宿にてゆる〜く公開中
□悟るように、脱力してほしい。
とても淋しいですが、
『ダメジン』の三木聡監督のお話、
今回が最終回です。
三木さんから
「私のことが良く書かれすぎてる‥‥。
本当はもっと、ダークでダメな人間なんですが‥‥」
と感想がとどきました。
そうなんだ‥‥、ダークでダメですか‥‥。
ま、じゃ、人間性はさておき(え〜?)、
いや、そんな人間の“複雑性”がまた、
作品の中に微妙な影や光を作ったりして、
全部で“三木聡の世界”なんだなあ、
とますますおもしろがっています。
おもしろがる、ってのもなんですが‥‥。
『ダメジン』が、三木さんのモノ作りの、
原点的な映画であるというところで、
とにかく三木さんの原点に深く潜っております。
そうすると見えてくる、三木さんの脳の中。
やはり緻密な設計図が見えます。
「絵コンテを自ら描いて準備する」と
たしか『亀』*のコメンタリーで聞いたのですが、
シーンの隅々に至るこだわりが凄い。
出演してるネコの数も凄いし、
紙袋覆面の銀行強盗の紙袋の絵も凄いし、
「シベリア」(羊羹のカステラサンド)も凄い。
ケシル先輩(謙吾)の人工肺も凄いし、
シンジュクさん(麿赤兒)の身長(どうなってるの?)
も凄い。凄いものを数え上げればキリが無い。
もちろん、川に住むインバさん(村松利史)も凄い。
(村松さんは、いま私のツボ中のツボの人)。
ユルさの中に、実はよく見ると凄いものばかり。
さらに、リハーサルをしっかりやること。
それも笑いに不可欠な「間」を計る大切な秘訣。
それと、三木さんの話で語られる、
“共犯関係”という言葉。
「くだらないこと」を「くだらない」と、
現場にいる全員が思えることが、
まず前提としてあるという。
それが画面に現れてくる「くだらなさ」を
「くだらない〜」と笑える所以なのだろう。
そんな三木さんの「脱力系」と呼ばれるものの
延長線上にある大ヒットドラマ「時効警察」。
そのつくりの緻密さとおもしろさは、
いままでのドラマとは完璧一線を画してる。
三木さんと『プール』*で出会い、
「ぜひ三木さんと組んで、
これまでにないバラエティ性のあるドラマを、
テレビというメディアでやってみよう」
と持ちかけたオダギリジョーさんとの
ひとつのチャレンジでもあったのだというし。
やっぱり三木さんと言えば、
コメディアン、オダギリさんのおもしろさ
の秘密も聞いてみたいですよね‥‥。
彼の類いまれな“運動神経”のお話なども、
『ダメジン』と合わせて、お楽しみください。
それでは、ラストのお話です。
お待ちどうさま。
□ユルいものづくりの現場が、気になる
── 画面では、なんともユルいんですけど、
でもそれを作るときは、
決してユルくはないと思うのですが、
現場はどんな雰囲気なのでしょう。
厳しいとか‥‥?
三木 現場は楽しいです(笑)。
「自分たちのやってることはくだらない」
という実感を全員共有した上でね。
共犯関係にならないと、こんなこと、
できないわけですよ。役者も含めて。
川に沈んでいる人がいたりするしね。
── いや〜、キツい作業ですね。
三木 ええ。そのことがくだらないだろうなという
共犯関係にならない限りは。
誰かが共犯者じゃなくなっちゃうとね。
もう、だって、破傷風の注射とか打って、
川に入ってるわけですし、そうは言っても。
ゴジラを動かしたりしてきたスタッフが、
ロープ引っ張って、
川の中のインバさんを動かしたりするわけで。
そういうことをやるためには、
共犯関係にならなきゃいけない。
そのためには、設計図を
きっちり引いておかないと。
ただその場の思いつきでやると、
キレ味が悪くなっていっちゃいますよね。
アドリブで考えながらセリフを言うと、
テンポが遅れたりするんで、
ある程度その辺をきっちり固めた上で。
コントとかギャグって、どのコメディアンたちも、
そこは綿密に、自分なりに詳細なところまで、
きっちり固めてから臨まれるじゃないですか。
志村けんさんにしろ、松本人志さんにしろ。
ある種の生真面目さって必要だったりするんで、
そこが厳しいといえば、厳しいということになる、
とは思うし。
── 間(マ)のタイミングとか‥‥。
三木 うん。このポイントで、このトーンで、この間で
言わないとおもしろくない、というね。
── それは、脚本に書いても書いても、
その時の微妙なタイミングを、
現場の全員が把握してないとわかんないですね。
三木 わかんない。
最初にホンで読んだ時の、おもしろいなという
印象の鮮度を、もう一回高めた上で、
臨まなきゃいけないわけで。
何度もやってると、飽きませんかとか、
言われるけど、飽きないようにするのが、
役者の仕事なんで、飽きるのは、
役者の仕事をしていないってことに
なるわけじゃないですか。
── 自分が飽きない、ということと‥‥。
三木 相手の言ってることに慣れない、
ということですよね。
最初に「くだらない」と思った感情をもったまま、
芝居するってことは、必要なことだし。
その緊張感みたいなことはあるし。
で、よく話するんですけど、
3番目に言ったセリフがダメなんじゃなくて、
その前の前の前の○○さんのセリフのタイミングが
悪いから、結局、落っこちるのは、ココなんだけど、
‥‥っていうのが、あるじゃないですか。
その1つの流れの中にセリフを差し込んで、
とかいうリズムみたいなことって、
ある程度の稽古と、訓練が必要だし、
タイミングの取り方、というのは、
役者どうしで計っておいてもらわないと、
現場の時間が膨大になっていくわけですよね。
── それでリハーサルを大事にすると‥‥。
三木 そりゃやっぱり、リハーサルである程度ね。
── 固めておくと。
三木 けっこう「脱力系」とか‥‥『亀』の宣伝スタッフが
「脱力系」とか付けたからですけど‥‥言ってもね。
「時効警察」は、テレビドラマにしては、
かなりのテンポでセリフを言ってるはずなんです。
台本のページ数にしても、実際多いですし、
いわゆるテレビドラマのテンションでいうと、
かなりの量のセリフを言ってるんだけど、
「脱力系」とか、「ユルユル」とか、
言われるじゃないですか。
それはひとえに役者さんの力だと思いますけど。
── テレビドラマにしては映画的な間が多い
と言われますが、じつは間を作るために、
テンポの速さがそこにあるわけですね。
三木 まさにそうで、時間的な間で言うと、
普通のドラマの方が明らかに間が多い。
「君のことが好きなんだ‥‥」ってしばらくしてから、
「そう‥‥」と言ったりするじゃないですか。
□オダギリさんが、なんか気になる
── オダギリさんは、そういう、
コメディ的な間の取り方とか、
絶妙ですよね。
三木 彼は、そういう意味での運動神経が
ひじょうにいいと思います。
やっぱり運動神経って、そのセリフのテンポとか、
役者が持っている1つの武器になると思うんです。
── 独特の間を持っているというか、
インタビューの中でもそうですけど、
相手のテンポを一瞬外すみたいなのも、
天性のものでしょうね。
三木 違和感を生じるということは、
興味を生じるということじゃないですか。
いわゆる、普通の流れと違ったものが来るから、
違和感が生じて、それに対しての興味が生じる、
それは彼の役者としての才能の1つだと思います。
── オダギリさんとは、『プール』のときに、
初めてお会いになったんでしたよね。
そのときよりも前に、何かを観られて、
キャスティングを?
三木 いや。全然。プロデューサーマターで。
── え〜? そうなんですか。
三木 もちろん、名前は存じ上げていましたし、
作品自体も。
ただ、コントとしてやっていらっしゃるのは、
ケラ(リーノ・サンドロビッチ)さんの、
舞台(『SLAPSTICKS』)とかは
観てなかったので、どういう感じなんだろう、と。
そういう意味では、全然予備知識は無かったんです。
ただ、たぶん彼独特のリズムと、
なんというか、
欲が無い状態でカメラの前に立てる、
表現したい欲って役者の中にあるじゃないですか。
その表現欲みたいなことが、
コントの場合、邪魔になることがあるので。
そのことが無いということが、
重要なファクターの1つだろうなと思いますね。
いや、わかんないですよ。
本人は「ボクは欲があります」
と言うのかも知れないけど(笑)。
そうは見えないし。
ま、見えなきゃ、べつにいいわけで。
内面的な気持ちとかが何でもいいわけじゃないけど、
「ボクは表現してます」ということが、
前に出ない役者さんの方が、喜劇をやるとき、
そのことが必要だろうなと‥‥。
── それでアイディアは、
どんどん出してくるんですよね。
三木 そうそう。
それと、表現欲とは違うからね。
表現欲って、自分が良く見られたいという、
さっきの話じゃないですけど、
そういう部分を兼ね備えてるし、
それが無いと向上しないですけど、
画面上では、そういうことよりも、
単にこういうことをしたら
おもしろいんじゃないかということに、
わりと寄り添ってくれるというのは、
大きいですね。
□トルエンじゃなくてシンナー、が気になる
── 三木さんの次回作と言われている
『仕事の前にシンナーを吸うな(仮)』は、
どこまで進んでるんですか。
三木 もう撮影の準備に入ろうかと。
ただ、タイトルは変わると思います。
── これはけっこう『ダメジン』っぽい感じですか。
三木 うん。原点回帰というわけじゃないですけど、
気持ちとしては「走りきりたい!」
という感じの映画です。
テーマは、1回死んだらどうなるか、っていう、
「1回死ぬ薬」があって、それを飲んだらどうなるか
ということを追うライター2人組の話です。
── わぁ〜。でも「3」になるんですか。
三木 男2人、女1人の予定です。
── トルエンじゃなくて、シンナー?
三木 シンナー。
── なんで、シンナー‥‥?
三木 シンナーの方が馴染みがあって、
化学系物質の総称じゃないですか。
シンナーは“薄めるもの”だから、
トルエンに限らず、ほかのものを含有する
というのが、ありますけど。
「シンナー」という言い方のほうがダメそうだな、
というのはありますね。
── 笑。
三木 ただ、タイトルはね、変えざるをえない状況が。
さすが、スポンサーも含めて‥‥。
でもライターさんには受けがいいので、
なんとか戻したいとも。
── このタイトルの長さは保つんですか。
三木 また長めにしたいと思ってるんですが。
ロードムービーなんですよ。
1回死ねる薬を探して歩き回るという話なので。
── では『ダメジン』のメッセージをもう1回、
なんかありますか‥‥。
三木 無いです(笑)。
「解脱力!」とだけ。
悟るように、脱力してほしい。
── ありがとうございました。
おわり。
次作もぶっ飛んでそうで、ユルそうで、
見ないとわからなくて、そこそこ楽しみです。
あ、いや、めちゃくちゃ楽しみです。
なーんか、サルタナの“そこそこラーメン”
食べたくなりましたね〜。
たぶん、「いま」という
曖昧な時間と人々の心象を映しとったら、
三木さんほど的確な人はいないのではないか‥‥。
そしてその中に“おもしろい未来”が見える、
のじゃないかと、私は感じてます。
ぜひ『ダメジン』、観てみてください。
それから、オダギリジョーさん主演、
現在公開中の話題作『ゆれる』のことは、
「Amazing Tomorrow」(映画専門フリーマガジン)
にちょこっと書かせてもらいました。
心を扱う鋭い作品に打ちのめされ、
ほんとに“解脱”したい気分‥‥。
丸の内界隈で目についたらぜひ読んでみてください。
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*文中、『亀』は『亀は意外と速く泳ぐ』、
『プール』は『イン・ザ・プール』のことです。
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Written by(福嶋真砂代) |