OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.131
- Hazard 1 -


飛びたかったんです‥‥
---- 『HAZARD』



©HAZARD project
11月11日よりシアターN渋谷にてロードショー


園子温監督。
ずっと会いたくて、
会うのが待ち遠しいのと同時に、
正直、私の中には、
得体の知れない恐さが同居。
園子温という、現代を鋭く刺す詩人。
会えるといううれしさは、翻って、
すべてを見透かされてしまうのではないか、
そんな恐さにもなっていました。

こんな相反する気持ちを抱えて会いに行くと、
オダギリさんと楽しそうにビールを飲んでて、
二人ともいい感じの色の顔。
そこには独特の空気がすでに出来上がってた。
う、、やっぱり入れない‥‥と怖じ気づく。
「えい、飲んじゃえばなんとかなる」と
ビールを飲むが、空気に飲まれる。
勇気を奮い起こして、監督に面と向うも、
監督はなかなか目を合さない‥‥。
(人見知りなんですね)

やっぱり居住まいそのものが詩人である。



なかなか話は始まらない。
私の声はうわずる。
どうすんの~~、俺‥‥。
オダギリさんは周りをうろうろしてる。
なんか撮影してる。
監督はオダギリさんが気になっている‥‥。
(もちろん、私も‥‥。)

そんな超浮き足立った状況の中、
園子温監督が4年前に作った作品、
『HAZARD』の話などを聴くことに。

ところで、
園子温作品を何か観たことある方は、
おわかりだと思いますが、その作風は、
ちょっと普通じゃありません。
どこからこの恐ろしい発想が産まれるのか、
なんとも形容し難いドロドロシュール感。
近親相姦、自殺ごっこ、疑似家族、飛び散る肉片、
血を浴びるキレイな女の子‥‥。
ホラーじゃないのに、目を覆うばかりの映像の連続。
だけど恐ろしいほど現実にリンクし、
社会の悲鳴と人間の孤独が追いかけてくる。
不快がやがて私の中で快感に変っていくのです。
なぜだろう‥‥。

「なぜだろう」と考えさせられること、それ自体、
園子温の絶大な魅力のような気がします。
「なんとなく」とか「気持ちいい」とか、
そんな曖昧な偽善とは無縁なのだ。
怒濤の疑問の連続の居心地の悪さが、
強烈に心臓を掴んで離さない。
とりわけ『自殺サークル』、
最近の『奇妙なサーカス』『紀子の食卓』は、
私が園さんにグググッとのめり込んだ作品です。

そして幻の作品と呼ばれてた『HAZARD』。
ここで、園さんは、ジャンプ前の踏切り板を、
思いっきり踏みこんでいる感じがします。

そうそう、「時効警察」もありましたよね。
オダギリさんとの強力なタッグ。
三木聡さんとも仲良しらしく‥‥、なんか不思議。




『HAZARD』は、ニューヨーク、
ブルックリンとかハーレムのハザード(危険区域)で、
ゲリラ的にロケを敢行し、オダギリジョー、
ジェイ・ウエスト、深水元基の初々しくも、
突き刺すような若さがはじける作品。
設定としては、1991年のバブル後期、
映像の持つはじけ感は、そのまま、
園子温監督の「はじけ感」なのではないか。

ま、とにかく、
園監督の炸裂してる言葉を、
炸裂したまま、お届けします。

□若気の至り

園子温 若気の至りという映画です。
    いまだったら撮れない映画ですね。


─── いま思い出す当時の心境って?

園子温 すごく恥ずかしいです。
    誰でもそういうのあるんだけど。


─── いま公開されることについては?

園子温 うれしいといえば、うれしいんじゃないかな。
    うれしいです。


─── 園さんはアメリカに住んでいらしたとか。
    どのくらいいらしたのですか。


園子温 そう。サンフランシスコに、一年ぐらいね。

─── 『自殺サークル』の前ですよね。

園子温 『自殺サークル』の本はシスコで
    書いてたんですよ。


─── 54人の女子高生が「いっせいのせ」で
    電車に飛び込むあれをですか。へえ~。


園子温 『紀子の食卓』あたりから、
    カチッとしているけど、
    『HAZARD』のときはカチッとしてないよね。
    現場で「オダギリよろしく~」って感じ。


─── 撮影のときはどういう状態だったんですか。
    その場で話し合いながら撮るみたいな?


園子温 とにかく今では信じられないくらい、
    いい加減な‥‥。


─── チャイナタウンのマフィアを撮ったときも?

園子温 行き当たりばったりで撮ってたからね。

─── 黒人(アフリカン・アメリカン)の方々も
    いっぱい出てきますけど。


園子温 俺のイメージの中に「黒人はデカイ」
    というのがあるから、
    小さい人は出てきません。ありえない!
    きっと向こうからすると、
    日本人は必ず柔道ができるとかあるんだから。
    クラシック聴いている黒人はありえないし、
    俺の中で‥‥。


─── (笑)。どうしてそんなに染み付いたんですか。

園子温 いや、染み付いてないの。知ってるからこそなの。

─── じゃ、理想的な黒人が出てたんですね。

園子温 探してきたの。
    けんかっ早くて、すぐ人のモノ盗んで、
    声がでかくて、みたいな人。


─── どうやって?

園子温 向こうのヤクザに、
    ガラの悪い黒人を探してくれって頼んだの。
    お金渡してね。


─── 下から?

園子温 いや、前から渡した。
    ウソ、ですけどね。


─── ウソなんだ。
    『HAZARD』っぽい。騙された(笑)。
     “You know what I mean?”ですね。


園子温 ワンカット、ワンシーンで撮ってたから。
    基本的に録音部とカメラマンしか
    現場にいなかったから。
    僕なんか、車のシーンは、
    へばりついてましたからね、車に。


─── あれって、車規制とかしてないですか。

園子温 してないね、ゲリラ的に撮った。
    全部ロケハンで、
    そういう場所があったから
    それを撮ろうとしたんです。
    そこでストーリーが出来たんです。

    ジェイの家も、アイスクリーム工場も、
    かっこいいから撮ったんです。
    かっこよさを撮りたかったんです。
    このころは「絵」だったんです。
    最近は「絵」に興味ないんですけど。


─── 飛行機のイメージは?

園子温 ま、青臭いけど、飛びたかったんです。
    尾崎豊とか、長渕剛とか、
    佐野元春の世界(笑)。わかる?

    多分ね、今、オダギリも俺も「恥ずかしい」
    って言ってるけど、あと10年くらいしたら、
    いい映画だなって思うと思うよ。


─── ふーん、あと10年ですか。

加藤  高校時代の話を、
    20代のときに話すと恥ずかしいけど、
    30代になって話すと「いいな」と思える
    ってことですよね。


園子温 そうそう、それだよ。

─── 『HAZARD』は、園さんが41歳のときに
    作られたんですよね。


園子温 ほんとに?!
    そんな歳だったんだ、俺。びっくり。


─── 私もびっくりです。
    すごい初々しさが画面から伝わるから。


    つづく。

なんだか酔いが回って気持ちいいのと、
園さんの興味がいろいろ浮遊するのと、
私の浮き上がり感と、
なんともとりとめのない話の連続です。
すいません。

後半をお楽しみに。
『HAZARD』もお楽しみに。


©HAZARD project

『HAZARD』


Special thanks to director Sion Sono
and Takeshi Kato(Unplugged).
All rights reserved.

Written by(福嶋真砂代)

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2006-11-10-FRI

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