vol.133
- Bushi no Ichibun 1 -
●徳平さんに聞く、
----『武士の一分』その1

©2006「武士の一分」製作委員会/12月1日より全国一斉ロードショー
□いぶし銀“ムード”たっぷり、
笹野高史さん登場。
「働かないで一生暮らすには、インドへ行け。
なぜなら、インドにムードがあるぞ」
猫ジジイの含蓄あるお言葉。
笹野高史さんといえば、
『ダメジン』の“猫ジジイ”が忘れられません。
ほんとに“ムード”がありました。
35年の芸歴を持つ、名俳優の笹野さんに向って
「それ、かい?!」っていう、
はなはだ失礼な印象かもしれませんが、
私の中で、笹野ポジションがしっかり確立されたのは、
やっぱり三木聡監督の作品なんですよね。
「時効警察」の駐在所のおまわりさんも最高で、
たくさんのチャンネル、広い懐に感激したのでした。
そんなわけで、『武士の一分』を観たら、
その笹野さんがなんとも“ムード”のある存在感で、
三村新之丞の身の回りの世話をする
“中間”(ちゅうげん)の役を
渋~く、あったか~く演じられてて、
素敵過ぎでした。
もちろん、『アカルイミライ』『パッチギ』‥‥、
『釣バカ日誌』シリーズ、そして『男はつらいよ』等々、
出演作を数え上げたらキリがありませんよね。
しかも映画だけじゃなく、テレビ、舞台での活躍も
恐ろしいほどに‥‥。
そんなすごい笹野さんにお話を伺いました。
なんていうんですか、
息の長い、しかもますます
その存在感を増す役者さんの魅力の真髄を
目の当たりに見せていただく感激、感動!
サービス精神あふれるあたたかい人間性と、
心底“役者”という仕事を愛している職人であり、
しかも、4人の息子さんのよきパパ。
懐ひろくておもしろくて厳しい。
そして、木村拓哉さんに「やっぱ黄色でしょ」
と言われて「黄色にしたんですよ」
のポルシェに乗るポップさ!
藤沢周平世界を独特の空気で描く、
山田洋次監督のじわ~っと心に沁みる
人間ドラマの中で、渋く光る徳平さんを
大クローズアップしました。
笹野さんの絶妙のリズム感、
小気味よく、キレのあるトークを、
あますところなくお楽しみくださいね。
またプチ連載で~す。
映画の詳細はどうぞ武士の一分サイトを
チェックしてください。

── 先日『ダメジン』の三木聡監督に
お話を聞いたのですが、
あの“猫ジジイ”にお会いできるなんて
ものすごく幸せです。
笹野 あの人(三木さん)の作品をやれる俳優ってね。
なかなかチャンネル合わせにくいと思いますよ。
拒否する俳優さん、いっぱいいると思うんです。
── ふふふふ。
笹野 だって、台本読んでね、あの中入れますか?
ふふふふ。
何だコレ? って思いますよね、普通は。
だってうちのマネージャなんか
途中で台本読むのやめちゃった、
ワケわかんないとか言ってさ(笑)。
── ほんと、独特ですよね。
笹野 あれを僕ができたというのは、それ以前に、
シティボーイズで、ワケのわかんない芝居を
つきあってたもんですから。
そういうチャンネルが僕にはあったんです。
そのときたまたま、彼は演出助手をしてた
って言って。
「へえー、あそこにいたの?」って。
「そういえば、モッタリした人が
一人いたなー」ってね、はははは。
三木さんが
「それボクですよ、お世話になったんです」
って言うの。
そんとき僕たたかなくてよかった~、
たたいてたら、使ってくんなかったかも、ね。
── そんな出会いだったんですかー。
笹野 そうなの。おもしろいなーと思って。
でもそうやって才能を開花させてきてると思うと、
なんかうれしくなっちゃってね。
── 三木さんって、人の細かい癖とかを
絶対見逃さないし、
全部拾って生かしてきますからね~。
笹野 おもしろがり方が、おもしろいのね。
そんなおもしろがり方、あったのかと思ってさ。
おっかないですよね、何見てんの、あんた、って。
── 観る方のチューニングも狭いところを
合わせるわけですけど、
ピタッと合うと相当おもしろい。
笹野 そう。
合わない人は「なんだ?」って言いそうなの。
そういう映画あっていいよね、あっていいと思う。
── で、「時効警察」にもお出になってますよね。
笹野 田舎の駐在さんね。
あれマニアックだから、
多分視聴率いかないんじゃないの、
って思ってたら、けっこういいんだってね。
近所の奥さんもおもしろいって毎週観てたから、
なんだ、世の中進んでるだ、って思ってね(笑)。
── あのテレ朝の11時15分の枠がまたいいんですよね、
実験的で。
オダギリさんが、笹野さんの息子さん4人が
笹野さんにそっくりで感動したって、
オールナイトイベントで話してました。
そーか、そっくりかって感動してたんです。
□だって狙ってあんな芝居できませんし。

── ところで『武士の一分』のお話を。
笹野さん無しには語れない、
私は密かに、笹野さんの映画だ、
と思ってるんです。
笹野 そうですか、ありがとうございます。
いやさー、いちおう、35年も役者やってるからね。
なんかさ、いぶし銀じゃないけど、
なんとか銀とか‥‥。
── “銀”がつくんですね。
笹野 ハハハ。
だってパンフレットには“ベテラン”とか、
書かれてるけど、「そんなこと言わないでよ、
まだベテランなんて書かないでよ」って。
でもベテランなんて書かれてさ、存在感とか、
なんとか銀とかの役になればいいなと思って。
野心と言えばそんなもんです。
結果的によければいいなと思って、
やってたんですけど。
でもそんなふうに仕上がってるんだとしたら、
監督と、撮影監督の功績ですね。
編集の方にも、スタッフの方にも、
お礼を申し上げたいです。
私はなんにもできません、って、
お詫びの言葉しかないですよ。
── うわぁ‥‥。
笹野 だって狙ってあんな芝居できませんし。
私、野心も何もございません。
俳優としてのキャリアも捨てておりますので、
おっしゃるとおりに動きます。
素のままです。羽二重もしてません(爆笑)。
(マネージャーさんも爆笑)
これはもう開き直って、もう自由にして下さい、
っていうようなつもりでやりましたんで。
そこに俳優の、なにか生きてきた“キャリア”
みたいなものがね、毒として、ジューって
絞り出されてくればね、
それはそれでよかったって思うんですけど。
それを願うばかりでした。
── 徳平さんには、
笹野さんのすべてが沁みこんでいる感じがしました。
空気のように存在していながら、
ひじょうに存在感のある徳平さん。
おもしろかったのは、木村さんとのやりとりの
空気がいい感じに伝わってきたことです。
笹野 そうですか。よかったです。安心しました。
── 木村さんとは現場でどういう感じで?
笹野 僕は木村さんとは初めてでしたので、
なんとか親しくなろうと思って、
撮影初日から、一生懸命話しかけたり、
おもしろいこと言ったりとかして、
なんとか話しかけてね。
あの人は、タバコを吸ったり、
スッと隅の方に行くんだけど、
追いかけて行ってね(笑)。
「木村さん、なんか食べますか?
コーヒー飲みますか、ダンナさま」
ってしつこく、嫌われるくらい、
話しかけたりなんかして。
なんとか親しくなろうとしたんです。
木村さんは木村さんで、
違うアプローチの仕方で、
徳平っていう者を周りから観察して、
どうやってコイツを攻めてやろうかって
思ってたらしいですけどね。
なんとかみんなで仲良く、この映画を
成功させたい、いいものにしたい、
っていう気持ちは3人とも同じでしたね。
そこだけが拠り所で。
木村さんね、あの人、
わりと目を見て話してくれないんですよ。
だから笑わしてやろう、笑わしてやろうと思って。
あまりそのことに力入れたので、
徳平って役を忘れちゃうくらい。
「あ、いけねえ、いけねえ、
徳平はどんなんだっけ?」って、
檀れいさんにも、こんなこと言ったら、
ウケるかなってね。
── 檀さんにも! ネタ仕込んでたんですね。
なんかあったかい雰囲気ですね。
笹野 なるべくね、家族の、一家の話ですから。
そういうふうになればいいなと思って。
舞台の稽古やってますとね、必ず1回お酒飲んで、
話したりすると、一辺に仲良くなっちゃったりね。
酒飲んで、1つの作品を作るという、
気合いを入れるみたいなことがあってね。
そんなのは映画でもあるんじゃないかなと思ってね。
ただ1回、失敗したなと思ったのはね、
木村さんが「笹野さん、今日終ったら何もないの?
飯食いに行くんだけど、一緒に行きます?」って
誘ってくれたんですよ。
つづく。
ええ~? ここからどうなんの?
みたいなところで止まってすみません。
笹野さんの失敗とは‥‥。
つづきは第2回に。
お楽しみにしててがんす。
Special thanks to Takashi Sasano, gran papa
and Tomoko Hosokawa. All rights reserved.
Written by (福嶋真砂代) |