vol.135
- Bushi no Ichibun 3 -
●徳平さんに聞く、
----『武士の一分』その3

©2006「武士の一分」製作委員会
□人間として、ピュアで、魅力的じゃないと、
映画に通用しないんだ。
笹野高史さんの最終回です。
もうご覧になりました?
『武士の一分』
徳平さん、いかがでした?
いいでしょ~?
笹野さんの“毒みたいなもの”がじゅわじゅわ~
って出てましたか?
さて今回は「笹野さんのルーツを探る」
笹野さんがいまも”心の師”と仰ぐ、
渥美清さんのお話をお送りします。
「寅さん」のかっこよさ、さらに、
「物売りの口上」の実演まで!
では、リズミカルにたっぷりと。
── 笹野さんはお生まれが兵庫県。
笹野 はい、淡路島です。
── 役者を目指されたきっかけは
なんだったのでしょうか。
笹野 母親が映画が好きったし、
兄弟もみんな映画が好きで、
小さいときに映画を観る習慣を、
まず身内からつけてもらった。
中学になって、一人でも行くようになって、
その頃、映画俳優っていう仕事があるんだって
ことに気がついて。
そういう職業があるんだったら、
やってみたいなって思ったのが、
きっかけです。
心ひそかに映画俳優ってものになりたいと
ずっと思ってたんです。
でも、当時、映画俳優って言うと、
石原裕次郎みたいに、身長180cmで、
足が長くて、かっこいい顔でないと。
僕なんてダメだなあって思ってました。
それを強く後押ししてくれたのが、
渥美清さん、でしょうね。
── ああ~。
笹野 なんだ、全然、大丈夫じゃない(笑)
って思わしてくれて。
よし、俺も映画俳優になるぞって思って、
今日に至るんですけどね。
渥美さんは、僕の“心の師”です、いまだに。
── 渥美さんはどんな方でしたか。
笹野 かっこいい!!!
── ほ~。
笹野 かっこいいんです。好きですね~、いまだに。
かっこいいとしか、言いようがない。
普段の居住まいが、やっぱり映画に映るんだな。
だから、普段の生活を鍛えておかないと、
あんな風ににならないだろうなと、
思うんですよ。
人間として、ピュアで、魅力的じゃないと、
映画に通用しないんだ。
普段もね、こう、魅力的でかっこいいの!
── へええ~。
笹野 よく僕たちのお芝居を観に来て下さってね。
終ってから必ず、ごはん食べるとこで、
待っててくれて。一緒にごはん食べて。
「おもしろかったねー」なんて話をして。
よく遊んで下さったんですよ。
新宿のオカマバーに行ったり(笑)。
お芝居も一緒にいろいろ観に行ったりね。
僕らは、渥美清だからって、気を遣って、
誰か話しかけてきたらば、
「すいません」って、ちょっと断ったりしよう
という心づもりがあるんだけど‥‥。
あれは、どういうんでしょうね。
渥美さんから、“気”とかさ、
“オーラ”とか? 出てるんだよね。
そうとしか思えないんですよ。
僕らなんかでも、たまたま知ってる人が、
「あー、なんとかさん、名前知らないけど、
がんばってね~!」って肩叩かれたり、
するわけですよ。
そういうことを、渥美清さんですよ、
寅さんがソコに居てさ。
エレベーターの中でも、気づいたおばさんが
「あっ」って言って(手をひっこめるしぐさ)。
そういうことをさせない空気があるの。
「うるさい」なんて渥美さんは一切言わないですよ。
「あっ、どうも」「あっ、そう、よかったね」
って言うんだけど、それ以上、肩ポンとか、
サインしてとか、言わせない。
なにかこう、“気”のようなものがね‥‥。
僕らが「今、プライベートですから」
なんてこと、言わなくてもね。
映画からは、想像できないでしょ。
── はい。だって“寅さん”ですからね。
笹野 いつも、たったおひとりで、
芝居を観にいらっしゃるんですよ。
タクシーに乗って、おひとりで。
それで、ごはん食べて、
「ありがとうございました」って言うと、
僕は、柄本明とずっと一緒にいたんだけど、
「で、二人は、何?
これからこんなこと(飲む仕草)したりするの?
うん、じゃね」って言って。
僕らは、気を遣ってタクシーを止めて、乗っけて、
人だかりがしないようにとかね、気を遣うんだけど。
「二人で行くのかい? じゃ」なんか言って、
スーッと人混みの中に消えていく。
「え、ちょっと、ちょっと、大丈夫か」って、
柄本と二人で心配で、ずっと見てるんだけど、
スーッと消えていく‥‥。
それは、俺たちに、そんなヤボな気を
遣わせないためなのね。
それで、お食事をごちそうになるんですけどね。
いつ、どこで、どういう風に、お金を払ったか、
見せない! 粋でしょ?
── 粋ですね~。
笹野 だって、あの方、亡くなり方もかっこいいけど、
プロデューサーの一人ぐらいしか、
渥美さんの家を知らなかったっていうね。
家の前にタクシーを付けさせないで、
離れたところで降りて、
タクシーの運転手さんでさえ、
渥美さんの家を見たことがないというさ。
山田洋次さんでさえ、知らなかったって。
そういう気を遣わせないのね。
で、ごはんのとき、トイレかなんかに立ち上がって、
まだ食べたり飲んだり、僕たちがしてる間に、
スッと戻ってきて、多分、あのときに、
カードかなんかで、支払ってったんだろうね。
「じゃ、帰ろうか」なんか言って、
スッとレジの前を通って、僕らが「あっ」
って言うと、「いいの、いいの」って言って。
かっこいいね~。
お金払ってる姿さえ見せない。
「かっこいいじゃ、あ~りませんか」
粋っていうのはそういうもんじゃないか。
気を遣わせないんです。
それで、後ろも振り返らずに、消えていくの。
みっともないことがヤボだった。
そういう時代の方でしょ。
いや~~、真似出来ない。
── それでいて、後輩思いで、やさしいんですね。
笹野 うん、やさしい!
芝居をよく観に来てくださってね。
話を聴いて下さって。

渥美さんの「物売りの口上」があるんですよ。
『国の始まりが大和の国、
島の始まりが淡路島、
泥棒の始まりが石川の五右衛門なら、
助平の始まりがこのオジサンっての。
(延々と続く‥‥)』
これが、全編あるんだけど、
当然のごとく、覚えましたね。
何かいいかって言いますと、
まず、発声練習にもなりますが、
セリフの“音”がいい。口跡がいい。
渥美さんの口跡が見事なのね。
俳優として見習うべきところ、
多、多、多、多、多、多、ありますね。
それを真似するんだけでも、
すごい勉強になるんです。
“音”を正確に勉強するだけでもね。
目の前のお客さんに買わせようという
野心から何からね。言ってて気持ちいいし。
『男はつらいよ』のスタッフの中でも、
丸暗記している人いましたね~。
お酒を飲むとそれをやるんです(笑)。
── 笹野さんは、後輩の方々とも飲みに?
笹野 僕は、劇団ではとてもコワイ人だったらしくて、
小日向文世とか、
「笹野さんって、コワイ先輩がいてね」って
必ず言ってるらしいの。
それが劇団辞めてからは、
「人が変わったように丸くなった」って言われて。
きっと劇団を支えるっていう緊張感で、
そう(コワく)なってたと思うんだけどね。
今では後輩たちとすごく楽しくつきあってますよ。
おわり。
まるで寅さんが降臨してきたみたいに、
お馴染みの口上を、スルッと始める笹野さん。
まさに“Live!”で拝聴してしまいました。
なんだか部屋の隅には、寅さんもニコニコと
いらしたような‥‥?
笹野さんは、三木聡監督の待望の次回作、
『図鑑に載っていない虫』にも出演されますし、
もしかしたら「時効警察2」にも‥‥。
楽しみですね~!
ますます可笑しくてキレてる笹野さんも
ぜひ炸裂させてください。
『武士の一分』には、じつはもうひとつ
隠れた見どころがあります。
それは、ルビーです、ルビー。
あのピキピキピッキーの、
『メゾン・ド・ヒミコ』のルビーこと、
歌澤寅右衛門さんが、
おもしろいところで出ています。
ふふっ、とうれしくなりました。
ぜひ、お見逃しなく~。
さて次回は、
『酒井家のしあわせ』の呉美保監督、
そして身も凍るほどの現実のホラー、
『ダーウィンの悪夢』と続きます。
年末年始も、どうぞヨロシクです。
ノロウィルスにも注意しましょう。
Special thanks to Takashi Sasano, gran papa
and Tomoko Hosokawa. All rights reserved.
Written by (福嶋真砂代) |