OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.163
- Un Couple Parfait 1


男と女のものがたり‥‥
──『不完全なふたり』その1



新宿武蔵野館ほかにて公開中

□諏訪敦彦監督、ふたたび。

諏訪監督の『不完全なふたり』が、
とうとう公開されました。
去年、香港国際映画祭でいち早く観てきた
西島秀俊さんが「ものすっごくいい!」
と絶賛していた作品。
とにかく公開を待ちわびていました。

「いい」と言ったって、何がどう、いいのか。
映画はほんとに観て初めて、わかるものですから、
とにかくドキドキとスクリーンに向うしかない。
そして1時間48分という時間が過ぎ、
茫然と、イスから立ち上がれず‥‥。
どこかモノクロームな感触の映像のなかに
身体も意識も吸いこまれていき、
そこに生きていたような「生」の時間が終って、
言葉がなくなりました。

造形大学の教授でもある諏訪監督のことは、
『パリ・ジュテーム』のときに書いたので、
そちらも合わせてお読みください。
今回は『不完全なふたり』に集中しますね。

全編パリ撮影です。
キャストも、
スイス生まれのブリュノ・トデスキーニ、
イタリア生まれのヴァレリア・ブルーニ=テデスキ
というヨーロッパの俳優を起用し、
日本人は出てこない
まったくのフランス映画(日仏合作)です。

なんとも舌を噛みそうな名前の2人ですけど、
ナンテールのアマンディエ演劇学校で
パトリス・シェロー監督に学んだ同志。
卒業試験でコンビを組んだのだそうで、
お互いに「似た名前の人がいる~」と思ったらしく。

その2人が演じるのは、リスボンに住む、
「離婚」という言葉が現実味を帯びてきている、
結婚15年目の夫婦、マリーとニコラ。
友人の結婚式のためにやってきたパリで、
ホテルに4日間滞在し、
いつもとは違う非日常的な時間を過ごすなかで、
自分の存在と相手の存在をふたたび見つめながら、
心が揺れていく様を描いています。

人生の深い1コマを疑似体験するような、
ビタースウィートなオトナの映画。
諏訪作品らしく(『パリ・ジュテーム』と違って)
脚本はほぼ無く、設定したシチュエーションに置かれた、
人物の心情と行動をひたすらカメラで追い続け、
キャストには即興を要求するという、ある意味、
難しい手法です。それゆえに観ていると、
没入感が高くなるのかもしれません。

諏訪監督に長い時間お話を伺ったのですが、
時間がいくらあっても足りないと思うほど
おもしろく、前のめりになっていきました。

お話のポイントは、5つです。

1. 映画を教えるということ
2. パリで撮るということ
3. 諏訪監督の視線の魔法
4. 男の優柔不断‥‥
5. 女性と母性

今回は序章ということで、
あえて諏訪教授に、
「映画を教えるということ」から。
ノーカット、プチ連載でお届けです。

□映画を教えるということ

── 諏訪さんは大学で
   映画を教えていらっしゃいますが、
   ドキュメンタリーとかを教えているんですか。


諏訪 これがですね‥‥。
   いまの学生が作るものって、
   フィクションとドキュメンタリーの
   どちらとも言えないようなものが多いですね。


── それは諏訪さんから、
   多大な影響を受けている‥‥?


諏訪 自分は必要以上に影響を与えたくない、
   というのはあるんですけど。
   学生の気分としては、
   ドキュメンタリーをやるにしても、
   大きな問題に向っていこうとか、
   そういうふうにはいまはなれないから、
   やはり自分というものを見つめていく、
   みたいなところ、ありますね。


── ふーん。そうですか。

諏訪 それでフィクションとも、
   ドキュメンタリーともつかないようなものが、
   けっこう出てきますね。


── 現実を映すみたいな。

諏訪 マジメに映画に向き合ってる感じ、
   しますね。


── この間、「藝大映画週間」というのが
   ユーロスペースであって、
   「北野・黒沢ゼミ」の第1期の院生に、
   お話を伺ったんです。黒沢監督にも。
   やっぱり影響をうけざるをえないのだろうかと。
   スゴイ監督が教えるっていうことは、
   どんな感じなんだろうなって思って。


諏訪 僕は、映画ももう少し多様なものが
   生まれてほしいと思ってるし、
   造形大はフィクション映画ばかりじゃなくて、
   アニメーションもあれば、
   インスタレーションをやってる人もいるし、
   いわゆる劇映画だけを
   目指しているわけじゃないから。
   そういう意味では、
   単純に作品作りみたいなことから
   少し変わってきてるんです
   「ソーシャルアート」とか、
   「社会改善のための映画」とか‥‥。


── 社会改善?

諏訪 アメリカなんかではあります。
   たとえば、不登校の高校生に、
   「自分たちの映画を作ってごらん」っていう
   プログラムをしかけると、
   彼らが自分たちの身の回りの題材を集めてきて、
   お話を考えて映画を作るんです。
   作品としていい作品ができるわけじゃないんですが、
   映画制作をして、社会のある問題を
   表面化させたり、改善したり。

   それは美術ではよくやっていますね。
   いまは、日本の映画教育なんかをみると、
   人材育成、それも映画業界の人材育成
   みたいなことをやっているんだけど、
   僕はちょっとそことは違うことを
   やりたいと思ってるんです。
   自分の生活のなかで、どうやって
   映画と関わっていくかということです。


── 映画を作ることで、
   問題意識を持って生活を見ることも
   できますね。なるほど。


   つづく。

なるほどおもしろい映画作りですね。
ぜひ造形大学の映像作品も観たいと思います。
次回は「パリで撮るということ」についてです。

『不完全なふたり』は、
これから結婚したいと思っている人、
すでに結婚してる人、
やや結婚倦怠期かも、と感じている人、
とくにおもしろいかと思います。

ではお楽しみに。

『不完全なふたり』


Special thanks to director Nobuhiro Suwa
and Bitters End. All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)

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2007-07-18-WED

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