OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.197
- GEIDAI#2 -1


映画の見方がガラッと変わる瞬間
──『GEIDAI#2』その1



『Passion』©東京藝術大学
5/24-30 ユーロスペースにてレイトショー


おひさしぶりです。お元気でしたか?

さて今年も、
東京芸術大学大学院 映像研究科、
第二期生の修了制作展がおこなわれます。

昨年、「映画は、学べるのだろうか」なんて、
大胆なタイトルをつけて、
一期生のみなさんにお話を伺いましたね。
ぜひこちらも読んでみてください。

今年はどうなってるのかな~と思っていると、
めちゃくちゃグッドなタイミングで、
二期生監督の濱口竜介さんから、
「今年の僕らの作品も見に来てください!」
って熱いお手紙をいただきました。

さっそく試写を観させていただくと、
またもやビリビリ衝撃が走りました。
この人たちは、スゴイかも(かもって失礼な‥‥)!
でもまだ未知の部分も水の底に潜んでいて、
なにやら、恐ろしく大きなうねりを感じる凄さでした。

とくに手紙を下さった濱口監督の
『Passion』は、
「これは本当に学生さんの作品なの?」
っていうくらい完成度が高く、人間への洞察が深くて、
胸をつかまれる感じがしました。

同じく連名で手紙を下さった吉田雄一郎監督の
『second coming』は逆に、
完成されないおもしろさ、というのか、
どうなっていくかわからないけど、
なんだか突き動かされる恐ろしさがある…、
いい意味で、不穏なエネルギーを感じました。

というわけで、
いまユーロスペースでレイトショーされている
6作品の6監督のうち、
お手紙を下さった濱口さんと吉田さん。
それから、『Passion』のプロデューサーを務めた
藤井智さんも同席していただいて、
「なぜ映画を志したのか」とか、
修了作品にこめた想いなどを伺いました。
藝大受験をめざしている方も、必見です!

それでは、前編をお送りします。
インタビューした場所は、横浜、
映像研究科のある馬車道校舎のロビーの片隅でしたが、
旧富士銀行をリノベートしたレトロな空間で、
黒沢清教授も近くで学生さんと談笑してたり、
魅力的な環境にうっとりしました。


(藤井さん、濱口さん、吉田さん)

□でも、なぜ映画だったんですか?

── 映画監督って、
   考えてみると不思議な職業ですよね。
   どうやって暮してるんだろう‥‥なんて。

濱口 僕らも知りたい(笑)。
   引っ越しのバイトとかしてる人もいるって
   聞きますし‥‥。


── 全員がそんなに大変じゃないのかもしれないけど、
   でもどうしてそんなに大変な映画の世界に
   入っていこうと?
   志したきっかけなどはどんなだったんですか?

吉田 僕は映画美学校に通ってたんです。
   なぜ行ったかというと、昔から映画は好きで、
   大学は立教大学だったんですけど、
   そこは黒沢清さん、万田邦敏さん、
   蓮實重彦さんとか、錚々たるOBの方がいて、
   そういうのも大学を選ぶ基準になりました。
   で、映研(映画研究会)に入ろうかと
   思ったんだけど、コワイ先輩がいて
   やめました(笑)。
   でも4年生のときに、
   篠崎誠教授の授業で実習をやったんです。
   ビデオカメラを渡されて、
   自由に街中でワンカット撮ってくるという、
   それがとてもおもしろくて。
   で、そのときに観た自主映画が本当に
   おもしろくて、
   「それを作ったのが、
    どうして自分じゃなくて、彼らなんだろう」
   じつは映研の人たちが作ってたんですが。
   僕も作りたいと思ったのが、
   映画を志したきっかけだと思います。
   それまで自主映画って、
   もっとレベルの低いものだと思ってたのが、
   表現としてスゴイことをやっているんだなって。


── やっぱり映研に入っておけば‥‥。

吉田 いまだに後悔してるんです(笑)。
   どこで足を踏み間違えたんだろう。


濱口 僕も昔から映画が好きだったんだけど、
   テレビドラマも好きで。
   トレンディドラマが流行ってた世代なので、
   ドラマばっかり観てました。
   ドラマと映画の違いがよくわからない人間
   だったんです。


── 誰のドラマ?

濱口 野島伸司さん。

── あ~~、わかる!(濱口さんの映画の印象です)
   でもテレビに行こうと思わなかったんですか?

濱口 全然、その違いがわからなくて(笑)。
   でも大学に入って、
   映像を自分で作ってみたいと思って
   映研に入ると、やっぱり
   ハナモチならない人達がいるんですね(笑)。


── 濱口さんは東京大学なんですよね。
   専攻は何だったんですか?

濱口 文科3類っていうところでした。

── 東大の映研ってどんな‥‥?

濱口 中田秀夫さんとか、
   山田洋次さんがいたとかいないとか、
   あと、舩橋淳さん。
   恥ずかしながら、そのころ蓮實重彦さんのことを
   知らずに入って‥‥。


── 蓮實さんが学長のころですよね。

濱口 はい。入学式でスゴイ長い訓示があって。

吉田 噂のね、ニュースになりましたね。

濱口 “ハスミスト”と呼ばれるような人たちが
   最初は何を言ってるのか、僕にはわからなくて。
   「そんなものも観てないの?」
   みたいなプレッシャーが‥‥。
   じつはよく知ってみると、いい方々で、
   いまはおつきあいしてますが(笑)。

   まあ、そのときに、
   「本当にこの人たちが言ってることは正しいのか」
   と疑問を持って、映画を観るわけですよね。
   で、ある瞬間に、なにかが裏返る瞬間があって‥‥、
   本当だったんだ、と。


吉田 ありますよね。
   映画の見方がガラッと変わる瞬間が‥‥。


濱口 その瞬間に、
   映画ってこんなにおもしろいの?って、
   映画の世界に入ったわけです。
   チクショウと思って‥‥。


── 変わった瞬間を覚えていますか?

濱口 何段階かありますね。
   最初、ジョン・カサヴェテスの
   レトロスペクティブを
   ちょうど大学生のころにやってて。
   それを観たとき、
   「あ~映画って、人生より凄いかも」って。
   次に、ハワード・ホークスの
   『リオ・ブラボー』を観て、
   映画をちゃんと構築していくって、
   もの凄いことなんだなっていう、
   そういう思いが、ある日突然起こるんです。


── 吉田さんは?

吉田 相米慎二と増村保造ですね。
   高校生のとき、相米慎二が好きで、
   「相米慎二を観ている、知っている」
   っていうことが心の拠り所でしたね。
   いわゆるわかりやすい、
   言葉で納得できるようなものを
   描いたのではなくて、
   表現というものが、
   自分の考えや感情の「域」を広げてくれる
   ようなもの。
   「これは何だろう」って、
   わけのわからないもの、
   なにか巨大なものです。
   でも、いま自分の作ってるものは、
   驚くほど「なんでこんなに違うんだろう」
   って思うんですけど(笑)。


   つづく。

ぜひ、ユーロスペースのレイトショーにも
急いで足を運んでください。
黒沢清さんや、全部の作品の監督を迎えて
トークショーもあります。
詳細はこちらです。

ユーロスペース

次回は、それぞれの作品、
濱口さんの『Passion』、
吉田さんの『second coming』
のお話をうかがいます。

お楽しみに!

『GEIDAI#2』
東京藝術大学大学院映像研究科


Special thanks to Ryusuke Hamaguchi,
Yuichiro Yoshida and Satoshi Fujii.
All rights reserved.
Written and photo by(福嶋真砂代)

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2008-05-25-SUN
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