ピーコ |
わたし、高校を卒業して
大学に行こうとしてたけど、
父の病気とかいろんな事情で、
それが変わったんです。
昭和38年くらいのときに、
父は200万円くらい費用の要る病気になって。
それで、ああだこうだと
いろいろな当時の事情を聞きながら、
おすぎと私は2人で、
進学クラスから就職クラスに、
高校2年の3学期に変わっちゃうわけ。
親には内緒でね。
あとで親には当然わかっちゃって、
「大学に行け」と言われるんだけど、
お金がないのに大学に行って
アルバイトなんかするの、いやじゃない?
だから勤めに出ることになって。
9月くらいまで決まっちゃうでしょ、就職は。
横浜の市立の桜ヶ丘高校っていうところで、
その時の私の担任が
進学クラスの担任だったんだけど。
あそこの学校は入学した時の
合格の早いほうから、好き嫌い関係なく
早く通知してきた会社に
行かなくちゃいけなくって。
私の場合は、横浜トヨペットっていう
トヨペットの車の会社と、
明治生命っていうところの選択肢があった。
今考えると、どっちでもよかったんだけど、
先に明治生命が、来ていて・・・。
でも、その時、自動車部の顧問の先生は、
「これからはクルマだ!」って言っていて。
自動車の会社がいいって言われたから、
だから、何にも考えずに
クルマの会社に入っちゃったの。
入って、社内で「どの部署に行きたい?」
という面接があった時に、
「宣伝やってるところに行ってみたい」と言って。
そうしたら、
「高校から入ってきて、
体を使わない楽な仕事をしようとしているやつ」
とか言われて・・・。
もともとクルマに興味がないから
宣伝だってだめだったかもしれないけど、
まずその面接で、宣伝ということを
楽な仕事と思っているこの会社に
未来はないなと思った。
でもそのころの
一般のディーラーみたいなところの社長は、
わたしを見てそういうふうに思ったかもしれない。
その頃、体が、ウエストが58センチで。 |
糸井 |
へえ、細かったんだ。 |
ピーコ |
そう、バストもヒップも80なかったくらいでした。
それで、毎日コンテナで日通がトヨタから
トヨペット宛てに荷物を運んでくるのよ。
それが軽いので15キロくらい、
重いのになると90キロとか120キロとかのものを
高い荷台から下に下ろすわけね。
そのときに、コンテナから
ポンと落とすわけじゃないから
荷物を、荷台から担ぐじゃない?
麻袋のみたいなのを背中に乗っけて、
置くということを
6ヶ月やってるうちに、体を壊しちゃってね。
そこへ持ってきて、好きなら部品を覚えるけど、
わたしはそうではなかったじゃない?
フェンダーとかリアウィンドーとか
そういうことくらいは分かるけど、
「キャブレターの何番目のネジを持って来い」
って言われたって、キャブレターが
どこにあるのかさえわからないし、
ネジがどこにあるのかも、わかんない。
だいたい今でも、ビデオも再生は出来るけど
録画はできないというか、そういう人だから、
そこでは当然、成績も悪いし、倉庫でしょ?
冬が寒いし夏は暑いしという感じのところで、
体を壊しちゃって。 |
糸井 |
なるほどなあ。
あ・・・ところで、それって、
スコアブックをつけられる話だよね? |
ピーコ |
そうそう。
だって、そこまで言わないと
わかんない話だから。 |
糸井 |
そうなんだ。はい。ありがとね。 |
ピーコ |
それで、中途採用はあんまりよくないとか
言われていたけど、転職をしまして。 |
糸井 |
それ、何年くらいのこと? |
ピーコ |
昭和38年だから、1963年。 |
糸井 |
1963年、東京オリンピックの前の年だね。 |
ピーコ |
その次の64年の春、
オリンピックの年の4月に
サンヨーレインコートっていうところに
入社するわけです。 |
糸井 |
四谷の? |
ピーコ |
昔は神田にあったの。
えー。ずいぶん長い話だけど・・・。 |
糸井 |
いいよー。続けて欲しいもん。 |
ピーコ |
そこで高校卒業してすぐに
営業になる人は少なかったんだけど、
わたしは営業になっちゃうわけよ。
営業っていったって、やっぱり
おおきなダンボールを運ぶというか。
そのころ、ササールコートっていうのが
すごく売れていて。
ジャクリーヌ・ササールが
映画の中で着ていたものが、ものすごく売れてて。 |
糸井 |
ササール、黒い長い髪の女? |
ピーコ |
イタリーの。
『芽ばえ』とかそういうのに出てた。
それですごく売れてた会社でした。
で、ここからはすごく
オカマチックな会話なんだけど、
そのとき行ったらそこの会社は、
営業がみんなハンサムだったの。 |
糸井 |
(笑) |
ピーコ |
それはそこの専務の方針で、どういうわけか、
営業はデパートに入っていくから、
デパートには女の子の店員が多かったでしょ?
だから、ハンサムな人のほうが営業成績が上がるって。 |
糸井 |
そりゃ、そうだよねぇ。 |
ピーコ |
まあ、よくわかんないけど、
バカっていったらバカな話だけど。 |
糸井 |
(笑)いやいや、顔で効くんなら、
効くものは効かしたほうがいいでしょう。 |
ピーコ |
ハンサムったって、
性格の悪いのからバカからいるんだからさあ。 |
糸井 |
いや、でも、顔がよければ、
多少はゲタはいた状態なんじゃないの。 |
ピーコ |
そして入ったら、先輩にすごくステキな人がいたの。 |
糸井 |
(笑)ハンサムでステキ。 |
ピーコ |
うん、お金持ちで。
(つづく) |