ピーコ |
その営業に私がどうして入ったか
わかんないんだけど、そこにいる人は
みんなお金持ちだったの。
その頃に洋服業界っていうのは
横流しをする人がいたの。
洋服の会社からデパートに行く間に
商品がなくなっても、
「なくなった」ものは
そのまま「なくなった」ことにしておいて。 |
糸井 |
すごい時代だね。 |
ピーコ |
そう。
すごい時代だったんだけど、
だから、そんなことをしない人が
営業には必要でした。
そんなことをしなくてもお金があるような人が、
そこのところに配属されてた。
その当時、母が1人で子どもがいるとか、
親が片親だとかは普通の会社ではダメだったし、
めかけの子っていうのはどこでも採用されなかったの。
でもそこには、誰かお金持ちのめかけの子だとか、
それから大きな会社の次男、
長男が後を継いじゃうから
次男さんはどこかに、っていうような
人ばっかりがいたところだったの。 |
糸井 |
「ぼんぼん」が多かったわけね。 |
ピーコ |
だから、そこに入って6ヶ月間は、
わたしは、お昼ごはん、
自分のお金を出したことがなかった。 |
糸井 |
「おごるよぉ?」みたいな。 |
ピーコ |
そう。
その会社で最初に私と組んだ人は、
シャルマンっていう、
西川の次に大きい布団屋さんの社長の次男坊さんで、
慶応で水球をしていてそこに入った人で。
その人がなんで
そこに入ったかはよくわかんないんだけど、
それでその人はいつでもお昼になると、
何を食べるかというと、
その頃に13,500円の月給だった時に
500円くらいするお昼を食べてたんじゃないかな。 |
糸井 |
それは、高いよ。
今だと、5000円のお昼を食ってる感じだね。
10分の1だもん。すごいお金持ち。 |
ピーコ |
そうだよね。
それで初めて東京に出たから、
高校卒業して東京で仕事をする時、
何もかも珍しいから、
彼がどこでも連れてってくれる。
その頃、後楽園遊園地に、
きちがいねずみっていう『マッドマウス』が
来たばっかりの時で。 |
糸井 |
あったあった。 |
ピーコ |
その乗り物に乗せてやるとか、
別のところにある庭園に連れてってもらったり。
「どこ行きたい?」
「三島由紀夫がいつもシュークリームを食べてる」
って週刊誌に書いてあった、
六本木のアマンドに連れていって」
それでアマンドに連れて行ってくれたり。
そういうことをしてくれた先輩だったから。 |
糸井 |
年上だったんだね。 |
ピーコ |
私高校卒の年齢から1年経っていた時で、
彼らは大学卒の入社2年目だったから、
ちょうど私と四つ違ったかな。
私は日本橋の高島屋担当で、
その同期の男の人でステキだった人は
横浜の高島屋だったの。
それで、あとから分かったんだけど、
私の担当している婦人服売り場の
社員の女の人と恋人同士だったの。
そのステキだっていう彼とが。
だけど、その人のことを
わたしは好きになっちゃたわけだから、
その人とは、とにかくずっと一緒にいたい。 |
糸井 |
うん。 |
ピーコ |
だから、
商品に値札をつけていたりする時にも、
自分のところを早く終わらせて、
彼の値札やってるのを
手伝いとか何とかするわけ。 |
糸井 |
いい話だなぁ。 |
ピーコ |
彼は全然まったく女の人が好きで。
モテて、女にだらしないくらいに
いろいろな人にっていうくらいだったんだけど。
そして、そのうちに、
野球部を彼が立ち上げて。 |
糸井 |
(笑)出てきたねぇ!やっと野球が。 |
ピーコ |
そのときにずっといたいから
マネージャーになるわけよ。 |
糸井 |
・・・ああ、なんかちょっと、ほろりとくるね。 |
ピーコ |
ほろりとこないわよ。
ばかな話なんだけど、
それで洗濯をしたりお弁当したり、
前の日から泊まり込みなわけ、
朝しか試合をできないから。 |
糸井 |
へえ、そうだったんだ。 |
ピーコ |
そこでマネージャーをすると、
ずっと一緒にいられるわけでしょ。
不純っていったら不純ね。
野球をやったら、顔で
ボールを受けちゃうくらいだから、
キャッチボールの手伝いも出来ないわけ。
でもそのうちやってるうちに、
マネージャーなんだから、ということで、
少しずつ、完璧につけられるわけじゃないけど、
スコアラーに教わりながら、スコアを。
だから、野球のことはわかるのよ。 |
糸井 |
ほんと、おもしろいなあ。
長いけど、なかなか濃い話だね。 |
ピーコ |
それから高校のときは
バスケットの人を好きになって。
だから男を好きになると
バスケットのルールを覚えるとかいう。
自分ではそれを実践できないけど、
ルールとか、何をしたらうまい人なのか、
というようなことはとてもよくわかるから、
評論家には向いてるのかな(笑)。 |
糸井 |
人を好きになると、それを覚える・・・。
俺、それは、すごくよくわかるわ。
一緒に仕事をしたくなるわけでしょ?
仕事というか、作業というか、を。
(つづく) |