ピーコを、チェック。
杉浦克昭自伝的対談。

第23回 いまのチリチリした火の中で。


ピーコ わたしは、重里みたいに、
人から愛されてる自信、ないもん。
いろんな人を好きだけど、あ、そうだ、
会場のみんなも、愛されてる自信、ないでしょ?

はい、自信ある人、手ぇあげて!
・・・ほらね?
糸井 (笑)・・・誘導尋問だよ。
ピーコ (笑)まあ、でも、
4人ぐらいしかいなかったでしょ?
愛されてるっていうのが、ないのよ。
そういうところを持ってる人を、
わたしは好きだけど。

でも、やっぱ、さびしいのよ。
「さよならだけが人生だ」よ。

糸井 (笑)わはは、いきなりそんな言葉を。
ピーコ (笑)ふふふ。
糸井 でも、誰もが、安定しないで生きているから、
どこかで誰かが自分のことを考えている、
と思っていないと、生きていけないじゃない?
ピーコ そう?
いまの状況みたいな
世界の状態だと、たぶん若い人は、
いままで生きてきた中で、こんなに
心が不安になることはなかったと思う。

なんだか、小さなおき火みたいなもので
チリチリチリチリあおられている中で、
じゃあ、どうやって自分を持って
生きていこうというのを、
考えているんだと思う。

そういう時には、わたしは、
ありがたいことに、ほかの人よりは
いろんな仕事の中で、
自分はどうやってお話をしたり
生きていったらいいのか、ということを
考えざるをえなかったからね。
糸井 あ、思い出した。

ぼくがこの本を作るうえで
ピーコさんに話を聞いていて
おもしろかったのは、
「どういうのも、ありなんだ」
というのがわかったというか。

もともと、ピーコさんに
話を聞こうと思った動機というのが
あったんです。

みんな、
「ああいうのがよくない」
「こういうのがよくない」って、
ほんとによく言うじゃないですか。
でも、ピーコさんの場合は、
「いいかわるいかは、自分が決める」
っていう感じがあったから。
それを伝えたかったっていうのもありました。
ピーコ わたし、そんなにずうずうしく見えてた?
それ、おすぎじゃない?
糸井 (笑)でも、その自分で決めてる感じが、
気持ちよかったんですよ。

ピーコ 今日はそう言ってくれて
どうもありがとう。
そうやって言ってくれる人が
ひとりでもいるなんて、
ありがたいなあと思います。
ちょっと言葉につまっちゃったけど。
糸井 『ピーコ伝』は、
いい気になっていた時も、
ちゃんと考えている時も
ぜんぶ入ったまっぱだかの本なんだけど、
その間にたとえ失敗しても、ピーコさんは
いつも「あとがある」と思ってやってきたかな、
というように見えたんですね。
「みんなも、あとがあるのよ」って
言っているように見えた。
ピーコ それは、持続してるわけ?
インタビュー終わった瞬間に、
「なーんだ、ピーコってこの程度?」
ってなっちゃわないわけ?
糸井 持続してるよ。
まだまだだって感じもあるし。
よく物語で語ろうとする時は、
みんな、目の手術のことを
ピークに持っていこうとするでしょう?

でも、本を買った人はわかると思うけど、
もっと淡々とのりこえてるんだよね。
クライマックスをそこに置かないで、
もっと先のほうのことを考えてるから。

なんかね、若者の本みたいなの。
あの本を読んだあとに、
「さあ、これからどうなるの?
 ピーコさんとわたしの将来は」
みたいに思うんじゃないのかなあ。
ピーコ それはわたしの本質みたいなもんだけど、
手術をした本とか闘病記って、
出したくないの。
わたしは、目の病気って、
そんなに大変だとは思ってないから。
みんなは、目だから大変だと思うみたいだけど。

でも、好きなものは食べれるし、
目でよかったぐらいに考えているんです。
だから、ほかの人がガンになったと聞いたら、
ああ、わたしの目の時はああだったんだから、
たいへんだろうなあ、と思うわけ。

もっと言うと、
目は、もうひとつ失ったって大丈夫なの。

生きていると、
目って、80%ぐらいの情報量じゃない?
すごく目に頼ってると思うわけ。

だから、両目を失うとすごく自殺願望が
出るらしいけれども、わたしは、
それでも大丈夫かなあと思うところがありますね。

きっとわたし、ガンになる前は
あんまり目にばかり頼りすぎて
えらそうなことを言ってたので、
「目だけに頼っちゃいけないよ」と
神様がひとつなくしたのかもと思ったから。

そうすると目にあんまり頼らなくなった。

目を完全に失ったら、
見かけに惑わされることもないでしょ?

・・・今度は、触って気持ちいい男を
好きになるのかもしれないけど(笑)。
糸井 (笑)ふふふ。

2001-11-19-MON

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