ピーコ |
わたしもおすぎも、長いあいだ、
誰が話していてもおしのけて、
「だからね!だから!」
って自分の話をしてたんだけど、
このごろ、目を取ってから変わったの。
すごく感じのいいともだちが、
人の話をいつでも黙って聞いていて
出る時にはスッと出る・・・。
人の話を聞いていることのすごさっていうの?
ほんとうにすごい人は、人の話を聞いていて
自分がペラペラぺラぺラと
「・・・だから!」って
人の話を取っちゃうようなことはしない、
っていうことは、わかったわ。
聞き書きで聞いているわけじゃない?
ずっとわたしの話を。
それが、うれしかったけど。 |
糸井 |
ああ、そうか。 |
ピーコ |
わたしなんかの場合、
相手の話がまだるっこしかったり
相手がしゃべりたくないと思っているなら
もう、ひとりでベラベラベラベラ、
ものすごく早口でしゃべっていて、
「これも楽しい!」
「あれも楽しいのよ!」
「これもおいしいのよ!」
それで、おいしいって言わなかったら、
もう、クチの中に流しこんじゃうっていう。 |
糸井 |
(笑)わははは。
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ピーコ |
そういう生き方をしてきたわけよ。 |
糸井 |
「埋め尽くしてきた」わけね。 |
ピーコ |
そう。
それがなくなってきた。
人の話って、どんな人の話でも
聞かなきゃいけないなって思うようになってきた。
だからこのごろわたしの出てるテレビ見てても、
人の話、きいてるでしょ?
聞かなきゃ、何だかわからないもの。
それはね、ほめてやりたい自分を、フフフ。 |
糸井 |
(笑)ふふふ。
浪花節みたいな物語を
好きな人は、『ピーコ伝』を
ものたりないんじゃないかとさえ思う。
ぼくは、いまのカタチの
『ピーコ伝』が、おもしろいんだけど。
そこのところは、
ウワーッともりあげるような
まとめかたをしたほうが、
騒がれるのかもしれなかったけれども。 |
ピーコ |
プラトニック・セックスみたいに? |
糸井 |
いやぁ、その場合は、
タイトルからしてそうだから。
でも、ピーコさんはそういう人じゃないもん。
だから、『ピーコ伝』は、
最後までずうっと読んでだあとに
「さあ、これから、
わたしとこのピーコさんは、
どういう過ごし方をしていくんだろう?」
と思える、「はじまりの本」みたいな
作り方をしようと、どこかで決めたんですね。 |
ピーコ |
本になって読んでみると
「あら、こんなこと言ってたっけ?」
って、クチに出したことはおそろしいもので、
すぐに忘れてしまうんだけど。
・・・でも、読んでみると、
やっぱり「わたし」が書かれていますよ。
だから、恥ずかしいと思うわね。
ただ、読んだ人が、
わたしと考えが
ぜんぶおなじではないでしょうけど、
「あ、ここはわたしとおんなじだ」
「ここも似てるわね」
っていうのが、ありそうな気がしない? |
糸井 |
ぼくは女性じゃないから、
女性の気持ちはほんとうのところは
わからないんだけれども、
でも読んでいて、
「あ、この場所、俺が女だったら
これ言われて、助かったなあ」
と思えるところが、いくつもあったよ。 |
ピーコ |
そう? |
糸井 |
うん。
ピーコさんの話を聞いていると、
ところどころに
「しつけ糸」が見えるんですよ。
・・・あ、ぼくはもともと、
しつけとか縛りとかは、
なければないほどいいとは思うんだけど。
でも、それでも、最低限の
これだけは守りなさい、ということも
ないままだと、何ていうのかなぁ、
「好きなことは何でもしていいよ」の
自由の重さみたいなものに
耐えられなくなっていく、
というような気がするんですね。
いまの若い人たちがつらいのって、
そこじゃないかなあと思っているから。
だからピーコさんの「しつけ糸」は
気持ちよく読めるんじゃないでしょうか。 |
ピーコ |
それは、言えるかもしれないね。
わたしには、長い間、
束縛するものがあったから。
家族やからだの悪い姉を、
わたしはずっと診てきましたからね。
おすぎは早くから独立してたけれども。
ふつうの人よりは、ずっと長く
家族と一緒に暮らしていたんじゃないかしら。
そのうえ、母が料理も掃除も洗濯も
大好きだという家庭だったから、
料理を自分でするようになったのも、最近よ?
掃除をこのぐらいしないと
ごみがたまってくるとか、
洗濯は細かくやると水がもったいないから、
2日ぐらいまとめてやろう、とか。
それまでは、ガスで火もつけられなかった。
ぜんぶ、うちは、
母親と姉がやっていたから。 |
糸井 |
実はけっこう、パラサイトしてたんだ?
自分で扶養しながらの、パラサイト。
「ありとありまき」みたいな。 |
ピーコ |
ふふふ。 |
糸井 |
・・・「ワニとワニドリ」みたいな。 |
ピーコ |
おなじ例は、もういいわよ!(笑)
・・・でも、「しつけ糸」の話は、
当たってるかもしれないわね。
母が家事好きだったから、
それはうつるようになったわね。
40歳過ぎてからひとりで暮らしてるけど、
母の姿を見てきているから、
ぜんぶ自分でやらないと、わたしも
気がすまないわけじゃない?
だから、お料理も掃除もお洗濯も、
40歳過ぎてからだけど、
ぜんぶできるようになって。
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