ピーコを、チェック。
杉浦克昭自伝的対談。

第24回 「しつけ糸」が見えるんですよ。


ピーコ わたしもおすぎも、長いあいだ、
誰が話していてもおしのけて、
「だからね!だから!」
って自分の話をしてたんだけど、
このごろ、目を取ってから変わったの。

すごく感じのいいともだちが、
人の話をいつでも黙って聞いていて
出る時にはスッと出る・・・。
人の話を聞いていることのすごさっていうの?
ほんとうにすごい人は、人の話を聞いていて
自分がペラペラぺラぺラと
「・・・だから!」って
人の話を取っちゃうようなことはしない、
っていうことは、わかったわ。

聞き書きで聞いているわけじゃない?
ずっとわたしの話を。
それが、うれしかったけど。
糸井 ああ、そうか。
ピーコ わたしなんかの場合、
相手の話がまだるっこしかったり
相手がしゃべりたくないと思っているなら
もう、ひとりでベラベラベラベラ、
ものすごく早口でしゃべっていて、
「これも楽しい!」
「あれも楽しいのよ!」
「これもおいしいのよ!」
それで、おいしいって言わなかったら、
もう、クチの中に流しこんじゃうっていう。
糸井 (笑)わははは。

ピーコ そういう生き方をしてきたわけよ。
糸井 「埋め尽くしてきた」わけね。
ピーコ そう。
それがなくなってきた。
人の話って、どんな人の話でも
聞かなきゃいけないなって思うようになってきた。
だからこのごろわたしの出てるテレビ見てても、
人の話、きいてるでしょ?
聞かなきゃ、何だかわからないもの。
それはね、ほめてやりたい自分を、フフフ。
糸井 (笑)ふふふ。

浪花節みたいな物語を
好きな人は、『ピーコ伝』を
ものたりないんじゃないかとさえ思う。
ぼくは、いまのカタチの
『ピーコ伝』が、おもしろいんだけど。

そこのところは、
ウワーッともりあげるような
まとめかたをしたほうが、
騒がれるのかもしれなかったけれども。
ピーコ プラトニック・セックスみたいに?
糸井 いやぁ、その場合は、
タイトルからしてそうだから。

でも、ピーコさんはそういう人じゃないもん。
だから、『ピーコ伝』は、
最後までずうっと読んでだあとに
「さあ、これから、
 わたしとこのピーコさんは、
 どういう過ごし方をしていくんだろう?」
と思える、「はじまりの本」みたいな
作り方をしようと、どこかで決めたんですね。
ピーコ 本になって読んでみると
「あら、こんなこと言ってたっけ?」
って、クチに出したことはおそろしいもので、
すぐに忘れてしまうんだけど。
・・・でも、読んでみると、
やっぱり「わたし」が書かれていますよ。
だから、恥ずかしいと思うわね。

ただ、読んだ人が、
わたしと考えが
ぜんぶおなじではないでしょうけど、
「あ、ここはわたしとおんなじだ」
「ここも似てるわね」
っていうのが、ありそうな気がしない?
糸井 ぼくは女性じゃないから、
女性の気持ちはほんとうのところは
わからないんだけれども、
でも読んでいて、
「あ、この場所、俺が女だったら
 これ言われて、助かったなあ」
と思えるところが、いくつもあったよ。
ピーコ そう?
糸井 うん。
ピーコさんの話を聞いていると、
ところどころに
「しつけ糸」が見えるんですよ。



・・・あ、ぼくはもともと、
しつけとか縛りとかは、
なければないほどいいとは思うんだけど。

でも、それでも、最低限の
これだけは守りなさい、ということも
ないままだと、何ていうのかなぁ、
「好きなことは何でもしていいよ」の
自由の重さみたいなものに
耐えられなくなっていく、
というような気がするんですね。

いまの若い人たちがつらいのって、
そこじゃないかなあと思っているから。
だからピーコさんの「しつけ糸」は
気持ちよく読めるんじゃないでしょうか。
ピーコ それは、言えるかもしれないね。
わたしには、長い間、
束縛するものがあったから。
家族やからだの悪い姉を、
わたしはずっと診てきましたからね。
おすぎは早くから独立してたけれども。

ふつうの人よりは、ずっと長く
家族と一緒に暮らしていたんじゃないかしら。
そのうえ、母が料理も掃除も洗濯も
大好きだという家庭だったから、
料理を自分でするようになったのも、最近よ?

掃除をこのぐらいしないと
ごみがたまってくるとか、
洗濯は細かくやると水がもったいないから、
2日ぐらいまとめてやろう、とか。
それまでは、ガスで火もつけられなかった。

ぜんぶ、うちは、
母親と姉がやっていたから。
糸井 実はけっこう、パラサイトしてたんだ?
自分で扶養しながらの、パラサイト。
「ありとありまき」みたいな。
ピーコ ふふふ。
糸井 ・・・「ワニとワニドリ」みたいな。
ピーコ おなじ例は、もういいわよ!(笑)

・・・でも、「しつけ糸」の話は、
当たってるかもしれないわね。

母が家事好きだったから、
それはうつるようになったわね。
40歳過ぎてからひとりで暮らしてるけど、
母の姿を見てきているから、
ぜんぶ自分でやらないと、わたしも
気がすまないわけじゃない?

だから、お料理も掃除もお洗濯も、
40歳過ぎてからだけど、
ぜんぶできるようになって。

2001-11-20-TUE

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