ピーコ |
40歳過ぎて、ひとり暮らしをしてからなのよ?
わたしが、自分の過ごしたいような
生活をしはじめたのって。 |
糸井 |
へぇ。
ひとり暮らし、40歳過ぎてからなんだ? |
ピーコ |
そうよ。
わたしはオカマだから、好みがあるじゃない?
たとえば、007の「ロシアより愛をこめて」を
若い時に見たんだけど、あそこで、
ショーンコネリーが女とやる時に、
毛皮の毛布をかけるのね。
それで、シャンパンをあける。
ひとりになるまでは
そういう生活はしなかったけど、
いまは、そういうことをしているわね。
「グラスはぜんぶバカラでそろえたい」とか。
お料理を載せるものは、伊万里にしたい・・・
そういう考えが、ずっとあったんだけど、
ようやく、叶うようになってきたわね。
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糸井 |
「こうしたかったな」
っていう時のバランスの取り方もいいけど、
ぼくは、ピーコさんの話を長く聞いていて、
「あ、こういうふうになったのって、
ちっちゃい頃の親のおかげだなぁ」
っていうしつけ糸が、
常に見えていたような気がしたんです。 |
ピーコ |
それは、そうね。
呪縛から離れられない、っていうことも
あったのかもしれないけれども。
食べ物の好みにしても、
本の読み方にしても、それはあるけど。 |
糸井 |
ピーコさんの言っていることって、
「オカマの言ってること」というよりは
ある意味、おじいさんやおばあさんの
言っていることに近いようなところがあって。
それって、親がずうっと、
「この子には、ここのところだけは、
絶対に守ってほしい」と思いつづけて、
はりつけたものが、はがれないで
残っていたんじゃないでしょうか。
ぼくは、だから読んでほしいところって、
そうやって一生懸命はりつけたものの
コスト、みたいな・・・。 |
ピーコ |
もちろん、そういう親はいて、
ありがたいことに、
「オカマの言葉を直しなさい」
と言われたことも一度もないし、
きっと男を好きなことを
しってたと思うけど、そのことも
別に叱らずにいてくれた。
女の子みたいだと
母は近所に言われただろうけど、
そのままでいてくれたし、
父親もこわい人だったけど
わたしたちが何をしようが
だまっていてくれた。
「何の仕事につきなさい」とか
「はやくきちんとしなさい」とも
言われなかったし。 |
糸井 |
父親は、絵はがきをくれるんですよね?
出張先から、小さい頃のピーコさんに。
「こういうのを見たよ」という
風景の絵はがきが、一枚一枚たまっていって、
それを見ながら、小さいきたないオカマだった
ピーコさんが育っていったのは、
聞いていてじーんとしましたよ。 |
ピーコ |
あんた!
・・・その頃のわたしは
「きたないオカマ」じゃなかったわよぉ。
ちいさかったんだから、きたなくないわ。
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糸井 |
はい(笑)。
じゃあ、「自称かわいいオカマ」だった
ピーコさんが、その絵はがきを受け取ると。
たった一枚は、20円30円の、
それほど高くはないものですよ。
でも、ものの高価さよりも
そこに書いてくれる父の気持ちに
何かを思って見ていたというところが、
いまのピーコさんのおおもとだと、
ぼくには見えているんです。 |
ピーコ |
親はそういうつもりで
はがきを出したんでしょうね。
お金の価値というよりは、
どこかに行ったなら、その体験の上で
話してくれる話ってのが、あるじゃない?
そういう親にあえたことは、しあわせだけど。 |
糸井 |
出張先から毎回絵はがきを送るほうが、
値段でわかるものよりもコストが高くて、
手間と心が入っているんだよ。
それは、並じゃないと思う。 |
ピーコ |
まあ、でも、当時は
お金もなかったんだけどね。
その行為をつづけてくれた父がいたことは、
ありがたいと思うんだけど。
何てったって、最近じゃあ
子どものような親が多いから。
そういう当たり前のことを
やってくれたんだよね。 |
糸井 |
時間と手間のかかる
当たり前のことって、
なかなかできないんですよ。
ぼくのことで言うと、
「香港でサンタクロースを見た」
っていう手紙を子どもに書いたりして、
ちょっとずつウソを積み重ねていって、
「あれはサンタクロースだったのかなぁ」
なんて悩みながら、子どもに
「それはパパ、サンタクロースだよ!」
って言わせるところまで持っていったりとか、
時間のかかる遊びを散々してたんだけど。 |
ピーコ |
(笑)・・・あんた!
もう、自分でそういう本書きなさい! |
糸井 |
でも、子どもを相手にするのって、
すごい時間もかかるし手間もかかるし。
・・・「たいへんだ」と思うと
できないことなんだけど。
ただ、ピーコさんの話を聞いていると、
両親が、大切な着物をぬうように、
育てたんだなあと思って。 |
ピーコ |
まあ、子どもだと扱われたことはないわね。
わかりやすい本をもらったこともなくて、
いつでもおとなの本を読んでいたし。 |