ピーコを、チェック。
杉浦克昭自伝的対談。

第31回 「おかあさん」について。


ピーコ あんた、いま、イチローのことを
一生懸命、丁寧にしゃべってたけど・・・。
わたしだいたい、イチローがキライなのよ?
糸井 (笑)スポーツマンのことを
俺が例に出すと、だいたいこの人、
「キライ」って言うんだよなぁ。
ピーコ わたしは、
ニューヨークに行った人のほうが好き。
みんなが悪口言って、
「あんな振り方もダメだよ」
って言われてるけど、
通じてるんだからいいじゃん。

なんだか知らないけど、
もう、求道者みたいに、常に
「野球野球野球野球・・・」って、
「打ったタマの転がしかたがどうだ」
とか考えて、若いのにヒゲはやしてさ、
インタビューをされると
皇室の人みたいに話して・・・。
どういうんだろう、って思うわよ?
糸井 (笑)俺はイチローが好きなんですよぉ。
ガンダムとかを好きなように好きなんです!

・・・まぁ、その話は別にしましょうか。
永六輔さんがやってくれた
「ピーコさんの育てかた」
って、父親だと思うんですよ。
「こうするといいよ」って丁寧に育てたでしょ。

だけど、ピーコさんの相手への接し方って、
ちょっと違うと思うんです。
「結果が出ても出なくても、あなたを愛します」
みたいな、そこが「おかあさん」と言うか。
ピーコ まあ、そうね。
「好き」っていうことは、
伝えることにしているわ。
だて、気持ち悪いじゃない、言わないと。
糸井 (笑)
ピーコ その人がどう考えるかは、知らないの。
糸井 「ボクはキライです」と言われたら?
ピーコ 「あら、そう、よかったわね」って。
糸井 ふふふ(笑)。
ピーコ ほら、例えばわたしが、
「好きじゃない」と言われても
重里のことをものすごく好きになっちゃったら、
もう、あなたのおうちを、
崩壊させなきゃいけないわけじゃない?
糸井 (笑)うわぁ!
ピーコ わたしって、あなたにとって
すごく魅力的だと思うのよ。
・・・自分にない魅力があるでしょ?
糸井 (笑)「でしょ?」って
そんなに強く言えるのがすごい。
ピーコ だから本なんて作ろうと思ったじゃない。
でも、わたしには、あなたに
わたしにない魅力があるかって言ったら、
それはないのよ。だから、いいじゃない。
糸井 (笑)
ピーコ ごめんなさい?
糸井 (笑)はいはい、わかったよ。なるほどね。
ピーコ もう、誰にも愛されなくてもいいと思う。
糸井 ・・・おかあさん!
(※『しっかりして!』みたいな口調で)
ピーコ あ、そうだ。この会場の中で、
おかあさんに向かって、好きだとか
愛してるだとか直接言ったことのある人、
手をあげてみて?

(会場の手を挙げてる人を見て)
・・・そうね、年とってから言うわよね。
糸井 (笑)こらこら!
ピーコ ごめんなさい?
でも、若い時は言わないわよね。
ある程度、年をとると言える。

わたし、いま
いちばん会いたいのが母親なのね。
糸井 へぇ。
ピーコ 涙出てくるもん、このごろ。
「会いたい」って、すごく思う。
ホモの子どもを持っちゃった親でしょ。

あのね、ゲイの子どもって、
おかあさんに告白ができないの。
世間にカミングアウトすることよりも、
おかあさんにカミングアウトすることがイヤなの。
おかあさんが、いやがるから。

こんなに女の人って、
美川憲一とかわたしをよろこぶのに、
自分の子どもがホモだと
気が狂っちゃいそうになるの。

そういうことを思うと、
うちの母はそんなこと言わなかったけど、
もうすこしおとなになってから、言いたかった。
「あなたはそう育って、
 明治42年に生まれてわたしたちを育てて、
 でも、わたしたちのような子どもを持って
 しあわせだったでしょ」って。
 
どうやって、母として女として、
どうやって満足だったのか、それとも
ちょっと悔しかったのか、それを
聞いてみたかったという気持ちはあるの。
・・・わたしたちが36歳の時に死んだのよ?
糸井 あぁ。
ピーコ 36年も顔をつきあわせていたのに
いっさい聞かないで、そのままの状態で
母をなくしてしまったことに、
わたしは、自分がおろかだったなと思う。
糸井 それでよかった、という気持ちはないの?
ピーコ いまゲイの人たちに
いろいろ言ってあげられることがあるとしたら、
「母親ってこう考えてるのよ」とか、
「うちの母親に話した時には
 こういうふうに反応したわよ」とか、
伝えてあげられることがあるとしたら、
すこしは気持ちをやわらげてあげられるじゃない。
糸井 あー。
そういう考え方も、あるね。


(つづきます)

2001-11-29-THU

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